すべて、お見通し。
あんなに品不足だったタマゴが普通に買えるようになった。なかなかの激戦区だった行きつけのコンビニでもMサイズ10個パックを手に入れることができた。久しぶりのことだ(それでもまだLサイズは売ってなかったけれど)。
冷蔵庫に入れようとパッケージを見ると何か書いてある。このプラスチックの卵ケースをコンビニに持参すればBoxテイッシュプレゼント、的な。
いつもならプラごみ直行なのだが、そうか。
10個はあっという間に消費され、空の卵ケースは玄関に鎮座する。今度コンビニに行く時に持っていくこと。
数日経過。何度かコンビニから帰ってきて「ああ!」と玄関で卵ケースのポコポコした姿と目が合ってがっかり。
やっと忘れることなくエコバッグに空のケースを忍ばせてコンビニに行けたのは何日後だったのか。買い物カゴにいくつかレギュラーメンバーを入れてレジに並ぶ。卵ケースをどのタイミングで出すか、ドキドキする。決してBOXティッシュ目的というわけではありませんよ顔の練習。でもエコバッグは少し大きめの物を持ってきている。
さあ、出番だ。ドキドキしていつもスッと出せるメンバーズカードのアプリを出し忘れていた。「ああ、アプリあります」
レジのピッとともにバッグに購入品を詰めつつ、空のケースを出せるようにセット。会計も無事ピピっと。いよいよだ。
「あのこれ。回収…」。傘を差し出すカンタか!の恥じらいとともにケースを手渡してしまった。はじめてのおつかいよりひどい(観たことはない)。
すると、いろいろ察したらしい店員さんが「こちら、30個でBOXティッシュを差し上げているんですが…」と、お気の毒顔で説明してくれた。こちとら、たったの一個を誇らしげに渡しているという図。
ここからは走馬灯時間で進んでいく。決してサトラレてはいけない。そもそもティッシュが欲しかったわけじゃないもん。リサイクルしてほしいだけなんだもん。でももらえたら嬉しかったけど。でも、でも、決してサトラレてはならぬ。
ならぬ、とトゥーランドットが流れるまで0.5秒。すかさず、「回収はしていただけるんですよね」とスンとした顔で姿勢を正した。
「え、はい」と感じ良く返事してポロンと一個だけの卵ケースを受け取ってくれた店員さん、きっとすべてお見通し。
と、ここまで書いて思い出したことがある。
二十歳前後の頃、初めての市民プールに行った。ひとりで。水着に着替えて、プールはここかな?と開けたドアから一歩出ると、売店のある待ち合いのような場所に出てしまった。
今思えば「若さゆえ」を前面に出して「きゃっ!」とか言って戻ればよかったんだけど、体型は変わってもあの頃から中身は変わらぬワタクシ。また走馬灯時間で頭を巡らせ、最善を求めてしまっていた。とった行動はこうだ。
水着姿でこんなところに出てきてしまっていますが、承知の介でございますよ。そうそう、ゴーグルを忘れてしまって買いに来ているの図でございますよ。
と、水着であえて売店の周囲をランウエイのごとくウォーキング。「あー、ないか」みたいなつぶやきを残しつつ、ゆうゆうと元のドアまで焦ることなく歩いていった……ように見せたかった。
おそらく、売店周辺に座っていた方々(記憶ではけっこうな人数が座っていた)には「あの子間違えたな」とバレていたにちがいない。だって、「間違えましたね」って顔をしていたから。
いまだにフラッシュバックしては赤面する記憶だ。
たいてい、すべてお見通しなのだから、取り繕わなくていいのにねえ。
それでもきっと次回もスンとした顔で「何かありました?」を演じてしまうのだ。