流行・数字に惑わされない、わが子を伸ばすのに必要な”目”
5万組以上の親子を見てきた花まる学習会の代表 高濱正伸さんとラグビー界で「コーチのコーチ」として活躍する中竹竜二さんの人育て=子育て論を見ていきます。
■中竹竜二さんの主張
off the fieldで子どもを伸ばす親の6カ条
ーわが子を見る”目”
子どもを伸ばす親になるための6カ条のうち、一番大事なのは、わが子をよく見る「目」です。
「子どもをよく見る」と漠然と言われても、どこを見ていいかよくわからないということがあるかもしれませんね。
体育の先生であれば、逆上がりができるようになるまでの間の成長をよくわかっていると思います。でも、親が初めて逆上がりを練習しているわが子を見たときに、全然できなかったのに、あとちょっとでできるようになっているところなのか、最初と全然変わらないのか、練習の方向性があっているのかなど、それだけを見てもわからないことだらけでしょう。
私が初めて監督になったときにも、チームや選手のどこをどう見たらいいのかわからず、とにかく目を慣れさせることに必死でした。そうするうちに、目を慣れさせるための一番の近道は「視点を増やすこと」だと気づきました。視点を増やすことで、同じものを見ていても見え方が変わってきたのです。
目を慣れさせるための、視点の増やし方
視点を増やすためには、人とのコミュニケーションをたくさんとることだと思っています。百人百様、いろいろな性格や性質、行動パターンなどがあって、それに気づくことで人の見方の幅が広がっていくのです。
私が監督のときにしっかりと見ようとしていたのは、選手が「ゾーン」に入っているかどうかでした。ゾーンというのは、雑念がなく、とことん集中している状態のことです。
選手というのは、自分では気づいていなくても、監督からの視線を気にしていることがあります。試合後に、「なぜパフォーマンスが悪かったかわかる?」と聞くと、「敵のプレッシャーが……」とか、「パスしたい味方が遠かったので……」と他人のせいにしたり、「コンディションがちょっと……」とか、「前日に〇〇があったんで~」などと言うのですが、どれも本当の理由ではありません。
理由は簡単、ゾーンに入っていないために、監督の視線や評価、今の自分のパフォーマンスがどうだのこうだの、といったことを気にしている状態だったのです。
「オレの顔を見過ぎだよ」と伝えると、本人は気づいていないので驚きますが、ビデオを見せるなどして自分を客観視してもらうと納得します。親もわが子のそこを見てあげるといいと思います。親の顔色を見ていないか、ゾー
ンに入って熱中しているのかを見るのです。そして親自身も、子どもを見る自分自身を、もう一人の自分が見ているような視点を持つといいと思います。
■高濱正伸さんから親への解説!ここを活かして!
全員にいい教育などない!
今、世の中には情報が溢れていて、しかもすぐに手に入れることができます。だからでしょう、親がデータや数値の情報を鵜呑みにするケースが増えています。データや数値だと、一見するととてもよく見える。でも、実際は検証する数が少なかったり、条件が限られていたりする。しかし、そこまでは見ずに表面の数字だけを追いかけて一喜一憂することが多いのではないでしょうか。
教育の世界、子どもの世界に絶対はありません。これは私の信念。
環境や状況で変わってしまうデータや数値に惑わされず、 本当にわが子に合うものなのかどうかを自分の目で見て決めることが大切です。
たとえば、「ご褒美をあげるから頑張りなさい」と言うのはNGという人もいれば、それで成功した事例ももちろんある。絶対やるとかやらないとかではなくて、子どもの様子を見て使い分けることが大事です。
見るべきポイントは、わが子の目が輝いているか、夢中か、本当に楽しそうか、ということです。学校の先生の指導案作りも、指導案に沿うことばかりに意識が行きすぎて、肝心の子どもがどういう状態か、イキイキしているかに焦点が当たっていません。子どもをよく見て変えていけるかどうか、そのためには観察する「目」がすごく重要です。
―『どんな個性も活きるスポーツ・ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』より抜粋・編集 ※対談で高濱正伸先生が登場します!
◆『オフ・ザ・フィールドの子育て』の紹介◆
本書では、「多様性」というキーワードに着目し、それを独自に育んできたラグビーに学ぶことで、子どもたちに多様性を身につけてもらえる、子育てをよりよくできるのではないかと考えました。
教えてくれるのは、「コーチのコーチ」をしてきた“教え方のプロ"である中竹竜二氏。
さらに、花まる学習会を主宰する高濱正伸先生から、著者の考えに対して、
「子育て」や「学び」の観点から、適宜コメントを入れていただきました。
また、巻末にはお二人の対談を掲載し、ラグビーに学ぶことの意義についてご紹介しています。
改めて「ワンチーム」という言葉の意味や、ラグビーが大事にしてきた「オフ・ザ・フィールド」という考え方を知ることで、わが子の個性をどのように活かしたらよいかを考えるきっかけとし、わが子が実際に輝ける場所を親子で一緒に見つけてほしいと思います。
“サンドウィッチマン推薦! "
ラグビーがなかったら、いまの俺たちはいなかったと思う。
「中竹さん、ラグビーから学んだことは、今に活きています! 」
―中竹竜二( Nakatake Ryuji )
株式会社チームボックス代表取締役
日本ラグビーフットボール協会理事
1973年福岡県生まれ。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、自律支援型の指導法で大学選手権二連覇を果たす。2010年、日本ラグビーフットボール協会「コーチのコーチ」、指導者を指導する立場であるコーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを経て、2016年には日本代表ヘッドコーチ代行も兼務。2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックス設立。2018年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。
ほかに、一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟 副理事長 など。
著書に『新版リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』(CCCメディアハウス)など多数。
2020年、初の育児書『どんな個性も活きるスポーツ・ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』を執筆。