リメンバー・ミー
えー、個人的に、今だ "観たら絶対泣く映画ベスト3" にランキングされている「トイストーリー3」、そのスタッフが制作したピクサーの最新作ということで。えーと、相変わらずピクサー毎回全力で怖いです。そうとう冒頭の、主人公ミゲルが自作ギターで演奏するシーンから泣いていました。ディズニー/ピクサー最新作「リメンバー・ミー」の感想です。
映画好きの人で、アニメだから、子供向けだからって理由でピクサー作品を観てない人は最早いないと思いますが、もし、まだいるのなら勿体ないのですぐに改めた方がいいです。特に今回の「リメンバー・ミー」。なんでしょう、もう圧倒的過ぎて。映画のアトラクション化にはあまり肯定的ではないんですけど、極上のアトラクションであり、行ったことのないところに連れて行ってくれて、体験したことのない生を生きさせてくれるという正しく映画そのものでもあり、もの凄い吸引力でその世界に引っ張り込まれて、あらゆる感情を掻き回された上、エンドロールが始まる頃には、人生において大切だけど、日々を生きることで忘れてしまっていたあることに対して深く考えさせられるという。映画そのものの持つ可能性のあらゆる側面を活用した様な表現といいますか。(映画というメディアを使ったディズニー哲学の表現。だから、もう、芸術って言っても過言ではないんじゃないかなと思いますけどね。)例えば、「夢を持って生きる」っていう、この映画が語っているテーマの中のただひとつをとってみても、その良い面と悪い面の両方を見せてくれて、それが人生においてどういう効果を表すのか、その哲学的な意味までをも含めて見せてくれるんですね。だから、「夢を持って生きる」ってことがテーマでありながら、それを単純に推奨する様な映画ではないんです。(で、これはディズニー作品を追って観てる人には既に当たり前の大前提ではあるんですけどね。)しかも、そういう複雑でデリケートで社会的にも意味のある話を最先端のCG技術と練りに練ったアイデアで、ただボンヤリ観てても最高に面白い超絶エンターテイメントにしてるんですよ。(これを毎回やって年に何本も公開してるんですから、恐ろしい会社ですよ。本当に。)
でですね、その超エンターテイメントにしてる意味って子供に観せる為なんですよね。現代のいろんな境遇にいる子供たちに対して「夢を持って生きる」っていうのはどういうことかを教える為にもの凄い考えているんですよ。(そこのとこがやっぱりディズニーの凄いところだと思います。)そして、今回の「リメンバー・ミー」に関して言えば、この「夢を持って生きる」ということを語る為に対局にある「死」っていうのを持って来てるんですね。(だから舞台が、死者と近いところにある文化「死者の日」を持つメキシコなんですよね。)つまり、こうやって、子供に生きることを教えるのに対象としてきちんと「死」を描くんです。この誠実さというか、ちゃんと現実を踏まえて教えようっていうことを(こうやってだらだらと言葉で説明するんではなく、)文字通り絵で、その躍動感で見せてくれるんです。ここにアニメーションである意味というか、全ての動きに意味があるアニメーションでなきゃ出来ないことがあるんだと思うんです。
メキシコに住むミゲルっていう少年が主人公なんですけど、この子はとにかく音楽が好きで、ギターが好きで。でも、ミゲルの家には代々音楽をやってはいけないし聴いてもいけないっていうしきたりがあるんですね。なぜかと言うと、ミゲルのひいひいお爺さんがいるんですけど、この人が音楽で名を上げる為に家族を捨てて出て行ってしまったんです。その後、妻のイメルダはひとりで娘のココを育てながら、自分で靴屋を開店し店を大きくして、代々家族はその靴屋で働くことになるんです。つまり、ミゲルの一族にとって、音楽とは家族をバラバラにした呪いなんです。その呪いにミゲルは取り憑かれてしまったっていう話なんです。ということで、ここで大事なのって、これだけちゃんとした理由があって、ミゲル自身も半ば納得している"音楽は呪い"だということに対して、それでも、どうしてもやりたいんだっていうミゲル自身の音楽への強い気持ちをどう説得力をもって表現するかだと思うんです。でね、そのシーンがほんとに素晴らしかったんですよ。ミゲルが自分で作った隠れ家みたいな場所があって、そこに憧れのミュージシャンのエルネスト・デラクルスのレコードや主演した映画のVHSなんかが散乱しているんです。で、その映画の演奏シーンを再生しながら、ミゲルが見よう見まねで自作したであろうギターを弾くんですね。その指の動きや陶酔しそうな顔の表情なんかから、恐らく何百回とこのシーンを見て、そして、一緒に演奏してるんだろうっていうのが伝わってきて。ミゲルがいかに音楽をすることに心を奪われてるかが分かるんです。(このシーン、アニメーションとしての動きも最高なんですけど、ギターの音のつけ方も良かったんですよね。ミゲルが自作したギターなので、ちゃんとした音は鳴らないんです。弦が錆びついててあんまり響かない音になってて、それでも演奏の仕方で丁寧にメロディーを追って綺麗な音を出そうとしている感じが物凄く伝わってくるんですよね。)ここで僕は完全にミゲルとシンクロしてしまいました。自分が好きになってしまったことが他のみんなからは間違ったことの様に言われる。みんなが言ってることがおかしいとも思わないけど、自分がしてることが間違っているとも思えない。このもやもやした気持ち誰もが思春期に一度は感じているんじゃないかと思うんです。
なので、結構冒頭のここでシンクロしてしまったので、あとはとにかくミゲルが音楽を出来る様になるのを願うばかりでハラハラしながら事の顛末を見守るってことになるんですが。あの、話自体はベタな家族愛の話で新しさがないっていう感想を言ってる人がいたんですが、僕はそこ、全然そう思わなかったんですよね。それよりも家族の中で孤独になっているミゲルの話だと思うので。体制の中の個の話なんじゃないかと思ったんです。(だから、家族というよりは種族とか、地域とか、世界とか、コミュニティーの中での自分というものを描いてるんではないかと思いました。)で、それを中心にして、芸術とはとか、伝統とはとか、うーんと、例えば、伝統を受けついでそれを継承していくことも大事だけれど、伝統に反発して新しい道を切り開くことも必要なんだということも言ってるし、(同時上映の「アナ雪」の短編も、伝統の大切さとそれに縛られることのバカらしさの両方を描いた話でしたね。)あと、血の話ですよね。家族をバラバラにした"音楽という呪い"が時を経て、また、家族の元へ帰ってくる。血と呪いの話なんですよ。(だから、僕、観ながら、先日観た「RAW~少女のめざめ~」っていうカニバリズム映画を思い出していたんですよ。あれとほとんど同じ話だと思いました。あれも、血と呪いの話なんで。)
と、まぁ、とにかく、練り上げられた脚本と感情をダイレクトに表すアニメーション表現があって、ミゲルたちが生活するメキシコの町並みだけでも美しいのに、それを上回る使者の世界の圧倒的なビジュアルとか。もう、ほんとにピクサー凄いと思いました。
(個人的に一番グッときたセリフは、ミゲルがイメルダに言った「家族って支えあうものでしょ。」ってセリフでした。家族を持ちながら何かをやるって常にこういうことなんですよね。)
サポート頂けますと誰かの為に書いているという意識が芽生えますので、よりおもしろ度が増すかと。