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ボヘミアン・ラプソディ

今朝起きてテレビをつけたらワイドショーでQUEENの特集していて、この映画をきっかけにした第何次目かのブームの到来を感じました。ボーカリスト、フレディ・マーキュリーの人生を中心に、'85年のライブ・エイド出演までを描いた音楽青春映画「ボヘミアン・ラプソディ」の感想です。

僕がQUEENを初めて知ったのは、ちょうどQUEEN第1期の節目くらいで、デヴィッド・ボウイとのコラボ曲の「アンダー・プレッシャー」が発売されて、「グレーテイスト・ヒッツ」というデビューから1981年までの代表曲を集めたベスト盤が出た頃だったんです。その頃洋楽全盛期だったので、音楽雑誌かなんかの名盤100選みたいなのがあって、それで名前を知ったと思うんです。恐らくレンタルレコード(のYOU&Iかハンター)で借りて来たのが最初だと思うんですけど、じつは、そのベスト盤が僕の音源でのQUEEN体験のほぼ全てなんです。(もちろん、その後の代表曲の「レディオ・ガ・ガ」とか、フレディのソロ曲の「アイ・ワズ・ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」なんかは知ってはいますが買ってコレクションするってところまではいかなかったんですね。あ、あと、あれですね。ジョルジオ・モロダーが「メトロポリス」ってSF無声映画の版権を買って、自分の音楽をつけて再上映したんですけど、その中の「ラブ・キルズ」って曲をフレディが歌ってて、そのサントラは持ってましたね。)で、それは、別にQUEENの曲を気に入らなかったってわけではなくて、逆にそのベスト盤(というか、その'81年までのQUEENの楽曲)が最高だったからなんだと思うんですね。

一曲一曲の完成度が高過ぎて、その曲の完璧さにそれ以外(の思想とか物語性)を求める気が起きなかったと言いますかね。(そこにある10何曲で満足というか。QUEENに関してはこの感じ分かってくれる人結構いると思うんですけど。)あんなに面白そうな見た目をしてるのに特にメンバーの生い立ちとかどんな性格してるのかにも全く興味が湧かなくて。で、これも、ああいう曲を演奏する人達の容姿として完璧にエンターテイメントしていたからなんだと思うんです。例えば、ジョン・レノンの音楽以外の動向とか、どんな思想をしているのかなんていうのにはもの凄く興味があったんですよ。SEX PISTOLSのジョン・ライドンなんかも音楽よりも先にその先鋭さに惹かれたりして。あらかじめ思想が入っている音楽というか、その分音楽の部分がシンプルで、思想の部分で補填されないと表現として成立しないみたいな、そういう欠落した部分がある物が僕はロックだと思っていたんです。で、QUEENてそのカテゴリーには全くハマッてなかったんですよね。だから、QUEENは僕にとってはロックバンドとして憧れの対象ではなかったし、その頃既にパンクの洗礼を受けていたので、ああいうショーアップされた陽性の大仰さ(要するにQUEENの持ってるメタル的側面です。)は受け入れづらかったんです。ただ、どんな音楽が好きなの?って聞かれれば、パンクが好きですと答えながら、あのベスト盤だけは密かに聴き続けていたみたいな、そういうアンビバレントな存在が僕にとってのQUEENだったんです。

デヴィッド・ボウイやキングクリムゾンとか、QUEENの様に緻密でショー的要素の強い曲を演奏するアーティストでも好きな(つまり、思想とその分の欠落を感じさせる)人達はいたんですけど、僕の中では、その人たちともQUEENは違っていて。QUEENてもっとキャラクターっぽい感じがあって。それって、(だから、今から考えると、僕がQUEENに感じてた抗えなさってそこだったのかもしれないんですけど、)フレディの持ってる"虚無感"だったんじゃないかと思うんです。で、それがこの映画を観ていて何となく分かったというか。なぜ、QUEENの思想とエンターテイメントのバランスがああいう特殊なものになったのかっていうのが。

はい、で、やっと映画の話ですが、上で書いた様な見方をQUEENに対してしてたということは、僕は"人間フレディ"というのをあえて見ようとしてなかったんじゃないのかなと思うんです。(で、それはフレディが意図してそう見せる様にしてたってことなんですけど。)でも、こういう映画の構造上、そりゃ、どうしたって映画は"人間フレディ"を描こうとするわけじゃないですか。なんですけど、その描き方が中途半端というか、映画を観ていて全てのエピソードが細切れに存在している様に感じたんですね。例えば、「ボヘミアン・ラプソディ」のレコーディング前に、急にオペラを取り入れることを思いついた様に映画では描かれてるんですが、実際は、その前の曲の「キラー・クィーン」の時にすでに(コーラスなどで)オペラ的要素はあった筈なので、ほんとはもっと前からオペラを組み込むことは考えていたんだと思うんですよ。でも、映画は "「ボヘミアン・ラプソディ」=「オペラ」" みたいな描き方をするんです。また、フレディが自分がゲイだと気づくっていう下りでも、それまで同性に興味があるなんて描写は全くなかったのに、急に「オレはゲイかもしれない。」って告白するんですね。だから、それを観てる観客の僕らは「えー、知ってたけども。」ってなるんですよ。(まぁ、フレディが同性愛者だっていうのは周知の事実なので、それまでの描き方の方が違和感があるんですけどね。)そういうちょっと短絡的な、ある種乱暴な描き方をしていて。ひとりの実在する人間の人生を描いているというよりは、フレディ・マーキュリーっていう架空のミュージシャンをエピソードごとに分けて描いている様に見えるんです。(同じ役者なんだけど、各エピソードでそれに合わせた違う役を演じてるみたいな。)で、それがフレディの持ってる"虚無性"によるものなんじゃないかと思ったんですよね。

あの、もちろん、漫然とそんな描き方されたらあまり感情移入出来ないし、単にエピソードを積み重ねてるだけに見えてしまって。僕なんかはどちらかと言えばQUEENのクリエイティビティの方に興味があったので、ブライアン・メイのあの独特なギターサウンドはどうやって作られたのかとか、コラージュみたいに曲を繋いでいく瞬間なんていうのをほんとは見たかったんですね。(デヴィッド・ボウイとのレコーディング風景とか。描いたら面白くなりそうな事実は沢山あったと思うんです。)わざわざ時間軸を変えてまで入れたフレディがエイズだとメンバーに告白するシーンなんかも結構淡々としていて。「あれ、そんなに泣けないな。」と思っていたんです。だから、そのノリで淡々と事実を確認する様に観ていたんですね。で、そのままライブ・エイドの出演シーンになるんですけど、そしたら、その演奏シーンで急に涙が出て来て止まらなくなったんですよ。最初、自分でも意味が分からなかったんですけど、たぶんこれって、その演奏シーンがあまりにも本物に忠実に、映画的演出を入れずに描かれていたからなんじゃないかと思ったんです。

要するに映画として全然スペクタクルじゃなかったんですよ。それまで、なんとなく"人間フレディ"が見えてこないなと感じていたし、他のメンバーも僕が思っていた通りの(とても、世界的にメジャーなロックバンドのメンバーとは思えない様な)気のいいお兄さん達だったし(その人たちがかなり民主的にバンドをやっていたのも良かったですよね。それによってフレディの良識さも分かるというか。家のパーティーに来てたボーイにちょっかい出そうとして怒られたらすぐ反省するのとか、「あ、この人常識人なんだ。」って分かるし、その上で無理してこういう生活してんだなとも思うし。)、だからといって、あの魔法の様な曲たちの秘密を暴いてくれるわけでもないしと思って観てたんですけど、その細切れの事実の行き着く先にあったのがライブ・エイドで演奏したっていうこれまた単なる事実だったってことで。この映画が最後に結論として示したのが、映画としての物語でも、フレディの人生でもなく、その全てを背負った上での単純に圧倒的な演奏だったという。その事実に感動したんですよね、たぶん。僕は。

だから、QUEEN的には全然大団円じゃないんですよ。長いキャリアの中での(復活のきっかけになったとはいえ)一回のライブでしかないわけですから。それでも、あのライブ・シーンで映画が終わってるってことは、何もかもを超えて音楽がそこで鳴っているってことが重要で、ほんとはもっと言いたいことや、公にしたい気持ちみたいなものがあっても、そういうものも全て音楽に昇華してシンプルに音を鳴らすってことこそが正義だっていう。(あそこで「レディオ・ガ・ガ」の歌詞にグッと来るのって、"子供の頃に聴いたラジオへの愛"って歌が人生全てを歌ってる様に聴こえるからなんですよね。)それって、僕がQUEENてバンドに感じていた抗えない良さの部分であり、で、それはフレディが持っていた(自分が何者なのか分からないっていう)"虚無感"から派生していたんだなと思ったんです。そして、それら全ての感情をダイレクトに感じられたからワケも分からず泣けたんだと思うんですね。つまり、この映画の暴力的な作りこそが最後の感動に繋がったのかもしれなくて。それって、ストーリーを追って感情を繋げていく映画的な感動というよりは正にライブでの体験的な感動なんですよね。

http://www.foxmovies-jp.com/bohemianrhapsody

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【映画感想】とまどいと偏見 / カシマエスヒロ
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