【注目映画紹介】 ベルファスト
・ストーリー
北アイルランドの都市、ベルファスト。
元々、北アイルランドはカトリックの多い地域だったが、イングランドに併合されてから、多くのプロテスタントがやってくる(現在も北アイルランドはイギリス領。イギリスの正式名称はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国)。その結果、カトリックは少数派となり、政治的にもプロテスタントに主導権が渡る。そして宗派間での争いが勃発する。その紛争の中心地となったのが、ベルファストだ。少年バディは、家族が大好きで、同じ学校の少女キャサリンが大好きで、そんな人たちが住むベルファストが大好きな少年。そんな大好きな街で突如、紛争は始まってしまう。
激動の時代に翻弄される、ベルファストを愛した人々の物語。
監督であるケネス・ブラナー自らの体験をもとに作成された映画。
・感想、見どころ
生まれ育った地が暴力で溢れていく恐怖
対立や紛争は、現代の日本人にはなじみのない光景で想像がつきにくいが、世界を見渡せばそんな光景が増え始めていることに気が付く。その恐怖と喪失感を、この映画で感じることができる。軽快なシーンに突然響く爆発シーンは、平和な日常が突如奪われる恐怖を、徐々にベルファストでの生活が苦しくなり、悲しみに暮れる人々の様子は、私たちに喪失感を与える。
しかし、暗い映画では全くない。鑑賞後、前に進むための勇気を与えてくれる映画である。好奇心旺盛で、活発な少年バディの存在は、世界のピュアな部分に目を向けさせる。バディと祖父の会話には注目だ。バディの突拍子もない質問への、ユーモアとフィロソフィーを交えた祖父の回答に、心が暖かくなること間違いなし。
ベルファストのコミュニティの強さに感動
ベルファストで紛争が激化する中、それでも家族はそこに残ろうとする。それは家族全員がベルファストと、その地に住む人を愛していたからだ。しかし、争いは一向に収まらない。その中でベルファストに残るのか、安全を求めベルファストを去るのか、葛藤する様子に胸が痛くなる。
地元を去るというとき、私たちは「華やかな新生活」や「希望に溢れた未来」というのを想像するけれど、政治によって地元を離れることを余儀なくされる者は、どんな思いなのか。鑑賞後、少し想像を膨らませてほしい。
ベルファストを去るもの、ベルファストに残るもの、それぞれの思いが交錯するラストシーンに心が温かくなる。
宗教を超えた人間の普遍的愛
宗教の違いは、いつも争いを生む。ベルファストで起きた紛争も、カトリックとプロテスタントという、キリスト教の異なる宗派間の争いだ。
そもそもこの二つの違いは何なのか?時代は16世紀の宗教改革にまで遡る。当時のキリスト教会は、免罪符を配ったりしながら、資金集めに奔走していた。そこに異議を唱えたのが、ルターという修道士だ。キリスト教は、聖書の教えに立ち返るべきだと説いた。彼に賛同し、生まれたのが「プロテスタント」という宗派だ。
教皇をトップに据えるカトリックとは違い、プロテスタントは人間を皆平等とし、徹底した聖書主義を貫く。神は同じなのに、主義で対立するということに、結局世の中は人間が動かしているのだと気づかされる。
バディの家は、北アイルランドでは多数派のプロテスタント。そしてバディが恋するキャサリンは、少数派のカトリックだ。
バディは父に問う、「僕はプロテスタントだけど、彼女と結婚できるかな?」
「バディ、彼女がヒンドゥー教でもバプテストでも、関係ないよ」と優しく答える父の姿が、人類の普遍的愛に気づかせてくれる。
・まとめ
私たちが生きる時代、私たちが生きる日本という国から遠く離れたところで起こったベルファスト紛争。しかし、その問題はウクライナやアフガニスタン、ミャンマーを筆頭に、今もなお世界で起き続けていて、日本にも徐々に忍び寄りつつある。
今こそ、このベルファストを見るべきだ。紛争により愛した地を離れなければならない辛さ、親しい人と引き裂かれる悲しさを知り、バディのように偏見にとらわれない視点を学ぶことができれば、世界は少しだけ進歩する。そう信じたい。