おやつどき

「お茶の時間よ」

午後3時、先生は時計を見て言った。

「ほら、教科書をしまって」

僕は歴史の教科書をしまった。

「何にする?紅茶、緑茶、今日はマテ茶もあるけど」

「烏龍茶をもらいます」

「はい。凍頂烏龍茶があるわ」

フタつきの小さな茶碗、熱湯がなみなみ注がれた急須が運ばれてきた。青磁調の品々。

「それに月餅。よろしければ」

お茶の味が出るまで数分待つ。

静かなひと時が落ち着くと先生は言った。

「こないだはどこまで話したっけ」

「先生が今のダンナさんと出会ったところまでの話」

「誰そ、彼」

「お気を確かに。血糖濃度、大丈夫ですか?ほら、ビスケット食べてください。今日のダージリンは美味しいですか?」

「紅茶は科学。何科?知らないけど。私の抽出技術は完璧だから味に狂いはないの。でも温度湿度で出方は変わるわね。それがわかる舌の持ち主なのよ、私は。あなただってそう。あ、そろそろお茶に手をつけないと。渋くなるわ。1分1秒が命とりよ。どう?」

「濃いですね、カカ様」

「巫山戯ると母上に言いつけますよ」

先生は平然と言いつつ僕の茶碗に湯を注いだ。

「ついでいいのよ」

それから何杯も楽しむうち、風味は極々薄くなっていった。

午後5時。

まだ先生の口は開いている。

「先生、お時間です」

「あら。放課後は自習、いいわね」

やや鼻を膨らませる僕に先生は笑顔で言った。

「来週はロイヤルミルクティをいれるわね」

あぁ、茶葉はウバっていう例の。

「その茶、加糖でお願いします。さじをつけて」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?