海より布団の方が好き。
夏と冬、比べると、僕は圧倒的に冬が好きだ。
大量の汗をTシャツに染みさせたり、蚊に刺された所を掻きすぎて血が出たり、肌が黒くなりすぎたりしないからだ。
そして、空気が澄んでいるから、街に漂う多くの匂いを感じやすくなる。
どんな匂いでも、冬の澄んだ空気に紛れてさえしまえば、それは感情に訴えかけてくるノスタルジックな匂いになる、と僕は思っている。
かといって、冬にも嫌なところはある。
何しろ日が短い。
僕は、自分が植物なのではないかと疑うほどに、日の光を浴びないと心身の調子を崩してしまう。
次いで、寒いと朝の目覚めが最悪だ。ただでさえ寒くて布団から出ることができないというのに、外は真っ暗。そんな状態で睡眠→起床→覚醒→活動 の段を踏めるはずがない。
中高時代は雪国に住んでいたこともあり、冬には学校を休みがちだった。電車が10分遅れているだけで学校をサボった。僕は学校をサボるたびに自己嫌悪に陥り、日光の少なさもあいまってしばしば心を病んだ。
この少年期のメンタルが関係しているのかどうかはわからないが、僕は冬の初めになると、必ず無気力になる。
11月を超えて、12月に入ってさえしまえば、冬の寒さと暗さに途端に慣れ、活力を取り戻すことができる。でもちょうど今これくらいの時期が、僕にとって1年間で最も高い山場となる。この絶壁にも思える山を、例年の僕がどのように乗り越えていたのかは、毎年とてもじゃないが検討がつかない。何をしても凹み、何をしてもつまらない。そして、誰と会っても疲れる。
いやはや、本当にどうやって乗り越えていたのだろう。
僕は、入道雲や、海や、BBQよりも、布団の中のこもった暖かさや、居間から廊下に出た時の信じられないほどに冷たい床や、道路脇に身長ほどに積みあげられた雪の方が好きだ。寒い寒いと言いながら吸う煙草や、女の子の小さくて冷たい手や、モコモコとしたマフラーや、葉が落ちた樹木なんかも好きだ。
挙げ始めたらキリがない。それくらい僕の冬には好きなものがぎゅーぎゅーに詰まっている。それなのに、どうして入り口の前に立つとこんなにも足がすくんでしまうのだろう。
ところで、寒いな。
雪国出身の人間が寒さに強いというのは大間違いである。