【レビュー】Sea of Stars【ネタバレあり】
クロノ・トリガーやマリオRPGを彷彿とさせるビジュアルやシステムで2023年8月29日にリリースされ話題を呼んでいる『Sea of Stars』を真エンディングまでクリアしたので、その感想・レビューを書いていこうと思います。
▽Sea of Starsというゲームはどんなゲームか?
最初にも書きましたが、本作はクロノ・トリガーやマリオRPGなどSFCで発売されていたオールドスタイルのJRPGに寄せて作られた作品です。
クオリティの高いドットグラフィックや、シンプルなターン制バトル、また、先に挙げたタイトルであるクロノ・トリガーでも音楽を担当していた光田康典氏による楽曲も提供されており、プレイの手触りという面ではかつてRPGをプレイしていた人には懐かしさを感じるような出来になっています。 そんな本作の制作はSabotage Studioというカナダのゲーム開発チームで、要するに日本国内から見ると海外産のJRPGという逆輸入のようなソフトです。
▼評価できる点
▽美麗なドットグラフィック
まず、かつてのオールドJRPGを彷彿とさせるようなドットによるグラフィックは素晴らしいの一言です。
ドットイラストは非常に丁寧の一言です。戦闘における敵一つ一つのモーションや技もバリエーションに富んでいますし、イベントシーンでもちょっとしたシーンでしか使われないような差分も多数作られており、見ていて飽きません。
インディーズゲームで、かつ海外産のタイトルでドットを使ったオールドスタイルの作品はこれまでにも多数出ていましたが、これほどに手の込んだ完成度の高いグラフィックは頭一つか二つは抜けているのではないでしょうか。
▽音楽
音楽に関しても非常にクオリティは高いと言えます。フィールドやダンジョンなどに合わせて耳馴染みのいい楽曲が細かく分けて作られており、ゲームプレイを盛り上げてくれます。
Steamで配信されているOST(オリジナルサウンドトラック)ではディスク3つ分、総楽曲数206という圧巻の量で、本作における楽曲のボリュームを示しているかと思われます。
また、先に述べたように光田康典氏による楽曲も提供されており、懐かしさを感じるプレイヤーも少なくないでしょう。
▽シンプルながら頭を使う戦闘システム
本作における戦闘システムは昔ながらのターン制コマンドバトルです。
敵キャラの上に表示されている数字が相手の行動するまでの猶予ターンです。この間にプレイヤーはキャラクターに行動をとらせることができます。プレイヤー側のターンはキャラクター全体を一括りとして1ターンとなっており、1巡(3人であれば1人1回ずつで3ターン)するまでは自由な順番でキャラクターを行動させることができます。さらに、4人目・5人目と仲間が増えた場合はコマンドリスト一番下にあるように【入れ替え】を使い即時入れ替えの上で行動させることができます。
また、右側の敵キャラ上部に剣のアイコンが二つ表示されていますが、これは敵の特殊行動の予兆とそれを阻止するための行動となっています。この場合は、『剣(斬撃)における攻撃を2回当てる』ことで相手の特殊行動を止めることができる、ということです。各キャラには通常攻撃やスキルで対応できる属性がそれぞれあるため、上手く行動順番を考える必要が出てきます。これがパズル的な戦略性を作り出しており、前述したように入れ替えを駆使したりして相手の行動を上手く防いでいくことがバトルで勝つためのコツになっています。
さらに、行動には攻撃が当たる直前にタイミングよくボタンを押すことでクリティカルヒットを出すことができます。クリティカルヒットを出すことで攻撃が2回ヒットしたり、追加のダメージを与えたりすることができます。これはマリオRPGにあったシステムと同じで、単調化しやすい戦闘における適度な緊張感を産むため、飽きさせない要素とも言えます。
しかし……
▼正直微妙な点
▽長くなりがちな戦闘時間
先に述べた戦闘システムは一長一短で、適宜コマンド入力があるのは面白いポイントでもありますが、例えば『ボタン入力を続ける限り攻撃が続く』といったスキルも中にはあったりします。そして、相手によってはそうしたスキルが行動阻止条件になっているため、戦闘が間延びします。
更に、敵モブ一つ一つに丁寧なドットイラストやモーションが用意されているのは素晴らしいのですが、その演出が長いというのもあまり褒められた部分ではありません。ボスモンスターであればまだしも、道中のいわゆる雑魚敵でも長い演出が少なからずあり、ゲームプレイに「待ち」が増える結果となっています。
道中の雑魚敵は一度倒すとダンジョン再侵入などで再読み込みを行わない限り復活しませんので、長い戦闘を何度も無駄に繰り返すことはそうそうありませんが、雑魚敵との戦闘でも一つ一つがカロリー高めの戦闘になっているのは否めません。
そしてそうしたカロリー高めの戦闘ではありますが、各キャラの持つスキルは3つ+1つ(奥義技)のみとなっており、バリエーションは決して多くありません。要するに、雑魚敵からボス戦まで同じような攻撃やスキルを使い続けることになります。長くなりがちな戦闘の上で、ワンパターンに思えてくる戦闘は食傷気味になりやすいとも言えます。
▽レベルアップや装備におけるカスタマイズ性の少なさ
本作はRPGであるため、定番のレベルアップや装備品といった要素もあります。ただ、正直に言えばカスタマイズ性の低い、一本道的な要素になっていると言えます。
レベルアップは多くのRPGと変わらず経験値を入手して一定量に達するとレベルが上がるというものです。その際に、四つのステータスが特別に表示され、そのうちから一つを選んで特に伸ばすことができるようになっています。ですが、キャラクターには成長上限のようなものが設定されているようで、都度都度で上限ステータスに収束するようになっています。そのため、ある一定のステータス(例えば攻撃など)を突出して伸ばすビルドなどを行うことはできません。
さらに経験値稼ぎに関しても、先に述べたような雑魚敵との戦闘が意図的に周回しない限り少なくなるため、レベル上げといった要素がほぼないとも言えます。
装備品についても最新の町やダンジョンに行けば基本的にその時点での最強装備(武器や防具)が手に入るようになっています。アクセサリーには付加効果があり、各キャラクターの立ち回りを変えたり決めたりすることができるものもありますが、入手数やバリエーションが少ないため、決してカスタマイズ性が高いとは言えません。
▽ミニゲームやギミックの物足りなさとワンパターン
本作はミニゲームやギミックと呼ばれるものが用意されています。
釣りは完全に本筋から外れたミニゲームですが、ダンジョンにはギミックや謎解きが用意されています。
ですが、それらで頻出するのがブロックを動かして配置するという倉庫番のようなもので、序盤のダンジョンから最後の方のダンジョンまで出てくるため、はっきり言って飽きてきます。
それ以外にもグラップル(ゼルダの伝説におけるフックショットのようなもの)を使った移動や梯子やツタを使った壁移動などがありますが、これもパターンは決して多くありませんし、結局のところ『ただの移動』でしかないので手間にしかなっていないというのが正直なところです。ロープや木材の一本橋を渡るという場面も頻出してきますが、これも移動に手間がかかるだけで時間のかかる演出以上の意味がありません。
ダンジョンのギミック全体に関してもワンパターンと言わざるを得ないというのが実際のところです。
大広間的な中央エリアに最初に辿り着き、左右の部屋を攻略することで中央エリアを進むことができる、といったものが頻出してきます。分かりやすいと言えばそれは確かに間違いないのですが、同じパターンが頻繁に見受けられるため「またか……」となります。
そして……
※以下シナリオに関するネタバレを多く含みます。未プレイの方はご注意ください
▼決して評価できない点
▽淡泊で味気のないシナリオ
本作はRPGであるため、当然ながらストーリーがあります。
が、はっきり言ってしまえば面白いとは言えない、力不足の作品に仕上がっています。
大筋としては、
「夏至と冬至の日に生まれた子供であるゼイルとヴァレアは、それぞれ太陽と月の力を使うことができる至点の戦士と呼ばれる存在であり、世界に存在する『棲まう者』を倒して世界を救う」
という話です。途中や後の展開を端折っていますが、大筋としては分かりやすいものと言えます。(夏至や冬至に対する感性が日本と海外で違うので、個人的にそこへ特別性をあまり感じないのは仕方のない部分ではありました)
しかし、その一方で肉付けの部分が圧倒的に未熟です。
主人公は二人ですが、『キャラクター』として弱いとしか言えません。口調や性格に関してはごくごく平凡で味気がなく、「使命を与えられた存在」であるため物分かりが良く展開に対して非常に素直です。
その最たる例が、作中で二人に対する先輩である至点の戦士の男女に対してです。
彼らは一生を縛り付けられる戦士としての役割を煩わしく感じ、抜け出したいとも思っています。その結果として主人公たちを裏切るのですが、そこに対して主人公たちは理解しようともせず、ただただ「逃げ出した卑怯者」とのみ認識して罵倒するだけで終始します。彼らは主人公たちに対しての対比の存在(使命に対するスタンスや、月と太陽という役回りも男女が違う)でもあり、因縁の深い相手でもあるので上手く絡ませることで物語や主人公たちのキャラクター性を引き立たせるのに十分な役割があるのですが、それがなく非常にもったいないとしか言いようがありません。
同時に仲間の裏切りによって強大な敵が復活することになりますが、それを見た至点の戦士を育成する学院長は恐れおののき、あっさりと自分の使命を放棄して隠居することを選びます。至点の戦士として生きることは人としての人生を放棄するにも等しい(だからこそ先輩たちは逃げることを選んだ)と自ら説いておきながらです。そして、それを目の当たりにした主人公たちはこれをあっさりと受け入れます。物語に対して非常に都合の良い物分かりの良さとしか言いようがありません。
また、こうした主人公たちであるため、自ら先に立って物語を進めるという役割には基本的に向いていません。多くのシーンで主人公たちは自らの行動指針や動力源となるキャラクター性がないため、「……」という沈黙をわざわざ示したりするほどです。ここには感情のようなもの、例えば絶句や熟考といったものは感じ取られず、ただの無言でしかありません。そのため、物語の進行は受け身になるか、主人公たちの幼馴染である普通の人間のガールが前に立つことになります(※ガールという名前であるだけで男性)。ガールは非常にキャラクターの立った存在であり、ガールがいることで序盤は物語が進んだとも言えます。最終的にも重要な役回りに立つことになり、至点の戦士という舞台装置でしかない主人公より、物語を動かした存在でもありました。
ただ、そのガールに関しても決して素直にいいキャラクターだったかと言われると疑問が残ります。
彼は強大な敵の攻撃を主人公たちの代わりに受け、瀕死の状態になります。そこで余命を使い主人公たちを導こうとしますが、ここの部分において圧倒的に説明が足りていません。「目覚めると世界が滅びると言われるほどの眠り続ける竜を目覚めさせる」「天空の評議会に許可をもらう」「星の海を渡る」など初出しの情報を含めて唐突なことを一気に手順付きで説明するのですが、それに対しては幻視で見て知った(それもテキストでの説明はなく演出のみ)以上の説明はありません(もし伏線があったのなら申し訳ないです)。そしてガールがそれを成す必要があった存在、主人公二人に並ぶほどの特別な存在であるかどうかも特別描写されることはありません。結果として特別な存在であったという落ちが付くだけです。(霧の長老の予言などもありはしますが、あれは結論が先にある上での先出しの言葉でしかありません。物語上の必要性、設定とは別と言えます)
▽ただ「ある」だけのテキスト
テキスト周りに関しては全体的に物足りないとしか言いようがありません。先に述べた主人公二人の台詞を筆頭に、他のキャラクター、敵キャラ、NPCとあらゆる部分で台詞が味気ありません。これは、海外産のゲームであるため、少なからずローカライズ面での影響もあるのですが(「これって~」や「~だし!」といった口調はそうした影響の一つと思われます)、まず会話自体が無駄の少なすぎる必要事項のやり取りに終始しているため、全体的なテキスト量の不足は間違いないと思います。
特にNPCに関しては話しかけても中身のない自己完結の一行のみの台詞を吐くだけが多く、ただ「ある」だけにしかなっていないとしか言えず、RPGでは定番の「町でNPCと会話をする」という行為が必要なくなっています。そのため、設定や存在感という面での深みが全くありません。
それはシナリオ面での台詞でも概ね同じで、あらゆるキャラクターが端的に話すため、物語として味気なくなっています。そして必要なことを話しているかと言えばそうでもなく、説明不足に話が進んだりもします。(例えば幽霊船の話ですが、本編中ではその設定について語られるのはほんの少しで、どういった設定で存在しているのかなどについては、チークスと言う遺物から物語を生成する能力があるグリモアを持つ女性に自主的に話しかけて聞く必要があります。そしてそれを聞くためには遺物をダンジョンなどで能動的に入手する必要があるため、場合によっては聞き逃すことも考えられます)(そしてこのチークスの語りに関しても、設定が語られはするものの、ただの設定の垂れ流しにも近いので、没入感や物語の一環としての役割は弱いです)
▽オマージュに対する「ただやりたかった感」
作りから目標としているのは分かりやすいですが、クロノ・トリガーへのリスペクトやオマージュといったものも見受けられます。
例えば、敵の能力によって時間の止まった城から出ることのできない子供たちが、外に出るためと主人公たちの手助けをするためにロボットに魂を移すというシーンがあるのですが、子供たちのリーダーが「キャエル」で、ロボットの姿がカエルのような姿だったりします。これはクロノ・トリガーにおけるカエルやグランドリオン、ロボのオマージュを感じられます(これは個人的に感じるものでしかなく正しいかどうかは別ですが)。
こうした部分は本筋に関係のないニヤリとさせられるシーンで面白いのですが、個人的に気になったのはガールに関してです。
先述したように、ガールは主人公たちの身代わりに受けた攻撃で致命傷を受けてしまいます。その結果、ガールは最終的に死亡するのですが、実際はその時に、仲間の一人であるレシュアンの力で、攻撃を受ける直前に時間が止められています。
クロノ・トリガーをプレイしたことがある方はここで気づいたでしょう。クロノ・トリガーでも敵の攻撃を受けて死亡してしまう主人公を、時の止まった世界で身代わりと入れ替えて救い出すというシーンがあるからです。なので、プレイ済みの方はガールを救い出す方法があるだろうと予想がついたと思います。
結果から言えばそれはありました。ですが、その方法が問題と言えます。
本作はいわゆる通常エンディングと、真エンディングが存在するのですが、その開放条件にはコレクション要素である『虹の巻き貝』という、各地の町やダンジョンに配置されているアイテムを全て集めきる必要があるからです。
前述したように、本作の戦闘やダンジョン探索は手間を感じるものが多くあり、そこを再び端から端まで探索しなおす(加えて言うなら、前のダンジョン・フィールドの敵は倒しても入手経験値量が少なく、アイテムドロップも本作ではほぼ意味がないので、『戦うだけ無駄』になります)のは、手間というより苦痛です。また、物語終盤になれば自由に空を飛び回れるようになるのですが、それ以前ではショートカットがない場所などは初回時と同じようにフィールドを進んでいく必要があり、その上、一度侵入したフィールドやダンジョンからは簡易的に抜け出す方法(ドラゴンクエストにおけるリレミトのようなもの)がないため、探索においても自由な行き来が困難と言えます。
そんな状態で、基本的にはコレクション要素、ドラゴンクエストでいうところの『小さなメダル』のようなオマケ的アイテムを集めることが物語の真エンディングに繋がっている。これが面白いアイディアとは決して言い難いです。加えて言えば、通常エンディングでは最後に「おしまい?」とまだ本当のエンディングがあることを示唆するような演出があり、導線として「真エンディングを目指させるもの」になっているとも受け取ることもでき、その上で単調な収集を要求されるのは面白みがないと言えるでしょう。
結局のところ、これが問題となり得るのは、ガールの生存が重要なのかどうなのか分からない、そしてその手法としてクロノ・トリガーのオマージュが使われているというところです。
要するに、クロノ・トリガーに限らず、多くのレトロJRPGへのリスペクトやオマージュが詰め込まれた本作において、この真エンディングですらも「ただやりたかったから入れた」程度なのではないか、ということです。(そもそもで辿れば、レシュアンが時を止めたことですらも唐突な話と設定でした)
▽唐突なシューティングゲーム
ラスボス戦で突然出てくるシューティング。
これに関しては色々と書く必要はないかと思います。プレイしていて真顔になりました。
はっきり言って面白くありませんでした。
▼大きな問題点
▽製作者はプレイヤーの方を見ていないのではないか?
ゲームに限らず、多くの創作物において「作りたいから作る」は大きなモチベーションになります。そこを忘れてしまえばいい物を作ることはできないでしょう。
ただ、本作において、「作りたいものを作る」は先行しすぎに感じました。90年代のゲームを思わせるドットのイラスト、懐かしさを感じるBGM、シンプルなレトロJPRGオマージュの戦闘システム。これらは確かに制作陣の「作りたいもの」であったのは間違いないかと思われます。結果として、多くのユーザーによってその部分は評価されています。
ですが、全体として見れば個々の「作りたいもの」でしかない「パーツ」が目立ち、それらを結びつける「繋ぎ」は非常に弱く感じます。制作者側が作りたいものを作っただけで、プレイヤーが実際に遊ぶことを考えていないのではないか、と思ってしまう部分が多々ありました。悪い言い方をするならば、「こうしたパーツさえあれば形になるだろう」といった考えがあるようにも思えてしまいます。
それが本当であれば、非常に悲しい話です。
(もちろんこれは勝手な想像ですが……)
「こんなもんで形になるだろう」と思っているなら「こんなもんじゃねーよ」と言いたくなるのです。
もちろん本作は『クロノ・トリガー』ではなく『Sea of Stars』であるので、幻影を見て勝手に幻滅するのは本当に勝手なことで、本作がそもそも「こういう意図的な設計で作ってる」と言われればそれまでではあるのですが。
ただ、そうした個人的な想像を除いても、プレイヤーフレンドリーに作られているとは決して感じませんでした。「見てみて、こういうのが好きでしょ?」ではなく「こういうのが好きなんだ。見てくれ」だけではゲームに限らず、創作物として評価に足るとは言い難いです。あらゆる点でユーザーに対する気配りが感じられているとは思えなかった本作は、個人的には面白いと感じられるものではなかったし、客観的にもあまり評価できるとは言えません。
はっきり言ってしまえば、本作『Sea of Stars』はクオリティの高いものを出してきている一方で、圧倒的な技量不足だったと言えるでしょう。
JRPGへのリスペクトで構成されているのであれば、もっと深いところまでしっかりと理解して、習得した上で作り出して欲しいと感じます。
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