見出し画像

【映画感想】JUNK HEAD

堀貴秀監督が7年の歳月を掛けて、ほぼほぼひとりで作り上げた究極の自主制作作品。ストップモーション・アニメーションの大作『JUNK HEAD』の感想です。

もちろん事前に知って観に行ったんですが、感想としては、まず、これをひとりで作ったのかというのがありますけど、ただ、それも最初の10分くらい。その後は監督が作り上げた世界観(ディストピアでサイバーでありながらかわいい、または、ポップでキャッチーでありながらエグイ)にハマったんですよね。僕は、この長編になる前の30分バージョンを何年か前に観ていて、その時はワン・シチュエーションということもあり、地上から地下世界へ降りて行くという冒頭、そこで出会う地下世界の人々とエイリアンの様な生物、絶望的な終わり方(そして、続きを暗示させるラストカット)とか、面白くなりそうなプロットを組み合わせてあって、それを監督の"好きなものを描くという情熱"でコーティングしてるのが面白かったんですが、それは(ある意味無責任な)自主制作で短編というテンションで乗り切れるものだからなんだろうなと思っていたんです(よくよく考えたら短編といえども、ストップモーション・アニメ―ションという手法はテンションで乗り切れるような代物ではなかったわけですけど。)。で、今回のは、それが115分という長編になっているので、まぁ、多少のテンションの浮き沈みは仕方ないだろうなと思ってたんです。そしたら、テンションが落ちるどころか更に壮大なディストピアSFになっていて素晴らしかったんですが、これが何から来てるのかと言ったら、やはり、"好きなモノを好きな様に撮る"の一点だったと思うんですよね。

とにかく、監督が好きな映画とかアニメとか物語とか、そういうのの元ネタみたいなものが満載で、そのひとつひとつの要素(例えば、キャラクターひとりひとりでも違う元ネタの要素を感じるし、世界観の設定とか機械周りのディテールとか)に愛情を感じるというか(その愛情が尋常じゃない手間暇の果てにあるというところが狂気的だと思うんですけど。)、誤解を恐れずに言えば遊びで作ってる感覚があるんです(つまり、何の為になるのか分からないことを7年間続けて遊び感覚が薄れてないというのが狂気なんです。まぁ、本来、遊びというのはそういうものですけど、それならば、遊びに対するストイックさが尋常じゃないってことなんですよね。つまり、どちらにしても狂気だと。)。実際、ストップモーション・アニメの大変さなんて100分の1も想像出来てないと思いますが、そういう大変さの前に常に「ああ、楽しい。」っていうのがあって。例えば、地下世界に落ちて行く主人公の身体がバラバラになって、拾われた頭だけがマッドサイエンティストみたいな科学者にいじくりまわされて、被ってたヘルメットのシールドが開いて中の人間の顔が目覚めるみたいな、全体の構成からしたらこんなに丁寧に描かなくてもっていうディテールをですね。じっくりとやるんですよ。こういうとことか見てると(ていうか、こういうとここそがこの映画の本質だと思いますが。)、子供の頃にやってた人形遊びとかで、その人形が存在している世界とか人形のバックボーンなんかをぶつぶつと考えながら遊ぶじゃないですか。こういうシチュエーションの時はこういう感じの雰囲気でこういうディテールでって。あの感じがあるんですよね。どういう理屈で顔だけになった人間が生きてるのかは分からないんですけど、そんなことよりも顔だけになった人間が様々なサイボーグに改造され変化しながら冒険して行くってシチュエーションの面白さの方が勝ってるというか。自分の頭の中の物語だから自分が面白い方が正義っていう。その一点の情熱が観てるこちら側にもめちゃめちゃ伝わってくるんです。映像の圧倒的な熱量と変質的な執着心によって。

だから、この映画で最も狂気的かつ創造的なのは、その子供の頃に廃屋みつけて学校休んでひとりで遊んでた時の様な繊細さと傍若無人さを、1秒動かすのに24コマ作らなきゃならないストップモーション・アニメの中で、しかも、7年間続けて折れるどころか全く薄まってないところで。あの、ホラーっぽいとかグロいって言われてますけど、それさえもその狂気に比べたら無邪気と言いますか。作り込みの凄さとかもその無邪気さの中に内包されていて、全てが遊んでる中で監督の楽しかった記憶の再構成みたいになっているんです。それが観てる僕らの記憶(ああ、これは『AKIRA』だとか、『甲殻機動隊』っぽいとか、タツノコプロだとか、『エイリアン』とか、『鉄男』とか、『エレファントマン』観た時の不安な感じとか、『イデオン』とか『ダグラム』とかの『ガンダム』以降のロボットアニメのシリアスさとか、あの頃の自分を構成していた“楽しい”)と呼応して来て、とにかく観ていてワクワクするんです。そういう廃墟感とかディストピア感とか倫理観のなさとか、この世界では人類はこんなんなっていてこんな風にしゃべっていてみたいな感覚が、ひとりの人の記憶の集積から生まれて来ているっていうのをめちゃくちゃダイレクトに感じて、なんか、ひとりの人間が考えてることっていうのが何にもましてSFなんだなって。それがとても新鮮だったんです。とにかく理屈じゃなく興奮するアクション映画ひさしぶりに観ました。

https://gaga.ne.jpno/junkhead/index.html

サポート頂けますと誰かの為に書いているという意識が芽生えますので、よりおもしろ度が増すかと。