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啓蟄。

 札幌の実家で仕事の電話を受けていたらフスマの敷居に八本足の小さな黒いモノが見えた。「ひやああああ」。電話の相手は驚いていたが、もう気もそぞろである。そいつはもう干からびているようだったけど、母を呼んで取ってもらった。いい年をして年老いた母にクモを取らせる。母強し。

 3月から4月上旬。札幌の街はドロドロになる。今夜も雨が降っているが雪解けはさらにすすむ。滑り止めの砂が道路脇にかたまり、水たまりの泥水がフクラハギや春のコートに跳ねる。がっかりだ。入学式。ワクワクした思いよりも慣れない緊張、似合わない制服、ほこりっぽい空気がなんだか嫌な記憶として残っている。

 とても大きなオトナになり、エゾアカガエルやニホンアマガエル、エゾサンショウウオの卵塊を探しに森へ入るようになった。川には雪解け中の雪庇から小さなツララがキラキラし、泥の合間に福寿草の黄色が映える。なぜか春を探すと黄色が目にとまる。そのうち、なぜか苦いものが食べたくなる。フキノトウの味噌が食べたい。冬眠明けのクマと一緒だ。苦い物で冬の毒出し。

 見る場所が増えると北国のグレーの春も楽しくなる。これも経験値か。加齢も悪いことじゃないんだなあ。

春が来てよかったな。

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