進化する 行政・地域 とのコミュニケーション ~ 地域活性化、自治体関連ニュースピックアップ ~
今回は「進化する 行政・地域 とのコミュニケーション」がテーマです。
毎週 1,000本 近く配信される地域活性化、自治体関連のニュースに目を通し、個人的に「これは!」と思ったニュースを要約&解説しています。日々多忙な地域、自治体に関わる皆様の情報収集や施策のヒントになれば幸いです。
今週は以下のニュースに注目。
■福井県が県内自治体と連携し、政策検討プラットフォーム「DX HUKUIアイデアボックス」を開始
福井県は住民目線でのDXを推進していくため、県内自治体および Code for FUKUI、株式会社自動処理と連携し、対話型政策検討プラットフォーム「DX HUKUIアイデアボックス」を構築。同プラットフォームを活用した市民意見の募集を開始しました。
同プラットフォームは株式会社自動処理が開発する「アイデアボックス」を利用しており、オンライン上で行政と住民同士が自由に意見交換できます。今回の募集テーマは以下。
以下は「DX HUKUI アイデアボックス」ですが、すでに沢山の意見が投稿されており、それに対する回答や議論が活発に行われていることが分かります。
■機能不全に陥る行政とのコミュニケーション
従来自治体への意見は、投稿者からの一方的な意見を「パブリックコメント」として一括収集(大体はメール、FAX、庁舎にて紙で記述。よくてもGoogleフォーム等を活用したwebアンケート)し、担当部署に割り振って後日回答するという形式がとられてきました。しかしこの方法だと以下の問題があります。
投稿者から挙げられる意見が一方向的で、議論されることがない
想いを持った投稿者は上記のような手段で自治体側に意見を表明しますが、その意見に対して、この段階で自治体側、他の住民含め、誰もその意見に対してコメント&議論できません。
Twitterでいうと自治体に対してDMしか送れず、他の人のツイート(自治体への意見)は見ることができないし、いいねやリプライもできないというイメージです(なんというクローズドワールド…)この状況ですと、どうしても投稿者に偏った意見となってしまう他、第三者の目もないので、無責任な意見も多く寄せられてしまいます。
そしてこの一方向の投稿に対して回答もほとんど一度しか行われないため、「参考にさせていただきます」等の場当たり的な回答になってしまう。意見についての現状やステータスについても公開されないため単発のQ&Aに終わってしまいます(このご時世、一度のやり取りしかできないQAやコメント欄をみたことがありますでしょうか…)
結果、パブリックコメントに対して意見が集まりにくくなり、市民の意見が反映されない行政運営になってしまいます。運用負荷等の話もあると思いますが、住民⇔行政、住民⇔住民で気軽にやり取りできるような意見交換、議論、対応等を確認できる場所が必要です。
こうした中、上記のような課題を「アイデアボックス」等の新たなコミュニケーションプラットフォームを活用して解決しようとしている取り組みが注目されています。
市民自ら困っている事や改善案を提案。提案に対して他市民や行政職員が議論し、優先順位をつける。これにより、今行政が何をすべきか、多角的な視点で効率的に分析議論し、対応状況も公開することで満足度の高い対応が可能になります。
「アイデアボックス」では各地方自治体をはじめ、国政選挙の在り方やデジタル庁発足の際にも意見募集ツールとして採用された実績があり、パブリックコメントに比べ意見応募数が500倍になる、参加者の半数以上が行政に対する信頼感の向上を実感するなどすでに効果が出ています。
■行政・地域 とのコミュニケーション改善ツール
上記で開設したように従来型の市民⇔行政・地域間のコミュニケーション課題を解決するツールは「アイデアボックス」以外にも多数存在するので下記で紹介します。
アイデアボックス
市民の提案に対してコメントや投票を通じて発展した意見を集めることができるプラットフォーム。首相官邸や経産省、内閣府、官公庁等行政分野で幅広い活用実績を持ちます。
Decidim
バルセロナやヘルシンキ等グローバルに活用されている市民参加型合意形成プラットフォーム。誰もがアイデアを出せ機能、行政側の提案に対して意見やアイデアを記入できる機能などを網羅。
一般社団法人Code for Japanが中心となって日本語化、運営支援がされており、日本では2020年に加古川市で運用開始。現在は600名を超える参加者がアイデアの投稿や議論によって市のスマートシティ構想実現に参加している。
PoliPoli
アイデアボックスのようにスタートが市民からの提案ではなく、行政側からの相談から始まる政策共創プラットフォームです。この点では従来型のパブリックコメントの仕組みに近いですが、パブリックコメントに関する以下の課題を解決しようとしています。
「行政の政策づくりのプロセスに誰もが簡単に参加できる場所」ということを目標に、市民側は以下のような簡単なプロセスで政策作りに参加することができるため、現在のデジタル庁にも採用されています。
① 簡単なスライドなどで作成された相談内容を見る
② 行政からの相談内容を分かりやすく理解する
③ コメントを投稿する
④ 政策を共創する
⑤ その政策の進捗が届く
⑥ 新しい相談などにも参加してみる
Liqlid
組織コミュニティの1人ひとりが、その組織においてやりたいこと関心があること、問題意識があること等の「アイデア」を投稿。アイデアの中から議論すべきアイデア案をプロジェクト化し、文書作成、調査等のステータス管理や進行管理、プロジェクト内容の修正、チャットによる議論が可能です。
プロジェクトに対しては高度な投票機能が備わっており、プロジェクトへの意見等を分かりやすく可視化。『じっくり話して、しっかりと合意形成』することができます。
埼玉県横瀬町で導入実績があり、同町では182件の提案から105件を採択しています。
Tailor Works
「地域の人、ビジネスに関心のある人とフラットにつながりたい」、「温泉地域で起業、共創を考えている人と連携したい」等、同じ課題を持っている地域プレイヤーのネットワーキングや特定分野に特化したコミュニティ活動を支援するプラットフォーム。
下記のような機能により、日々のコミュニケーションから課題の抽出、広報、イベント開催等、コミュニティ活動のすべてを一元管理します。
コミュニティを通じて地域内外の多様なステークホルダー(投資家、専門家、金融機関、スタートアップ、関係人口等)と連携することにより、テーマに即した議論や情報交換、共創などの効果が期待できます。
別府市や静岡銀行、大田区産業振興協会等、様々な行政、地域金融機関にて導入実績があります。
現在、温泉地域の魅力がより輝いていくために、温泉地域の方々と温泉地域に貢献できる起業や共創を考える方々が出会い、連携するコミュニティにて「温泉地域 起業・共創コミュニティ」のメンバーを募集中です。
SumaMachi
連絡ツールのオンライン化や書類のデジタル化などで、自治体関連施設(保育所や学校等)と住民とのコミュニケーションをサポート。従来紙や電話などの情報配信業務をデジタル化することにより、業務負荷の軽減、働き方改革に貢献するプロダクト。以下導入事例です。
上記で挙げたのは自治体(市役所)とのコミュニケーションツール(主に施策等に対するコミュニケーション)ですが、こちらは自治体関連施設(保育所や学校等)において日常において活用されるツールとなっています。
子育て、教育、福祉、環境、防災、広報、政策等の広い分野での活用が想定されているようですが、導入事例を見ると今のところはピンポイントでの活用にとどまっていそうです。
チャットツール(Slack, Discord)
上記では専用プラットフォームを使ってコミュニケーションを改善する例を挙げていますが、一般的にビジネスやオンラインゲーム等をするときによく利用されるチャットツールを使って市民・関係人口とのコミュニケーションを改善する例もあります。
行政で初めてSlackを活用した移住オンラインサロンを開始した佐久市では、「リモート市役所」と銘打って移住者や関係人口による移住、暮らしの相談を受け付けています。行政担当者、地元市民、移住先輩組等、多様なメンバが「物価は安い?」「土日はどんなことしているの?」等気軽な質問に対して回答してくれます。
また「佐久市をもっと良くするには?」「こんなイベントを実施したい」等アイデアブレストの場もあり、移住者だけでなく、市民、関係人口含めた全員参加型のまちづくりに取り組んでいます。
リモート市役所内部では様々なアイデアが生まれており、リモート市役所のホットな情報や職員の紹介、佐久市の情報発信をメインにリモート市役所課長自身がパーソナリティーとして進行していくラジオコンテンツ「FMリモート市役所」を開始しました。市民・関係人口・行政の全員でアイデアを出しながら次々と新しいことを実施していてとても魅力的ですね。番組は以下から視聴できます。
他にも広島県は「HIROSHIMA SATOYAMA WORK CO」というビジネスをきっかけに地域のアップデートに挑むひと・地域・企業が繋がるコミュニティをSlack上で展開しています。
普段私たちが利用しているチャットツールもアイデア次第では地域と市民、企業をつなぐツールになりそうです。
海外事例
欧州では行政・地域⇔市民間のコミュニケーションや、市民による政策立案が盛んに行われており、アイデア実現のための予算なども割り当てられている自治体もあるようです。
「Omastadi」、「DecideMadrid」、「Idee Paris」、「ZenCity」、「PlaceSpeak」等がありますが、事例に関してはLiqlidを開発する Liquitous Inc. が詳しく紹介しているので以下をご覧ください。
■市民参加型のまちづくりの可能性
私が在住している市では市の総合計画策定の際に市民アンケートを取りますが、以下のような意見が目立ちます。
市民 ⇔ 行政・地域間のコミュニケーションが希薄化し、一方通行の施策や事業が行われ、結果として市民の不満につながっていることが予測できます。
一方行政側も私達が想像している以上に多忙で激務。自分達が普段している仕事や対応についてはほとんど注目されることもなく、どんなに頑張って「当たり前」だと思われてしまいがち。これは職員の仕事モチベーションの低下に繋がってしまいます。
上記で紹介したツールや事例のように国内外ではすでにデジタルツールを活用した市民参加型のまちづくりは各地でも積極的に行われようとしています。市民 ⇔ 行政・地域間のコミュニケーションを改善することは上記の課題を解決するポテンシャルを持っています。
このような仕組みや運用を新たに検討する際、行政側としてはコミュニティ運営やステータス管理等の手間が増えるからヤダ…という意見も分からなくないです。
しかし、①市民の声が適切な形で行政・地域に届き、それが効率的に活用されているか見える化する仕組みを構築 → ②行政の対応、頑張りが適切な形で市民に伝わる → ③市民も行政もフラットな関係でよりよいまちづくりを目指すことができるといった好循環を生むことができるものだと考えています。またこのようなツールや仕組みやアイデア次第(Slackを活用した佐久市などの例)では非常に低コストでも運用できるものです。
昨今大きな枠組みとしてデータ連携基盤を構築し、データ活用したサービス等の提供により、より良い生活を実現するスマートシティ構想等が各地で乱立していますが、一度身近な声に耳を傾けてみてもいいかもしれませんね。
【注意】
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