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メディコ・ペンナ 万年筆よろず相談

蓮見恭子・著。  ポプラ社。

就活女子が主人公。
「メディコ・ペンナ」という万年筆のお店。
ここは人生を変えたいと願う者が集まる場所。
万年筆で人生が変わる?
なんとなく惹かれる出だしに期待感が湧いた。

就活女子の,やりたいことがわからない,どうしたらいいの私?
という問から始まる物語。
舞台は万年筆調整士がいるレトロな洋館に店を構える万年筆屋さん。
場所は神戸の三ノ宮。
その万年筆調整士が人生で悩む人に対峙してドラマが動いていく。


しかし、読めども読めども、66歳の男の胸には就活女子の内面の悩みの深さが届かない。
つまり,なかなか面白くならないのだ。
でも、万年筆の蘊蓄が面白くてついつい読むのをやめることができない。
盛り上がりに欠けたままラストまで読み切った。
結局、最後の最後でジワリと感動らしきものは湧いてきた。
がんばれよ、と声をかけてあげたくなった。
好印象な終わり方でした。

主人公の女子大生が就活にうまくいかないながらも、偶然に出会ったこのメディコ・ペンナにアルバイトで働き出したことにより、その万年筆調整士である店主の言動を間近で見聞きすることになる。その店主のキャラクターがいい。おそらく40そこそこの歳なのだが、万年筆調整士としてのプライドと矜持が言葉の端々に感じられる。
その姿に、あぁ,好きなことを仕事にしている姿の美しさが凝縮されているように思えた。
万年筆の調整を頼む人々として、作家や万年筆愛好家が登場する。この辺は、万年筆愛好家の方が読んだら涎ものなのかもしれない。
わかるわかるわかる、と頷きながらほくそ笑むのかもしれない。
私はそこまでの嗜好はない。しかし、何度も出てくる著名な万年筆の名前をGoogleで調べてはその画像を見るたびに、おおっ!と思わず気持ちが昂り出すのを抑えられなかった。そのうち市場価格まで調べてため息をつき、また、本の中に戻る,ということを繰り返していた。
さらには、読み疲れて集中力が落ちたと感じたら、おもむろに自分の万年筆を取り出して、いきなり思いついた文字を書き出し、その書き味を確認したりした。そしてまた本を読み出す。
この繰り返しで読み切った。

正直なところ、登場人物たち、特に人生で悩んでいる人たちの内面をもっと深く掘り下げてほしかった気がする。その点に関しては、なんか食い足りない感じがした。
でも、就活に悩む同世代の人たちが読んだら,それぞれが自分に置き換えて、内省を深めていくきっかけになるのかもしれない。

この物語はシリーズ化してほしい気がする。多分また買ってしまうだろう。

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