全米が本気で騙された!時速270kmの快速球選手シッド・フィンチ
4月1日、エイプリルフールの起源は?
ボストン大学歴史学教授のジョセフ・ボスキン氏(Joseph Boskin)によれば、その起源はコンスタンティヌス1世(Constantinus、在位:306年-337年)の時代にまでさかのぼるとのこと。
宮廷芸人たちが皇帝に「芸人たちの方が帝国をうまく運営できる」と冗談めかして言ったところ、面白がった皇帝は1日だけ芸人を王に指名したのが始まり……
というのは、ボスキン教授のエイプリルフール・ジョーク。そうとは知らずAP通信はこの説を新聞発表し、その後数週間訂正されることはなかったそうです。1983年のことでした。
エイプリルフールの起源には諸説あります。歴史的な根拠もあって信頼できそうなのは、シャルル9世統治下のフランスの習慣です。
16世紀フランスでは新年が始まるのは3月25日でした。それから1週間後の4月1日まではプレゼント交換をしたり、パーティをしたりしてお祝いをしていました。
ところが、1564年グレゴリオ暦が導入されると、シャルル9世は新年を1月1日にすると宣言。その変更を嫌がって、あるいはうっかり忘れて、相変わらず4月1日が終わる週にお祝いをするフランス人が多くいたそうです。いたずら好きの人々は、古い正月にこだわる人に、おどけたプレゼントを送ったり、ありもしないパーティに招待してからかいました。
その後この習慣が残り、200年後イギリスに伝わり、さらにその後にアメリカへと伝わったと言われています。
いくつかの国では伝統的に、テレビ、新聞、ウェブサイトなどを通して、多くの人にいたずら心満載のエイプリルフール・ジョークが仕掛けられています。
1957年4月1日、BBCのテレビ番組 「Panorama」は、スイス南部の家族が「スパゲッティの木」からスパゲッティを収穫するという嘘の番組を放送しました。木の枝から垂れ下がるように生息するスパゲッティーを、農家の人々が一本ずつ丁寧に摘み、天日干しをしている映像。
そこに、同番組の看板キャスターが解説を加えます。
1950年代のイギリスでは、パスタは日常的な食べ物ではありませんでした。缶詰のトマトソーススパゲッティは知られており、多くの人が異国の珍味とみなしていました。4月1日に推定800万人がこの番組を視聴。翌日には何百人もの人々が、話の信憑性に疑問を持ったり、スパゲッティの栽培方法やスパゲッティーの木を自分で育てる方法など、詳しい情報を求めてBBCに電話をかけてきたそうです。
1985年4月1日付の「Sports Illustrated」誌に、作家のジョージ・プリンプトン氏(George Plimpton)が、ニューヨーク・メッツでトレーニング中の新人投手、シッド・フィンチ選手(Sidd Finch)を紹介した記事が掲載されました。もちろん架空の選手です。
幼少期を孤児院で過ごしたフィンチは、ハーバード大学に進学しますが、1学期で中退。チベットの山中で石を投げたり、瞑想したりして投球術を身につけます。投球時は片足だけブーツを履き、もう片方の足は裸足。常にフレンチホルンを持っているのが特徴です。
フィンチの驚くべき点は、時速104マイル(167km)という当時の最速記録をはるかに上回る時速168マイル(270km)という驚異的な速球を、正確にしかもウォーミングアップなしで投げられることでした。
記事のタイトルは「The Curious Case Of Sidd Finch」(シッド・フィンチの数奇な事件)。サブタイトルにはこう書かれていました。
この文の単語の頭の文字をつなげていくと
「Happy April Fools' Day-a(h) fib」
(ハッピーエイプリルフール - 嘘)
となるのがわかります。
それにも関わらず、多くの人がこの嘘を信じました。メッツファンはこのような選手を見つけることができたことに大喜びし、同誌に詳細な情報を求める声が殺到しました。ニューヨークのスポーツ紙の編集者は、スポーツ・イラストレイテッドのみにこのニュースを流したとして、メッツの広報部長にクレームを入れました。「実際にフィンチの投球を見た」などと言い出すラジオのトークショーのホストも現れたそうです。
※The Curious Case Of Sidd Finch(実際に発行された雑誌版の画像)
https://vault.si.com/vault/1985/04/01/43450#&gid=ci0258c0420009278a&pid=43450---076---image
※(web版)
同誌は、翌4月8日号で、フィンチの引退を発表する記事を小さく掲載。4月15日号で、この話はデマであったことを発表しました。
しかし、このジョークは人気を呼び、プリンプトンはその後フィンチについての小説を1冊を書いて発表しています。
『シド・フィンチの奇妙な事件』(ジョージ・プリンプトン 著、芝山幹郎 訳)
多くの人がエイプリルフール・ジョークを信じてしまうのは、そのジョークの中に夢や希望を見出してしまっているからかもしれません。「こうあったらいいなあ」「こうあって欲しいなあ」という人々の気持ちが上手く反映されていて、疑いの気持ちはあったとしても、信じたいという気持ちが勝ってしまうのではないでしょうか。
エイプリルフールに限らず、日々流れてくる情報の中には、本当のような嘘、嘘のようは本当が混在しています。私たちはそれを見極める目を試されているのかもしれません。
今年は、どんなエイプリルフールネタが登場するのでしょう。期待を込めて着目して、楽しんでみてはいかがでしょうか。
(※)参考図書
『いわゆる“起源”について - はじまりコレクション1』チャールズ パナティ (著)
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