パステルカラー商店街
3月の初めは小旅行をするのにいい季節かもしれない。2月はまだ寒く、4月はもう暑い。
長崎を歩いていた。土地勘はない。カレーを食し、コインパーキングの時間が30分余ったのでぶらぶらし、狭い商店街に入った。アーケードはなく、車は通れない。頭上には、春節の赤い三角の旗がまだジグザグに走っていた。
昼下がりで、淡く晴れている。混雑してるでもなく、人がいないでもなく。昔からの果物屋や化粧品店なんかに加えて、新しそうな店もある。テナント募集の張り紙も目立つが、シャッター街でもない。中立地帯のような、不思議な小路だった。
車の音が聞こえる。陽射しと気温と風がちょうどいい。たまに、ぴたりと条件がはまってささやかな至福が訪れる。僥倖。セレンディピティ。パステルカラーの商店街をゆっくりと歩く。
あの時、大船の商店街にいた。庶民的な通りだった。中落ち定食を食べてからぶらぶらする。魚屋ではカマス10尾を100円で売っていた。ということは秋だったのか。食器店で私は、鱗をとる道具を買った。使う機会は滅多にないのに、そのフォルムに魅入ってしまった。
帰り道、どこかの駅を出たところに豆菓子屋があった。誰かへのお土産にどうかと思って商品を見ていたのだと思う。右隣に若い女性がいて、じっと私の顔を見ている。不自然だった。
「何ですか」と私は訊いた。女性は目を大きく見開き、こう言った。「あなたの前世は、神様です」。私はどんな顔をしていたのだろう。「興味ないです」と言うと、「知っておいた方がいいです」と彼女は真顔で、とうとう見つけたという顔で言うのだった。引き留める彼女を引きはがし、私は逃れた。
前世が神様ならば、南洋に浮かぶ島の神様がいい。タヒチとか、ガラパゴスとか、ザンジバルとか。子どもたちが銛で魚を突き、果物がたくさん生る島の神様がいい。
あの時、大陸の路を歩いていた。そこは平原で、私はプロペラ機が待つ滑走路1本の空港へと歩いていた。晴れた日に、夜でもないのに虫が鳴いていた。祭りの季節で、爆竹がパンパンと鳴った。破裂音と白い煙の、昼の花火。私は疲れていたのだが、とても気分がよかった。油で揚げたリング状の菓子を掘っ立て小屋で買った。