【好きなもの】Kaede Higuchi 1st Live "KANA-DERO"

 にじさんじ所属のバーチャルライバー・樋口楓による1stライブ。
 ご覧になりましたか?
 ご覧になりましたね? では、話していきます。なお、意味を混同しそうなので、今回の記事では「ライブ」は演奏会・公演の意で用い、普段行っているライブを「配信」と称します。

 最高だったのは敢えて言うまでもありません。感想については十分述べられていると思うので、今回は、私がこのライブを見て何を感じ何を考えたのか。少し込み入った視点で語ろうと思います。
 が、基本的に語る内容は「命に嫌われている。」をメインに据えます。今回のライブの目玉と言っても良いでしょう。樋口楓と月ノ美兎による「命に嫌われている。」デュエット。これまで何度かその配信で自らの死生観について語ってきたこの二人が、生き方と死についてのメッセージ性の強い歌を歌ったことがにじさんじ界隈に大きなインパクトを与えました。個人的には、樋口楓の人生の最高到達点なのではないかと思っています。
 では参りましょう。キーワードは「関係」と「物語」です。

――ファンとの関係。ライブというエンタメ。その極致。

 まず、バーチャルライバーはアイドルや歌手といった芸能人よりもファンとの距離が近いということは皆さんもご存知かと思います。普段の活動が、配信という「日常生活の延長を見せること」なので、私たちファンは彼女たちの人柄や性格、趣味、好きなもの、果ては友人との関わり方や死生観まで知っています。この「ファンとの距離が近い。ただ、近いと言ってもあくまで他人の距離」というのが絶妙なんですね。これが1つ目のポイント。
 そして歌というのは、ファジィな要素が強いエンタメなんですよね。歌詞に関しても普段使っている言葉と違ってその意味するところを広く持たせていて解釈が様々あり、流れる楽曲のイメージや、歌い方で感情をつけられる部分もある。いろんな要素を使って、ものすごく濃い情報をファジィなまま伝えられる。それが歌というエンターテイメントなんです。それを存分に発揮する「ライブ」という環境。これが2つ目のポイント。
 これら2つが組み合わさったときに何が起きるか、それが今回の「命に嫌われている。」のポイントです。

「この曲を聴いてどんな感情になるのかを想像できるくらいに、彼女たちを知っている」
 これが第一の段階。歌にあるファジィな部分の補完ができるんです。ただ情報としての音と歌詞を聞くのではなく、「その曲を聞いてどんな気持ちになり、どんなところを練習して、今どんな思いを乗せて歌っているのか」が想像できることによって、聞いている歌の情報量は数倍に膨れ上がります。彼女たちの感情そのものをぶつけられるかのようなそれは、まさに極上のエンターテイメントでした。そして、それを越えてくる部分があります。

「知っているはずの彼女たちの、今まで知らなかった部分が見える」
 これが、今回の「命に嫌われている。」で最も強かった部分です。意外性。そもそもVライバーはその在り方から、生と死に触れること自体が半分タブーのようなもので、ファンとしてもそこに強く踏み込むことはしない。それが暗黙の了解なのです。そこにあえて強く踏み込んできたこと(「命に嫌われている。」という選曲)自体が私たちの想像を超えた樋口楓の一面ですし、それだけの想いをこのライブにかけているのだとその時にようやく気付きます。
 さらには隣の月ノ美兎です。この歌を歌っている間、普段の雰囲気など欠片もありませんでした。ほんの少し前、登場後のフリートークで「えへへ」と笑っていた明るく楽しいサブカルオタ委員長はどこにもいません。目線も上げず、体も大きく動かさず、普段あまり表に出していない感情を乗せながら、息が詰まるような声で必死に歌っている1人の女の子がそこにいました。

「自分が今感じていた感情が、実際彼女たちが抱えているものの何分の一なのか」
 それを考えたとき、彼女たちの感情が自分の想像よりはるかに大きいものなのだと理解します。これが「命に嫌われている。」の演奏中に行われた一連の感情の動きです。これに耐えうるだけの心の量を持つ人は多くなかったと思います。滂沱です滂沱。月ノ美兎の退場など、最後の一押しににもほどがあります。殺す気か! 生きる!
 そしておそらくは、これを狙って演出したであろう演出家・樋口楓の手腕に恐ろしいものを感じます。

――物語の一番新しいページ。

 これだけの感動を生んだのには、「ファンとの距離が近い」ことと「樋口楓の演出」があったと述べました。そして、ここで追加で提示しておきたいのは、2019年1月12日が樋口楓に関する物語の一番新しいページだとして、あのライブは樋口楓が「生まれてから全ての時間を使って作りあげたエンタメ」であるということです。今までの全ての配信で行われた様々な行動を伏線にしています。Vライバーとしての樋口楓はまだ活動を開始して日が浅く、その歴史を振り返るまとめも多く作られています。アーカイブでにじさんじメンバーとの関係を確認するのはもちろん、その発言を振り返って様々なプロフィールを今から知ることも可能です。この、「過去の物語を今からでも見ることができること」がVライバーとして活動している彼女たちの最大の優位性なのかと思います。
 もちろん、期間が短くともその間に積み上げてきたものが大きいからこそ大きな感動が生まれたのです。その積み上げを作った「にじさんじ」というプラットフォームは、この優位性を残したままこの後もVライバー最前線を走るでしょう。箱推しの形式をとりやすく、複数人との関係で物語を描きやすい環境はその積み上げに大きく有利だと思います。これからも推していくぞにじさんじ。あと、関連して振り返り配信にて好きな発言があったので載せておきます。

楓 「2ndライブがもしあるとしたら、絶対越えれる気がしないなぁ」
美兎「いや、それでいいと思うよ。もうこれ以上のものを出せないくらい、楓ちゃんは今回の1stライブで出し切ったんだからそれは凄いことだと思うし、もっと自信をもっていいと思うよ」

 ホントそういうとこだぞ月ノぉ。お前メンバーのことどれだけ見てどれだけ考えてるんだ。最高かよ。
 今回の記事では樋口楓と月ノ美兎を中心に取り上げましたが、私はしずりんもえるちゃんもちーちゃんもモイラ様も好きです。誰と誰の関係性も素敵です。全部推しです。よろしくお願いします。
 これからも追加されていく新しいページに、樋口楓とその仲間たちとそのファンの一員として、一緒に進み続けられたらいいなと思います。

「楓ちゃん」
「はいはい」
「ありがと」

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