ニート生活 final
ホテルの清掃バイトを始めた。
題名から御察しの通り、僕はここ一年ほどこれっぽっちもお金を稼いでいなかった。両親から送ってもらう少々のご厚意と、大学1、2年生の二年間で貯め込んだ貯金を切り崩して、ポッキーくらい細々と生活をしていた。
しかし、そんな生活も終わりを迎えることとなった。
貯金残高が残りわずかとなってしまったのだ。
僕は明細の「残高」の部分に記されている数字に戦慄し、腹の底から滲み出てくるような焦燥感に身をゆだねるようにして、上記アルバイトに応募した。
初出勤。僕は駅前でバイトリーダーの迎えを待っていた。
深夜のアルバイトゆえ、街の人は疎らだ。寝静まった高層ビル群のど真ん中、孤独とも恐怖ともつかない中途半端な胸のザワつきが僕の身体から少しずつ感覚を奪っていく。
するとそこにやって来たのは、年齢が僕と同じかそれくらいの男だった。
彼は僕に春野さんですか?と訊ねると、「こっちです」とホテルに向かって歩き始めた。僕は慌ててついて行った。
そのホテルは所謂一流ホテルと呼ばれる類の、品のある大きくて綺麗なホテルだった。裏口から入り、受付で入館証を受け取ると、着替えるための場所に案内すると言われた。
迷路のような廊下を少し歩き、エレベーターに乗って地下におりた。
僕はそこで仰天した。そこには、「カイジ」の帝愛地下労働施設顔負けの空間が広がっていたからだ。無数の太いパイプが縦横無尽に伸び、釘やトンカチなどの工具や仰々しいけど何に使うか検討もつかないような機械が所狭しと詰め込まれていた。
なんだここはああああ。と叫び出しそうだった。
そんな僕を尻目に、迎えに来てくれた彼と、これから一緒に働くらしい外国人の二人はいつもどおりという雰囲気で着替えをしている。
僕は少し怖くなりながらも、手渡された制服に着替えた。
僕はこんな場所に飛び込んでしまった自分を呪った。マジで普通に怖かった。
そしてそんな僕の恐怖に拍車をかけるようにして、外国人の男性と2人組で仕事をする事が告げられた。
えええええええええ、殺される??
そんなことを考えながら道具を一式持ち、現場に向かった。
結論から言うと全然殺されなかったし、バディを組んでくれたヤコブさんはめちゃくちゃ優しい人だった。
仕事もとても丁寧に教えてくれて、スムーズにこなすことができた。
そして、恐怖が消えてから浮き出て来た感情が「汚ねえ!」だった。
あんなに綺麗に見えたホテルの裏側はこんなにも汚いのかと、掃除する場所一つ一つに対してしっかりと思った。まあ汚いから掃除をしてるんだけど。
華やかな場所にも裏側がある。
当たり前だけど見落としがちなことを再認識できた。
そして、そのような裏側を、掃除しかり、管理してくれている人がいるということも忘れてはならないということも思い出した。
アルバイトは色々なものに対して「有難い」と思う心を養うのに大事だと、1年前まではあれほど思っていたのに、今まですっかり忘れてしまっていた。
このバイト、汚いし臭いけど続けなきゃなと、自分の有り難み精神の欠如からそう思った。
はい。ということで、ニートではなくなりました!!!!!
次から題名を変えたいと思います。
何が良いかなあ。