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神話からみる黄金の叙事詩「オンパロス英雄記」と「移ろう火追いの英雄記」について
※あくまで個人的な感想であること、ご承知おきください。
専門的な知識はあまりもちあわせておりません。ご理解いただけると幸いです。この記事は、開拓クエスト第4章「移ろう火追いの英雄記」の内容をふくみます。筆者は、崩壊3rdは未プレイのため、崩壊スターレイル内の話のみとりあげます。
今回は、黄金の叙事詩「オンパロス英雄記」と開拓クエスト「移ろう火追いの英雄記」について、簡単なクエスト概要(まとめ)とギリシャ神話からの考察を書いていこうと思う。
黄金の叙事詩
最初、世界は混沌としていた
そこに神々が火種をあたえタイタンが生まれた
三柱は運命を紡ぎ 三柱は天地を拓く
三柱は生命を創り 三柱は災厄をもたらす
タイタンの火は文明を発展させ、万邦の生命を繁茂させていった
しかし黄金紀は刹那に過ぎ去り、「暗黒の潮」が天外よりふりそそぐ
それは死よりも暗いもの
タイタンは狂気に陥り人々は殺しあった
終わらぬ争いに血の色が夜明けを飲み込んでいく
神々の戦いは太陽さえも沈黙させたのだ
千年に及ぶ戦い
残されたのは壊れた世界と暗黒の時代
火種は消えかけ神の時代は終わりを迎えた
やがて黄金の血がしたたり神託が響き渡る
黄金の血よ
熱き河となり英雄の後裔たちへと流れいるのだ
「金織」のアグライア 聖都の営みにふれ運命の声をきけ
三相の使者は門と道を渡り歩き、百界からの知らせを運んでくるであろう
愚者アナクサゴラス その学識は信仰を破り神を討つ嵐を巻き起こす
晨昏をわかつ司祭をみつけかの者を空で目覚めさせよ
不死なるメデイモス 怒りの咆哮をあげその血で敵の王を貫け
俊足のセファリア 風を切り停滞した時間を動かせ
そして暗澹たる手の使い ステュクスの娘
それに抱擁の権利をあたえれば 死すらも安らぎを得るだろう
嵐のなかから深海の声がきこえてくるだろう
夜の帳のもと異邦の者が訪れるだろう
その旅のおわりにかつてのタイタンたちは滅び
冠を戴いた無名の王が英雄たちとともに救世の偉業に挑むだろう
遠い未来でみる太陽は人々の足跡を記録する
「黄金裔」とよばれる存在が神々の火種を手に再び天地を支えるでしょう
火を追う旅は喪失の道 その中では命さえも些事となる
我らは「火」に身を投じる
ただ創世の叙事詩に最初の一筆を刻むために
宇宙にある「英雄の旅」の大半は
其れらがきまぐれに投げたサイコロ
オンパロスあなたの答えは違うの?
これは今までとは違うロマンティックな物語
そうでしょう?
神話からの考察
ここからは、黄金の叙事詩「オンパロス英雄記」と「移ろう火追いの英雄記についてギリシャ神話や音楽の面から考察していく。
アチーブメント「ムーサよ、わたくしにかの男の物語を」
「ムーサよ、わたくしにかの男の物語を」のアチーブメントについて、ホメロスの『オデュッセイア』第一歌を元にしたものと思われる。
「ムーサよ、わたくしたちにかの男の物語をして下され、トロイエ(トロイア)の聖なる域を屠った後、ここかしこと流浪の旅に明け暮れた、かの機略縦横なる男の物語を。」
ヘーシオドス『仕事と日』より、時代について
まず、「オンパロス」については以下の「オムパロス」が由来になっていると思われる。
オムパロス(Omphalos)
臍のこと。世界の両端から二羽の鷲が飛び立ち、両者が落ち合ったのがデルポイの上空であった。そこで、ここが世界の中心とされた。
次に、時代についてだが、ヘーシオドスの『仕事と日(労働と日々)』の内容と一致していると考えられる。『仕事と日』では、5つの時代と種族について以下のように語られている。それぞれ一部を抜粋していく。
①黄金時代
オリュンポスの館に住まう神々は、最初に人間の黄金の種族をお作りなされた。
これはクロノスがまだ天上に君臨しておられた
クロノスの時代の人間たちで、……
しかし大地がこの種族を隠した後は、大神ゼウスの思し召しによって、
彼らは地上の善き精霊となり、人間の守護神として、
人間に富を授ける。このような王権にも比すべき特権を与えられたわけじゃ。
②白銀の時代
今度は第二の種族、先のものには遥かに劣る銀の種族をお作りなされたが、
これは姿も心も、黄金の種族は似もつかぬものであった。……
おのれの無分別のゆえに、さまざまな禍いをこうむって、短い生涯を終える……
しかし大地がこの種族をも蔽った後、彼らは地下に住み、至福なる人間と呼ばれ……
③青銅の時代
ついでゼウスは人間の第三の種族、青銅の種族をお作りになったが、これは銀の種族にはまったく似ておらず、……
怖るべくかつ力も強く、悲惨なるアレースの業と暴力をこととする種族であった。…….
まことに怖るべき種族ではあったが、黒き死の手に捕えられ、輝く陽光を後にして地上を去ったのじゃ。
④英雄の時代
クロノスの御子ゼウスは、またも第四の種族を、豊穣の大地の上にお作りなされた―先代よりも正しくかつ優れた
英雄たちの高貴なる種族で、半神と呼ばれるもの、
広大な地上にあってわれらの世代に先立つ種族であったのじゃ。
しかし、この種族も忌わしき戦と怖るべき闘いとによって滅び去った―
⑤鉄の時代
……[さてゼウスは、またも人間の別の種族をお作りなされた―
いま生れ住む人間がそれじゃ。]
……今の世はすなわち鉄の種族の代なのじゃ。
黄金の叙事詩「オンパロス英雄記」では、黄金紀とその崩壊、暗黒の時代の到来、そして英雄による救世の偉業が描かれている。この点において、ヘーシオドス『仕事と日』における時代の流れと、黄金の叙事詩「オンパロス英雄記」の一連の流れは似ていると考えられる。
暦について
崩壊スターレイル内の本棚で確認できる資料のなかに「オンパロスの暦法」がある。このなかの「命運季 第1の月・門関の月」より「『万路の門』ヤーヌス」と書かれている。ローマ神話において、ヤーヌスはJanusと表記され、現在のJanuary (1月)の語源になっている。扉や門に関係する神で、時の三重の顔すなわち過去・現在・未来を表す。
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半神について
ギリシャ神話においては、神は不死であるとされる。ホメロス『イリアス』にもその描写がある。不死なる神々に対比しているのが人間の存在ともいえるだろう。ギリシャ神話に登場する英雄の多くは半神である。特殊な能力をもち、人間を超えた存在として描かれるが、人間と同じように死ぬことは免れない。
死すべき人間の身で死を知らせる神をだ。
黄金時代
世のはじまりにあった神話時代、人間は何ひとつ思い煩うことなく、神々と生活をともにしていた。神々をあがめるために生贄をささげることもなかった。人間は永遠に若く、老いることも病気になることもなく女というものが存在しなかった。この原初の至福は、巨人プロメテウスの神をも恐れぬ所業によって終わりを迎える。ゼウスは怒り、恐るべき災厄を人間にあたえる。それにより黄金時代がおわりをつげた。災厄とはパンドラという女である。人間の条件は、神々の世界から追放され、人間の半分は女性となり、不死性を失って死すべき存在となる。
不死
不死は、神々だけの特質である。人間が死を免れないのにたいして、神々は不死であるということ、それが人間とパンテイオンの神々とを分かつ絶対的な違いである。
英雄たちのなかに半神がいるという点は、今回の開拓クエストの内容にも一致している。半神が不死ではないということが今後ストーリーにどのように関わってくるのだろうか。
運命・預言(予言)について
ギリシャ神話において、運命や預言の不可避性がみられることがある。運命は変えられず、預言は繰り返されることを示す描写は、様々な話にみられるだろう。例えば、『オイディプス王』や『イリアス』などである。
「しかし、今の不幸は神々がそのようにお定めになったのであれば致し方もありませんが……」
「……人間というものは、一たび生れて来たからには、身分の上下を問わず、定まった運命を逃れることはできぬ。」
占いや12星座と思われるような描写や資料が、ストーリーや資料にみられる。占いといった運命や預言は、今後どのように描かれていくのか楽しみである。
記述について
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公演について上記のように書かれている資料(脚本)がある。
第一幕
聖歌隊
〇〇〇
(使用人役、衛兵役が登場)
使用人
〇〇〇
この記述の仕方に関しては、原典にはみられないが、アイスキュロス『縛られたプロメーテウス』や『ソポクレス』など劇に関する訳本にみられる。例として、『縛られたプロメーテウス』より一部分を抜粋する。
コロス
そのお言いつけ……のこるくまなく、伺いたいと存じております。
[このとき大洋神オーケアノス、翼のある馬に跨って登場]
オーケアノス
長い旅路を……
信仰と技術について
黄金の叙事詩「オンパロス英雄記」に登場する愚者アナクサゴラスは、おそらくヘゲシブゥロスの子だと考えられる。ティモンは、『シロイ』のなかで、アナクサゴラスについて以下のように語る。
アナクサゴラスは力強い英雄で、ヌゥスと呼ばれていたとのことだ。というのも、彼には知性がそなわっていて、その知性は、突然目ざめると、無秩序の状態にあった万物をしっかりと結びつけたのだから。……自然の事物の研究に専念したのであった。
「オンパロス英雄記」のなかでは、愚者アナクサゴラスについて「その学識は信仰を破り神を討つ嵐を巻き起こす」と紹介されている。「学識は信仰をうちやぶり」というのは、どういう意味なのだろうかと考えている。ストーリーでは、オンパロスの人々は星神(外の世界)を知らず、タイタンという神々を信仰していることが判明している。オンパロスのNPCに話しかけると、神に祈る信者たちを小馬鹿にする言葉を放つ者がいた。タイタンへの信仰は、外の世界をみえなくさせる盲目的なものなのだろうか。神という存在と、学識(宗教と科学)は対立するものだと考えられないだろうか。科学技術の発展にともない、様々なことが説明できるようになると、神という存在は小さくなっていくのではないか。「学識は信仰を破り」というのは、このようなことを示しているのではないかと、現時点では考えている。
音楽面について
音楽面に関しては、2つ述べたい。
1つ目は、お馴染みの「開拓」の音楽的テーマについてである。今回の開拓クエストでは、オンパロス出発前に、スターレイルのタイトル画面のBGMのメロディがふくまれていた。ピノコニ―では、「傷つく誰かの心を守ることができたなら」にも同様のメロディがふくまれている。
2つ目に関しては、こじつけだと思われてしまうかもしれないが、PV「オンパロス英雄記」のBGMと、PV「永火の一夜:第33場」に共通のメロディがあるのではないかと考えている。(該当箇所は、PV「永火の一夜:第33場」0:17 -と、PV「オンパロス英雄記」0:29-である。)
このメロディは、PV「永火の一夜:第33場」のなかでは「壊滅」という言葉のところで流れるため、「壊滅」のテーマをもつライトモティーフなのではないかと考えた。このメロディが流れているときの両者の台詞を抜粋する。(ソラシ♭レレ♭ ソラシファミ)黄金や火、血などの単語が全PV内で共通しているため、関係があるのかと考えたがどうだろうか。
タイタンの火は文明を発展させ、万邦の生命を繁茂させていった
「壊滅」の金色の血が流れ
盛大な祭祀を其に捧げる
炎の子らよ…….
(転調)
「壊滅」は壮麗な瞬間だ
醜く存続を求める一生は長すぎる
参考文献
この記事を作成するにあたり、以下を引用、参照させていただきました。
アイキュロス,『縛られたプロメーテウス』,呉茂一郎訳.
ソニア・ダルトゥ,『ギリシア神話シンボル事典』,武藤剛士訳.
ディオゲネス・ラエルティオス,『ギリシア哲学者列伝(上)』,加来彰俊訳.
ヘーシオドス,『仕事と日』,松平千秋訳.
ヘシオドス,『神統記』,廣川洋一訳.
ホメロス,『オデュッセイア』,松平千秋訳.
ホメロス,『イリアス』,松平千秋訳.
おわりに
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。モチーフ考察など掘り下げられる部分がありましたら、また記事を書こうと思います。