【小説】[3]電話(『僕のファーストテイク』)

スッと体が動き、スマホに手が伸びた。間もなく職場に電話が繋がる時間だ。スヌーズにしていたアラームが何度も鳴り響く中でも動かなかった体。脚気検査や熱いものに反応する"反射"のような動きだった。

自分の意思とは違う動きに、また気持ち悪さを覚えた。
(誰だよ……この体を動かしてるの)

起きないと、とは思ってたが……。この状況の対処法を知らない僕は困惑していた。

動いたのはその一瞬。スマホを手に持ち、震える手を眺めている自分がいた。

(どうしろっていうんだよ……)


体を動かしてるのは自分ではない。それだけは確信していた。横向きになっていた体を再び仰向けに戻し、スマホを胸の上に置いた。胸の鼓動は早い。だが、呼吸の荒さは、"今日"は無かった。

まだ始業時間にはなっていない。だが、すでに職場に連絡すれば繋がる時間にはなっていた。残りおよそ20分。時間の進みが早い。


……考えることを止め、手だけ動かした。

『ーー〇〇株式会社✕✕部の△△です』

聞き覚えのある名前と声だったが、この会社でこうした連絡を入れるのが初めてだったこともあり、繋がりはしたが、どうしていいかわからなかった。ただ、息遣いだけが相手に届いていたのが確認できた。

『どちら様しょうか?落ち着いてからでいいですよ』


僕はゆっくりと深呼吸をして、部署名と名前を伝えた。

『○✕部の西村さんですね。とてもキツそうに聞こえますが大丈夫ですか?』

想定していなかった反応だったことも相まってか、急に涙が溢れ出してきた。


『ーーお大事になさってください』

こうして無事、休みの連絡を終えることができた。通話時間は2分足らず。しかし、僕にはもっと長い時間やり取りをしたように感じた。


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