<アウトリーチと「魚釣り」>   ソーシャルワーカーのための「面接技術」Plus Ultra 21

コラム<アウトリーチと「魚釣り」>

 ソーシャルワーカーにとって、アウトリーチは重要な働きの一つである。
 とりわけ、コミュニティソーシャルワーカーには、アウトリーチは欠かせないだろう。

 そんなアウトリーチに対する私の考え方をお伝えしたい。

 地域には、本当に様々な問題、課題を抱えながらも、
自らSOSを出せない、
どこに相談したらいいかわからない、
相談できると思っていない、
自らが困っているということに気付いていない、
 というような人々がたくさんいる。

 私も、コミュニティソーシャルワーカーとしてアウトリーチをする中で、一つの世帯に複数の問題、課題を抱えながらもどこにもつながっていない、いわゆる複合ケースを目の当たりにすることが何度もあった。

 また、相談者さんから「あの時加藤さんと出会えて良かった」「誰にも相談できなかった」という声をいただくことも何度もあった。

 そんな私の、アウトリーチに関する考え方と、具体的な方策を紹介したいと思う。

・アウトリーチは魚釣りに似ている
 私は、海釣りが好きだ。
 夜明けとともにボートに乗って10分ほど海上を走り、イカダの上へ行く。
そして、イカダの上から、海の底までエサを落とし、魚を釣る。

 エサは、エビやコーンなど様々である。またそのエサの周りに団子を作り、海底についたら竿を振り団子を崩す。その団子で魚を集めながら、本命のエサで魚を釣るのである。

 このとき、海の中は当然見えないが、必ず魚はいるはずだと思って竿を握る。

 しばらく待って釣れなければ、海底からの高さやエサの種類、あるいは針の大きさや団子の作り方を変え、試行錯誤しながら魚がかかるのを待つのである。
 面白いのは、同じイカダに乗って、わずか数メートルしか離れていないところに座っても、経験がある人と素人では、釣果がまったく違うのだ。

さて、このような海釣りが、アウトリーチに似ていると思うのである。

 その共通点を、3点お伝えしたい。
1.必ず魚はいると思って釣りをする
 必ず、困っていながらも相談につながっていない人はいる、と思ってアウトリーチをする。

 一度チラシを配ったから終わり、ホームページであげたから終わり、それでも相談が来ないということは、困っている人はいないはずだ
 ・・・このように考えているのではないかと思わざるを得ない人を多々見てきたが、それは大間違いである。

 魚釣りでいえば、魚が釣れないからと諦めて、エサをつけずに魚が釣れるのを待っているのと同じである。

2.色々なアプローチ方法を試行する
 アウトリーチといっても、その方法は多種多様にある。
 後半で、その具体的な方策について紹介するが、いろいろなアプローチ方法を試行することが肝要であり、それによって早期発見システムの網目が細かくなっていくのである。
 そして、何らかの網目にひっかかって、相談にくるのである。一つの方法だけでは、全ての人のニーズを拾うことは不可能である。

 釣りでも、上述の通り様々なアプローチ方法を試していくのである。

3.仲間を作り情報共有する
 釣りでも、経験のある人は、ここ数日の釣果はどうか、イカダの中でもどこで釣れていたか、何が釣れていたか、そういった情報を事前に確認している。
 それを参考にするのとしないのでは、釣果はかなり変わってくる。

 同様に、アウトリーチについても、自分一人ではなく、様々なネットワークを活用するのである。
 一軒一軒お家をまわることも重要だが、それと同じぐらい、あるいはそれ以上に、この早期発見のネットワークを作ることも重要である。

 それでは、次に、私が行ってきたアウトリーチについて、具体的に紹介していきたいと思う。

・アウトリーチの具体的方策
 次に紹介するのは、私がコミュニティソーシャルワーカーとして行ってきたアウトリーチの手法のうち、主だったものである。

・学生との協働によるチラシの全戸配布
・回覧板でのチラシ配布
・回覧板・回覧袋への常時ラミネートチラシ同梱
・小学校でのチラシ全員配布
・集会所等の掲示板へのチラシ掲示
・組長会議での活動紹介
・市内の大学への授業を通した発見ネットワーク構築
・民生委員との協働による子ども食堂を通したニーズキャッチ
・サロン訪問
・地域における福祉講話によるニーズキャッチ
・SNSを通じた活動報告
・小学校の校長先生との飲み会
・薬局等へのチラシ設置

 そしてこれらのプロセスを、民生委員・児童委員さんや近隣住民など、可能な限り共有してきた。すると、それを見た民生委員らが、また次の相談者さんを見つけてくださるのである。

 つまり、この人なら相談したら何とかしてくれる、と思ってくれるのだろう。
 このようにして、行く先々で、サロンの参加者さんが、前に相談に乗った人が、包括支援センターの職員さんが、まちづくり協議会の方が、自治会長が、相談してくださるのである。

 ここだけの話、あまり活動的でないコミュニティソーシャルワーカーと比べて数倍以上の相談案件に対応していた。
 これは、経験したことがあるソーシャルワーカーならわかることだが、相談は、加速度的に、相乗的に増える。

 これは、もちろん自慢ではない。むしろ、他の地域でも、同じか、あるいはもっと潜在化しているんじゃないか。それなのに、なぜ、地域へ出ないんだろう。何故1日パソコンの前で座っているだけなんだろう。
 …こういうことを、思い続けてきた(当時、自分には役職もなく、指導的立場になかったので、自分と同い年、あるいは年上の職員へは言えなかった)。

 ビジネスの世界では、営業職に向けてこんな言葉がある。

「来ない人はいない人」

 つまり、営業にこなければ、あるいは営業の電話がかかってこなければ、相手にとって営業マンは「いない人」なのである。
 あなたもそうなっていないだろうか。

 恐らく、ここまで読んでくださった勉強熱心なソーシャルワーカーは、そんなことはないだろう。
 絶対に、困っていながらも相談につながっていない人はいる。そして、そんなあなたの熱意は、必ず周りの人に伝わる。

 ぜひ、地域へ出向いてほしい。

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