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童話【耳をすましてごらん】朗読あり


カサカサカサ

 耳をすますと森の中で音がします。
 野ネズミの親子が、落ち葉を踏んで、どんぐりを集めているのです。

「もっと静かに歩きなさい」
「はあい」 
おかあさんに注意されてチロルとティムは、元気よくおへんじをしました。
「しーっ声が大きいわ。イタチの足音が消えてしまうでしょ」
「ティム、だめじゃない」 
チロルが言うと、弟のティムはほっぺをぷうと膨らませました。
「おねえちゃんも言ったじゃないか」
おかあさんは、落ちているどんぐりに耳をあてて指ではじきました。
「中身が詰まっているどんぐりはボンボンと音がするのよ」
チロルとティムもどんぐりを拾って叩いてみるけれど、どの音も同じに聞こえるのでした。 

おかあさんは、いいどんぐりをたくさん見つけてきます。チロルとティムも探しますが、小さかったり虫食いだったり。
「ふたりとも耳をすますのよ」
チロルとティムは耳に手をあてて目をつむりました。
パタッ  
どんぐりが落ちる音です。 ティムが駆けよると、実がぎっしり詰まった重いどんぐりでした。
パタパタパタッ 
チロルは三つも見つけました。 おかあさんは、どんぐりを集めると、土に埋めます。
「どうして埋めちゃうの?」
「おうちにはしまいきれないから、隠しておくの。どこに埋めたかおぼえておきなさいね」

ゴウゴウゴウ 
夕方になると、強い風が吹き始めました。
カサコソカサコソ 
三匹は、おうちへ急ぎ足。 

おうちは、大きな木の根元にあります。穴の入口は、やっとおかあさんが入れるくらいの大きさしかありません。でも、なかは、三匹が手足を伸ばせるほど広いのです。床には落ち葉が敷き詰めてあって、ふかふか。奥にはおかあさんが集めたどんぐりがぎっしり。おうちに入るとチロルとティムは、ほっとしました。

寒い冬が来ておうちの外は雪で真っ白になりました。
「なんにも音がしなくなっちゃった」 
ティムが、つぶやくと、おかあさんはふたりを抱きしめて言いました。
「耳をすましてごらん」 
みんなで耳に手をあてて目をつむります。

トーン。トントン
うさぎが跳ねる音。
サクッサクッ
鹿の歩く音。
トサッ
雪が木から落ちる音。

「いろんな音が聞こえるね」
ティムは目を輝かせました。
「いつも耳をすましていなさい。いい音も悪い音も聞き逃さないように」 

夜になると、三匹は身を寄せ合いました。

トクトクトク 
おかあさんの心臓の音がして、チロルとティムは、安心できました。
ぐぐうぅ 
ティムのおなかが鳴ったので、ふふっとチロルが笑いました。
「おなかがすいたのね。どんぐりを食べましょう」 
おかあさんは、奥にどんぐりを取りに行きました。
「あっ」 
どんぐりを持つと、とても軽いのです。実には大きな穴が開いていました。
「虫に食べられたんだわ!」
おかあさんは、どんぐりを調べましたが、どれも穴が開いていました。 

食べものがなくなってから何日も経ちました。
「埋めたどんぐりをとりにいくわ」 
おかあさんが尻尾をリンと立てて言いました。
「なにが聞こえても、穴から出てはだめ。じっとしゃべらずにいなさいね」 
おかあさんは、チロルとティムをぎゅっと抱きしめると外へ出ていきました。

チョンチョンチョン
小さな足跡が、雪の上につきます。その時、おかあさんを空からじーっと見つめているものがいました。鷹です。野ウサギやキタキツネと違って野ネズミのからだは黒いのです。
バサバサバサッ 
鷹は、雪のなかの黒い点を目がけてまっすぐ下りて来て、おかあさんをくわえると連れ去っていきました。 

チロルとティムは、音を立てずに身を寄せ合っていました。
「おねえちゃん、おかあさん、どうして帰って来ないの」
「もうすぐ帰ってくるわ」 
チロルは青ざめた顔で言いました。チロルには、鷹の羽の音が聞こえたのです。

いつまで待ってもおかあさんは、もどりません。
「おねえちゃん、おなかすいたよ。さむいよ」 
チロルは、ティムを抱きしめると、「耳をすましてごらん」と言いました。
トクトクトク
「おねえちゃんの心臓の音が聞こえる」
ティムは、にっこり笑いました。チロルはティムを抱きしめていましたが、いつの間にか眠ってしまいました。 

チロルが起きると、ティムは、冷たくなっていました。ティムの胸に耳をつけて目をつむっても、心臓の音はしませんでした。チロルは、泣きました。声を出さずに。

どれほど泣いたでしょうか。チロルが、ぎゅっと体を抱いて耳を澄ますと、トクトクトクと自分の心臓の音が聞こえました。そのままチロルは、また眠ってしまいました。 

目を覚ますと、キリキリと冷たかった空気がふうわりとして、あたたかくなっています。チロルは、耳をすましました。遠くからチチチと声がします。チロルは、そうっとおうちから外へ出ました。

わあーっ 

チロルは、叫びました。 

見上げると、木の上から、春の日差しが、光の柱になって降り注いでいました。葉っぱがキラキラと輝いて、青や黄色の小鳥が飛びまわり、チチチ、チチチと鳴いています。足元には、たんぽぽが踏んでしまいそうなほどたくさん咲いているのです。

プチッ 
土から芽を出したのは、おかあさんが埋めたどんぐりでした。
チロルは、たんぽぽを一輪摘んで、おうちの前に置きました。 
そして、また耳をすましました。 

世界は、いい音で満ちていました。 

チロルは、ぱあっと駆けだして、草の間に見えなくなりました。

おしまい


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