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ロンドン・キャリア教育視察のコーディネート舞台裏(2023年2月28日号)

こんにちは、ソーシャルイノベーション事業部の川島です。春らしい陽気が感じられる季節となりましたね。

2月上旬ですが、英国のキャリア教育視察のために、8日間のロンドン訪問に行ってきました。これは、愛知県でキャリア教育を展開するNPO法人アスクネットの依頼のもと、ETIC.がコーディネート・現地通訳として同行したものとなります。

ETIC.では昨年より、インターナショナルチームを立ち上げ、海外の財団や起業家育成団体とのパートナーシップを積極的に開拓していく動きを進めています。今回の海外視察コーディネートは、こうした背景とつながりをもとに調整・実施が行われました。

今回は、視察先の選定や打診、当日の段取りなどを行ったロンドンキャリア教育視察について、担当コーディネーターの視点からお届けします。

なぜ英国に行ったのか?

今回ご依頼をいただいたNPO法人アスクネットとETIC.は、地方の中間支援プレイヤーが集まるチャレンジコミュニティプロジェクトを始め、ソーシャルイノベーション事業部の研修やDRIVEキャリアの活用など、様々な側面で協力してきた関係があります。特に、数年前からはETIC.のメンバーが理事会に入るなど、非常に密な関係性が築かれていました。

今回の英国視察は、アスクネットの今後の事業展開を検討するにあたり、海外のキャリア教育制度の先進事例が有効なインプットになるかもしれないということで、企画が立ち上がりました。そこで、そのコーディネートの舞台裏をご紹介します。

どのように海外視察をコーディネートしたのか?

ETIC.では昨年より海外の起業家支援組織との結びつきを深めており、その中でも英国のHatch Enterprise(ハッチ・エンタープライズ、以下Hatch)という団体とは、スタッフ同士の頻繁な情報交換や相互訪問を行ってきました。

今回ロンドンのキャリア教育団体の視察をコーディネートをする際にも、まずはHatchで懇意にしているスタッフに連絡をし、業界関係者との繋がりはないか相談しました。そうすると幸運にも、現地のキャリア教育NPOと政府機関に元同僚がいるHatch職員がおり、そこから様々な現地団体への紹介を受けることができたのです。

紹介を受けてからの展開は、わらしべ長者の如く様々な協力者の力を借りて、プログラムが出来上がっていきました。特に今回の視察調整になくてはならない存在が、East London Business Alliance(イーストロンドン・ビジネス・アライアンス、以下ELBA)です。ELBAは民間教育NPOとして、青少年のキャリア学習・体験における企業巻き込みを推進する団体で、ロンドン市内の企業・学校に多くのネットワークを有しています。

アスクネットの視察について面会依頼を相談すると、イングランドのキャリア教育を視察するなら、もっとこうした所も訪問したらいいと様々な提案をくださいました。そして結果的には、ELBAのコーディネートのもと、現地の中等学校の訪問や、三菱UFJファイナンシャルグループ(MUFG)のキャリア教育イベントの視察など、多岐にわたるプログラム調整が叶うこととなりました。

MUFGロンドン支社にて、ELBAのメンバーとともに

このほかに欠かせない訪問団体に、現地の政府機関 The Careers & Enterprise Company(キャリア・エンタープライズ・カンパニー、以下CEC)があります。CECはイングランドのキャリア教育を統括コーディネートする政府機関で、国内のキャリアコーディネーターの育成や高度専門職化に取り組んでいます。今回のアスクネットの訪問における最重要視察先でもあり、この組織とのコンタクト確立は必要不可欠でした。

担当者の紹介に漕ぎつけた後は、日本から事前のオンライン打ち合わせも行い、訪問趣旨の説明やアスクネットの紹介、日本からは得られない現地の最新情報について伺いながらプログラムを組み立てました。最終的には、CECの半日訪問を通じて、グラント・オフィサーやチーフ・ストラテジー・オフィサーなど3名の幹部職員との意見交換の場を設けることができました。

CECのチーフ・ストラテジー担当とグラント開発担当と面会

ネット上からは得られない、最前線の情報と経験談

約3ヶ月にわたる事前調整の結果、平日4日間で面会したのは10団体に上ります(一部個人・オンライン面会を含む)。

日本で関連文献は読んでいても、現地の最前線で業界の取り組みを推進する方々とのディスカッションは、ネット上からは得られない非常にリアリティのある情報と経験ばかりでした。

さらに今回の訪問において、面会受け入れ先の9割が無償での講義・ディスカッションに協力くださいました。謝礼の要否についても各団体に伺いを立てても、いずれの団体もそこにモチベーションを見出すのではなく、日本のNPOが自分たちの自主企画として学びにくるというその意欲に共感して協力くださったのです。

今回の視察経験について、アスクネットの代表理事の山本さんからは以下のようなコメントをいただきました。

「この度の視察は、今年度からスタートした団体の2030ビジョンを進める上で非常に重要な視察でした。私個人として、2016年に内閣府事業でドイツに視察に行く機会があり、海外視察の重要性、肌で感じることの重要性を理解していました。
 しかし、アスクネットには、これまで単独での海外視察経験がなく、コーディネートをしていただける機関が必要でした。内閣府事業で知り合った川島さんがETIC.に所属していること、昨年からインターナショナルチームが立ち上がっていたことを知り、このタイミングだと思い、加勢さんを通してETIC.に相談させてもらいました。
 事前の打合せでもあまりはっきりとした意思表示ができていないにもかかわらず、私どもの意図を汲み取っていただき、最高の視察先を調整していただきました。現地でも、何から何まで川島さんと加勢さんにお世話になり、非常に有意義な視察になりました。」(アスクネット代表理事 山本氏)

海外における事例は必ずしも日本にそのまま適用可能でなくても、自国社会をより相対的な視点から見つめ直すとともに、自らの活動を1段階アップデートするための気づきやひらめきを得るきっかけになると考えます。今回の視察が、アスクネットが日本を牽引するキャリア教育団体としてさらに発展する後押しになることを期待するとともに、日本と世界の関係者が連帯を結ぶことで、若者のキャリア支援が社会の重要アジェンダとして取り組まれる潮流が加速することを願います。

ETIC.では今後、こうした海外のNPOや社会企業との知識交流や、日本のNPOや社会起業家が海外視察に行く機会の支援提供にも力を入れていきたいと考えています。ぜひETIC.エコシステムの起業家の皆さんと、世界とつながっていきたいと思いますので、ぜひ連携の相談などあれば遠慮なくご連絡ください。

地元の中等学校の生徒と、MUFGのキャリアイベントを訪問。インド系、イスラム系、東アジア系、コーカソイド(白人)など、多様なバックグラウンドの子どもたちがともに学んでいる    (写真:ELBA)


Editor's Note - 編集後記 -

再び、川島です。今回の視察で個人的に最も心に響いたのは、「学びかたの多様化」という言葉でした。イングランドでは2017年より教育改革が進んでおり、11〜18歳が所属する学校でのキャリア教育義務化や、企業に勤めながら就学できるアプレンティスシップと呼ばれる制度が拡大してきました。特に、企業の訓練生(アプレンティス)として、就業しながら専門性を高めるための就学ができるこの制度では、弁護士や医師など、従来大学の学位を修めないとなれなかった職種に関しても、実践的な学びを通じて資格取得をすることが可能になったそうです。
その根底には「アカデミックに依存しない学びの多様化」という考えがあり、個々人の素養・特性を活かした学びを通じて、生まれや育ちといった社会経済背景に関わらず、あらゆる人が均等に機会を享受できるようにすることが社会の目標として合意されています。そのコミットメントは、現地のあらゆる関係者から繰り返し発せられる言葉からも感じられました。
日本でも、大学進学のあり方や企業の一括採用など、多様なキャリアパスを可能にするための議論は近年深まっています。一方で、そうした取り組みを下支えする多様な価値観の受容について、同質性の高い日本社会で本質的な理解がどのくらい深まっているのか、国外の多様な方々と協働するたびに疑問に思うこともあります。日本の教育が今後さらにアップデートされることで、より多くの若者・人々が自分らしさを発揮し活躍しやすい社会となっていくことを願っています。
(川島菜穂)

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