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鏡越しに幸福を〈コップ一杯の夢と適量のノンフィクション〉

パーマをかけた。

周りに感化されてふとパーマをかけたいという衝動に駆られたのは多くの美容室が閉店時刻に近づく頃。15件ほど電話をかけただろうか、ようやく対応していただける所を見つけた。

カウンセリングをしてからカット、カール、薬剤の塗布、洗い流してスタイリングなど、2時間程度かかった。薬液の臭いが少しくさく、切り傷のときのように耳がカッと熱くなった。

洗い流してからスタイリングしてもらうと毛先は上や下を向いてクルクル曲がっている。なんだか人生みたいだなって。
美容室でセットしてもらった髪型と自分でするそれとは毎度月とスッポン並みの違いがあるが、新手の詐欺ではないかと疑ってしまう(そんなことはない)。

だが帰宅して風呂を済ませるとカールは弱くなっていた。鏡の向こうでため息をついたが、初回のためかかりづらいらしい。電話してみると1週間以内のやり直しは無料とのことで、お願いすることにした。

再びカール、カッとするような薬剤の臭い。前回より幾分よくなり、鏡を見て思わず笑顔が溢れた。
ため息をすると幸福が逃げるとは言うが、ことによると掴みに行くためにため息をつくのかもしれない。

幸せは心地いい目覚めだったり、頬を撫でる風だったり、夜中に食べるラーメンだったり、案外身近なところにある。
そして頭皮にまだ残る薬液の匂いには明日への期待感がこめられていた。

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