DQ3で「転職魔」になった者
私は10歳で「転職」という言葉を知りました。きっかけは初代の「ドラゴンクエストIII」(以下DQ3)です。当時は「就職」なんて分かりませんでしたし、「就活」という言葉はおそらくまだ存在していなかったと思います。
ちょうどその頃に、クラスメイトがお父さんのUターン転職で転校することがあり、母に「うちのお父さんは転職しないの?」と聞いた記憶があります。そのときの回答は「うちみたいに東証一部上場企業に勤めている人は、そうそう転職しないものよ」と、なかなかひどいマウントぶりでした。
DQ3の転職システムはよくできている
スクウェア・エニックスが出している定番のRPGで転職(ジョブチェンジ)できるタイトルはいくつかあります。DQ6, DQ7, DQ9, DQ10、FF3, FF5……その中でもDQ3の転職システムはよくできていると思います。単なるいいとこ取りではなく、トレードオフ感があるんですね。
Lv 20にならないと転職できない(スイッチングコストがそれなりに高い)
Lv 1からやり直しになる(過去に経験した職業に再度就いてもLv 1から)
能力値が半分になる(HP・MP・力・素早さ・賢さ…)
覚えた呪文や特技は転職後も引き継げる
ダーマ神殿の神官のセリフは、なかなか考えさせられます。
「(名前)は(職業)になりたいと申すのじゃな?」
「一度レベル1に戻って修行し直す覚悟もおありじゃな?」
「では(名前)よ。(職業)の気持ちになって祈るがよい」
「おお!この世の全ての命を司る神よ! (名前)に新たな人生を歩ませたまえ!」
近い転職、遠い転職
RPGの世界では、大きく「前衛職」(物理系)と「後衛職」(魔法・補助系)に分けられるそうです。
DQ3で言えば前者は勇者・戦士・武闘家、後者は僧侶・魔法使い・賢者が代表的な職業です。「中衛職」と呼んで、盗賊・商人・まもの使い(HD-2D版で新登場)を挙げることも。遊び人は……私の憧れです。
DQ6の世界では、戦士と武闘家の熟練度が上がるとバトルマスターという上級職になれたり、僧侶と魔法使いを極めると賢者になれたり、という特典があります。似ている領域を突き詰めることで、さらなる極みを目指すといったところでしょうか。
戦士×魔法使いで魔法戦士、武闘家×僧侶でパラディンと、異質な領域を掛け合わせることで、一味違う能力を身に付けるパターンもあります。
現実は「近い転職」が多い
急に卑近な世界に戻ってみましょう。皆さんご自身や周囲の人の転職話を聞いたら、大抵は同様/類似の職種・業界で横滑りしていると思います。
顧客の新規開拓が得意な営業職の人が近しいビジネスモデルの会社に転職したり、経理や人事の人が業種や規模は違えど同じ職種で転職したり、IT系やエンジニアの人はスキルを磨いてより大きく先進的なサービスを作れる環境に転職したり。
一般的にはそれが正攻法の転職活動ですね。「職種×業界」の二軸のうち、少なくともどちらかは知見・経験のある分野で移りましょう、というのが教科書的な正しさだと思います。
少し脇道に逸れて、管理職や経営職はどうかと言うと……ここは非連続に考えないといけないはずなのですが、既存の担当業務や領域から昇格してしまう慣例が多いようで。(それがドラスティックな変革を阻んでいるような気もしますが、この話はまた別の機会に)
私のジョブスリッパー遍歴
そろそろ「偉そうなことをのたまうお前はどうなんだ?」な問いを受けそうなので、簡単な自己紹介をしてみます。
私は新卒で外資系のコンサルティング会社に入って4年ほど業務・ITコンサルをして、外資系の事業会社に入ってマーケティングをして、その後は人事コンサル・ITコンサル、社内の業務改善、営業管理……と職種も業界も畑違いの領域を転々としてきました。
転職エージェントの方々には「今がキャリアチェンジできる最後のチャンスですね」的なことを何度も言われましたが、せっかくのアドバイスに耳を傾けることもなく、ジョブホップもできないまま滑ってきました。
「職業:転職活動、趣味:仕事、属性:ジョブスリッパー」と自称しています。
DQ3風に言えばLv 20-30前後で転職を繰り返しているので、爆裂拳やメラゾーマは使えません。バラモス戦がたくさんある世界でなら役に立てそうですが、ゾーマ戦や神竜戦では出番なさそうです。このままではルイーダの酒場で永遠にたむろしてしまいそうなので、一人旅に出ることにした次第です。
飛影に学ぶ転職
もう一度フィクションの世界に戻ります。転職絡みのエピソードとして「幽☆遊☆白書」という漫画・アニメに出てくる飛影というキャラのことをよく連想します。
詳細なプロフィールは割愛して、生まれつきかなり強かった飛影は、ある目的のために邪眼という新しい能力を得ようと過酷な手術を受けます。もともとA級妖怪だったのに、その能力を得た直後は最下級のD級にまで落ちていました。(最終的には超S級になりましたが)
DQ3にたとえると、Lv 60の能力を捨ててLv 1になるような落差です。
ここ数年で「リスキリング」といった言葉が賑わっていますが、飛影ほどでないにしても、それなりの覚悟を持って時間・体力・精神力諸々を注ぎ込もうという節はあまり感じられませんね。
「ネガティブ要素はなしに強化できますよ」的な軽い風潮にどうも違和感を持ってしまいます。(DQ3のスイッチングコストの重みは、そういう意味で現実味があってバランスがよい)
皆でもっと「遠い転職」をしてみては
命をかけたり年収を半分にしてまでやれとは言いませんが、世の中的にもっとガラリと仕事を変えてみてはよいのではと思う最近です。
「この道○十年」という職人肌も素敵ですが、一般的な職業では「変化がない=停滞しているだけ」のような。専門家やスペシャリストと呼ばれる人も案外いろんなことをされていますね。
日系の大手企業でよいパターンだなと思うのが、商社でバリバリ営業をやっていた人が人事部門に行くケースです。フロントオフィスとしての嗅覚を持った状態でバックオフィスに移ることで、採用時のハンターぶりや実務の特性を踏まえた制度設計ができそうで。
管理職・経営職というのもそういった非連続の遠い転職かもしれません。成績のよかった営業マンが営業マネージャーになるのとは違う話で。
人生で詰める経験値や費やせる時間は限られている
ゲームやりこみ勢の方々が言いそうな「全職業Lv 99まで上げれば最強じゃん」というのは一理あります。でも、プレイできる上限が100時間くらいとした場合は、どうしますか?
コンフォートゾーンのアリアハン内でこじんまり収まるのか、全大陸を踏破するのか、闇の世界や未知の領域にも挑むのか。
どうせ人生の最適解など分からないのですから、些細なコスパ・タイパ志向は捨てた方が結果的にリターンは大きいのではと思う次第です。