【読書録】ファントムの病棟 知念実希人

この本はずっと気になっていた。が、いかんせん長いシリーズ物だったため手を出しあぐねていたものだった。しかし、OT(作業療法士)の方からお借りすることが出来たので、巻数など気にせずざっくばらんに読んでいこうよ!の1冊目である。

あらすじ
2本の短編と、1本の中編で構成されています。短身痩躯な、ある少年に言わせれば「子供の先生」こと、天久鷹央。職業は医者。統括診断部の部長さんです!物語は、その部下、小鳥遊という男(こちらも医者!)の語りで流れていきます。3編通して、この2人のペアが病気や病院、患者を取り巻く'うわさ'を解決、診断!していく物語です!



さて、ここからはネタバレありの感想だ。

Karte01甘い毒
これは、割と現実味の強い話だと感じた。
トラック運転手で会社の社長とウマが合わずストレスから太ってしまった父。そんな父が心配で声をかけるも、もう自分の声は届かないんだと半ば絶望していそう、でも夫には逆らえない母。そんな二人を見て、お父さんが痩せればまた前みたいに、そう思っていそうな娘。そして、そこに転がる農薬混入事件。
ただ、私が一点悲しいなと思ったのは、自分のプライドのためかなんだか知らないが、天久に意地の悪いことを言ったりしたりした挙句、患者を退院してすぐに倒れさせるシーンだ。検査に何も異常がなかったら、患者の妄言だと言ってしまえるのも、そうしてしまったこれまでのキャリアもすごく物悲しいなと思った。

Karte02 吸血鬼症候群
これは、この3編の中でもっともファンタジーやフィクションを感じた。それは、1人の看護師がこんなに1人の患者に思い入れて看護をしているという点、その1点の疑念すら納得させられる理由に、だ。
仕方ない。どうしようもない。
そういう時に、物語はどうにかなる。それがどうしようもなく嬉しく悲しくくるしい。
本を読んでいる間は、良かったねと本当に思っていた。しかし、上記の感想を書こうと筆を撮った瞬間悲しみ疑念苦しいという気持ちになった。
きっとどちらも正しい感想で、現実にもこう言うことはたくさんある。分かっていてもその比率にどうしても悲しくなる。そんな読後だ。


Karte03  天使の舞い降りる夜
これも、少し視点がズレている感想になると思うが許して欲しい。それは、絵本を破られたという悪戯にもっと怒り心頭にならないものかというところだ。私だったら、というか彼らと同じ年齢の私でも、お気に入りの本を破られたら怒り狂うと思う。それほど、お気に入りの絵本は大切だ。これは蛇足だが、私なんかは2冊同じ本を所有しているくらい大切な本だ。
それが、贖罪のために利用されたから許される(そこまで描写されない)というポイントにご立腹なのだ、私は。
これは、私の推しからの受け売りになるのだが
「弱さは強さにもなり得る。弱さが強さをくじくことがあってはならない。」
この言葉を思い出した。
確かに悪ガキ3人も入院中で、とても苦しく頑張っている生活を送っているのは想像が簡単だ。しかし、その背景が弱さであったとしても、誰かを傷つけたり、物を壊したり、ましてや人のものを壊したりは見過ごしていいものでは無かったと思う。どれだけ上手くやられたとしてもだ。
子どもと言えどもう考えられる年齢である。
だから、彼らは事情を知って償いをしようとしたし、それを続けたし、謝る時に泣いていたんだと思う。だから、どうか、彼らが今後もう人を傷つける回数が少なければ少ないほど嬉しいなと23歳女は思う。
小児科入院病棟とは、明日を生きたかった顔見知りやともだちの分も強くなれる、医者や医療従事者や家族や知り合いみんな。そんな不思議な力を持つ場所だと私はいつも思う。

いいなと思ったら応援しよう!