【好きなもの】仲谷鳰『やがて君になる 8』 ~前編~

 どうも、エトナです。
 ついに最終話を迎えました『やがて君になる』。第1巻からめっちゃくちゃ大好きで、入れ込み過ぎて一時期離れてしまっていたこともあった私ですが、最終巻を読むにあたってかなりの覚悟を用意して迎え撃ちました。
 結果、大きすぎる感情のうねりをぶつけられて体調を崩しました。この記事を書いている今も多少引きずっています。
 ただ、最終話を迎えた喪失感もありましたが、この作品を好きでいられて本当に幸せだと強く感じました。これからも私は『やがて君になる』を好きであり続けると思います。
 今回はそんな感想記事です。8巻だけでなく、物語全体に触れる部分もありますので、漫画を全て読み終えてから見ていただければ幸いです。

第40話 わたしの好きな人

 もうタイトルが質量兵器。言ってしまえばここが終着なわけです。この物語は「好き」という感情が何なのか探し、見つける話。そして、侑にとっての「好き」とはなにか。それは「選ぶこと」だった。一ページ目からそれが描かれます。
 生徒会室で想いを告げる侑と燈子。物語が大きく動き始めた「燈子の好き」が生じたここを舞台にするのは作劇上最適と言って差し支えないでしょう。
 燈子にとっての好きと侑にとっての「好き」が語られる。燈子の「好き」は未だに怖さの対象で「ぐちゃぐちゃになるけど絶対なくしたくない」という気持ち。その怖さというのは「わけのわからない好き」だからこそ生まれているものなんですよね。
 対して侑の好きは「自分で選び取ること」。これまで燈子が何度も好きという言葉を向けてくれたからこそ、選ぶことができた。好きという感情を抱くことができた。そういうものなのだと。
 そして、侑の告白は見開きですよ。最高の演出じゃあありませんか。それまで「好き」という感情が判らず、ようやく自分の意志で心から「好きです」と言えた小糸侑ですよ。
 大好きという言葉を交わす二人。二人の好きは言葉で説明しようとしたときにその発生が同じではなかったりするけど、それでも相手を思って口に出す言葉は同じなんですよね。
 言葉を交わさなくともキスをしたいという意思が伝わり、そしてそのために背伸びをする侑の演出。何も言うことはない。
 そして、最終コマで空に瞬く星が描かれ、おまけページで手の中に星を抱える侑のイラスト。最終話での演出にも繋がる「星に届いた」シーンです。1巻のプラネタリウムのシーンに関しては、少し言いたいことがある。あとで。

第41話 海図は白紙

 このタイトルは最終話に掛かります。生徒会室から出て先生に謝り、帰る道では指を絡め、別れ際ではお互いに振り返り笑顔になる。寝る前も、互いのことを考える。いちゃつき開始の合図です。
 そして沙弥香が描かれます。朝、燈子との挨拶のシーン。言葉少なに交わしたこれだけで沙弥香は察し、侑のもとを訪れて確信に至る。燈子をずっと見て来たからこそ全て理解できるわけですね。そして5巻巻末マンガの侑の憂いは間違いではなかったとの証明。さす沙弥。
 べちん、は結果として負けてしまった沙弥香の精いっぱいの抵抗、腹いせのようなもの。これ以上の何かはできない。色々考えて侑に対し「月並みな言葉を真剣に贈る」ことを決めた沙弥香に、必ず幸せになってほしいと願うのは読者としては当然の反応だと思う。侑もその真剣さを感じ取ります。
 で、これを受けて生徒会室で燈子が沙弥香に反応するシーン。燈子の「まさか」を受けて後ろで頬を押さえる侑が可愛いのはあえて触れるまでもないことではあります。可愛い。
 ここ、沙弥香は燈子から「侑と付き合い始めた」とは聞いてないんですよね。察してるけど。そして燈子も「沙弥香がそれに気づいた」とは聞いてないんですよね。お互いが「相手に聞いたわけではないけど、完全に理解している言動」をしている。これを素晴らしく思わずになんとしますか。
 で、いちゃつきが始まるんですけど、こういう「秘めている」部分が百合作品にある素晴らしさですよね。そこをしっかり押さえているのは流石。そして槙くんはそれを眺めてにやつく。そういうとこほんま俺らの化身よなー。
 そして「今の関係を何と言うのだろう問題」に突き当たる侑。彼女と称されて「あんまり考えたことなかった」と言う燈子の考えは44話で判ります。
 次は「下の名前で呼んでみよう問題」。始まりで既に関係性があっただけに、侑がきちんと下の名前で呼べるのは何きっかけなんだろうね! と想像が膨らむシーン。これ伏線でもある。
 右下のコマの侑の表情が良すぎる。侑は今までこういう表情なかったので猶更。
 ちゃんと手を繋いで、くっつくための理由をもっともらしく探して。その上で、ここで関係性をはっきりさせなくても、幸せであることに障害は無いわけです。好きという感情が「幸せ」に直結している。それを理解した上で「これからどうなっていくんだろう」と繋がっていきます。

第42話 記述問題

 いちゃつきが続きます。続いては「負けた方が言うこと聞く問題」について。ここで権利を得て何をお願いするか迷う侑は、そもそもお願いの度合いを見誤っていたことに気付きました。買い物では旅行とか指輪とか、将来の話を見据えた描写と、先走りだと首を振る現実感との戦いが見えます。別れ際の演出も「いちゃいちゃ」の効果音が聞こえてきそう。ちなみにこの話の侑の服装ドストライクです。
 ここで差し込まれる校内順位変動のシーン。ここは沙弥香とのシーンというより、燈子の「変わっていない部分」のシーンです。自分の中の好きと向き合い、侑と付き合って変化していく中でも、以前のままの燈子は残っている。変わっていくのはその人の一部分なのだと沙弥香と読者に見せるための一幕。
 侑が一人でいるシーンに「好き」についての表現が差し込まれます。

誰かに側にいてほしくてたまらないけど、
誰かじゃ駄目なんだ。

 小糸侑は恋心をこういう風に定義するんです。そして寂しいと思っているときに「相手も寂しいと思ってくれてるかな」って考えるとかもはや文学。平安貴族か貴様。そして、それに心動かされてしまうのは1000年前から変わらない日本人の性というやつです。いとをかし。
 そしてそう考えていた時にまさに想い人からの手紙を受け取ってこの表情ですよ。きっと清少納言も同じ顔をしたことがある。現代らしくすぐに返事を返して、走り出す侑。眺める怜ちゃんもそんな変化を嬉しそうに見ていますね。最高ですね。
 そして燈子と話し、自宅に戻って「先輩にしてほしいこと」を改めて考える侑。キスするよりデートするより、の後に差し込まれる一コマで侑の欲求が顔を出します。「こういうのは七海先輩の役回りのはず」と言いますが「だった」んですよ。それは過去の話。好きを知らない頃のお前は「どれだけ私のこと好きなんですか」とか言ってるからな。あの時の燈子の気持ち、理解できたか小糸侑!
 まあ、浮かれているのは侑だけではないんですが。燈子が侑を好きってのは変わっていないので。むしろ加速しているので。こちらはこちらで欲を抑えているんだよってのが見える。今までなかったいちゃいちゃに砂糖ぶちこんだあまあまシーンをこれでもかって見せられて読者の精神は持ちませんよ。好きすぎてダメになる…。こっちのセリフじゃ。
 おまけページの「ぜんぶみてるよ」は読者をクールダウンさせるために描かれたまである。

 と、前半3話で幸せ濃度に耐えきれなかったので、後半はまた次の記事にします。それまでに原作読み直しておいてください。

 私の初見のリアクションはこちらで見ることができます。

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