天才クール美少女とヒロインの弾力について
1. はじめに
こんにちは。普段の HN としてはイカ爆弾、筆名としては山船と申します。私は普段好き勝手に小説を書いているわけですが、あんまりキャラクターの属性というものには注意を向けていません。しかしながら、唯一と言ってもいいでしょう、私が拘泥しているものがあります。それが天才クール美少女、通称天ク美です。
どのぐらい天ク美を好んでいるのかというと、これまでに天ク美についてだけでだいたい3万字強もうねうね書いてきたぐらいです。詳しくは以下の2記事をご参照ください。
前者の「天才クール美少女とヒロインの属性について」(以下「属性」) においては天ク美の系統的分類を試み、後者の「天才クール美少女とヒロインの成形について」(以下「成形」) ではそこから少しピックアップして属性の時間的変化について考察を行いました。こういう要素があれば天ク美として表現することができる、こういう経過があれば天ク美が脱天ク美的になる、などについてが上2記事の内容です。
1.1. 天才クール美少女性を「維持できない」
して、「属性」において、私がちらっと言及したものの何も解決しなかったことがいくつかあります。そのうちの一つを以下に示します。
俺ガイルで言えば雪ノ下雪乃は秀才型ですが、雪ノ下雪乃は雪ノ下陽乃の前ではその立場を維持できず凡人になる、など。
ここで、「秀才型」というのは天才クール美少女の天才性についての分類のことを指しています。着目したいのは、ここで「その立場を維持できず」としているところです。これはどういうことでしょうか。
ここで出されている例は、天才クール美少女キャラの代表格とも言える雪ノ下雪乃が、その姉であり雪乃を超える頭の持ち主である (と描写されている) 雪ノ下陽乃の前面に立ったとき、その天才性、すなわち他者に対する知的優位 / 圧倒を保持し得ないどころか劣位を得る、というようなものです。ここにおいて雪ノ下雪乃は一時的に天才性を喪失して天才キャラとしては描かれなくなっています。
一時的にというのは、もっぱら「成形」で検討したような条件を満たさないようなものを念頭に置いています。
「成形」ではどんな変化を検討したかと言うと、そこでは条件の変化によってキャラクターの内面がいくらか変化し、これによって長期的に行動原理などの変容がもたらされる場合というものを検討していました。これに対し、一時的に天才性を喪失する場合、確かに条件は変化していますが内面を変化させるほどの長期的なそれではありません。つまり、この「一時的」というのは高々一場面程度のものとなるはずです。それよりも長ければ、少なからず内面の変化がキャラクターの自己変動をもたらし始めると思っています。
一時的変化の具体例として上述の俺ガイルの例を引き合いに出せば、雪ノ下雪乃は雪ノ下陽乃の前を離れて由比ヶ浜結衣 (主要なヒロインの片割れです) や主人公の比企谷八幡 (読者代理キャラとしての役目も持っています) の前に戻ることによって天ク美の立場を回復することができています。そうなってくると、これはちょっと面白い挙動のように見えてくる気がします。気がしますよね? 少なくとも私には面白げだと思えました。
同様に、どのような属性のキャラクターであっても属性が状況依存的に変化するということを考えることができます。ここでは天ク美を例に挙げて考察を行いますが、他の属性に対してでも応用の効くものになるのではないでしょうか。
1.2. 圧倒と非干渉
少し性癖の話をしましょう。私は天才クール美少女だいすきクラブ会員なわけですが、天ク美の「良さ」の少なくない部分が読者代理キャラに対する優越性の提示にあると考えています。無論、これと共に一般人と比して形態の異なる部分の多い精神を持つが故の差 (半ば無意識的な攻撃性、逆向きの劣等感など) も美味しい部分になるとは思っているのですが、とりあえず優越性の提示だけに焦点を絞って考えてみます。
優越性というのは難儀なもので、威圧的態度を取っていたとしても、ひとたび「実はぜんぜん恐るるに値しない」ということがバレてしまえばもはや実態においてそれまでのような優越性は得られません。であれば、圧倒を以て良さとなる天ク美であればこそ、終始優越性を維持できるようにしてやりたいわけです。優越性を維持せずとも天ク美は描けますが、やっぱりそうできるならそうしたいという気持ちがあります。
この文脈において、「弱点」を作ることなど以ての外、それに加えて一時的な天ク美性の喪失もなるべく避けたい、ということが導かれます。どんな強敵が相手であっても常に泰然と天才でクールな美少女として振る舞う、これが理想的な姿です。
ところが、この理想的な姿には致命的な問題が一つあります。それは、常に圧倒する場合、物語の駆動力になってくれないということです。キャラクターの内面との相互作用が無ければ物語形式である意味が無く、物語形式を維持する以上はそう言った部分を駆動力にしなければならないので、外界の変化に関わらず常に同じ応答をするキャラクターは事実上物語進行に介在しないモブである、ということすら言えてしまいます。これは大問題です。
そこで、以下ではこのようなことを考察することを通して、上の問題に対するいい感じの回答がひり出せないか頭をひねってみようと画策してみます。
1. 天ク美性の一時的喪失の条件とその効果
2. 天ク美性の一時的獲得の条件とその効果
3. 他者の属性に一時的に干渉するキャラクターの状態
3番はとりもなおさず天ク美が他のキャラクターの属性を一時的喪失 / 獲得させることを念頭に置いたものです。とにかく何らかの干渉をしなければならないのですから、天ク美自身が外界となって他のキャラクターに向かう、ということもまたあり得るでしょう。
本当に?
では、以下でそれを確かめていきましょう。
2. 状況の関数としての言動
本題に入る前に、もう一つだけ準備をします。「キャラクター」とは何でしょうか? 「属性」では完全にアプリオリなものとしてこの言及を回避しました。「成形」ではかするような話はしています。
何が起ころうと常に磯野カツオは成績の悪く草野球が好きでしばしば姉から走って逃げる小学5年生である
これは「磯野カツオ」という非実在人物が帯びている記号を列挙したものです。ここでは外面的属性、性格、行動がごちゃまぜにされており、確かにキャラクターの一面を示すものにはなりますが、少々扱いづらさが否めません。
というわけで、ここで定義をしておきます。「キャラクター」は、非実在人物の内面において行動原理を決定する一連の趣向・思考様式・性格といったものを指すこととします。これは、言っていなかっただけで「属性」「成形」で議論した内容をそのまま踏襲しています。つまりやることは変わらないのですが、今回はこの境界をはっきりさせておかないと不都合があるのでここで準備しました。
2.1. 瞬間というサザエさん時空
実際に物語中に記述される物事は、キャラクター性そのものではなくそういったキャラクター性から導かれる動作です。感情的応答とか実際に物理的に干渉する何かとか、そういうものは思考様式に対しての結果だと言えます。この意味において、登場人物の内面を示すキャラクター性と、その登場人物が直面する外界の状況要素が合わさって初めて物語は記述可能になる、ということが言えるでしょう。
ここにおいて、登場人物のキャラクター性を断固不変のものとみなす (「成形」においてサザエさん時空であると定義したものです) と、キャラクターの言動は純粋に外界の状況のみによって左右されることになります。すなわち、状況の関数とみなすことができるようになり、同じ状況が再現されれば同じ反応を返す、とみなし得るようになります。
しかしながら、物語全体を通して登場人物のキャラクター性を断固不変のものとみなすのは、もちろんできないわけではないのですが、物語の幅をけっこう狭めます。従って長期においてはこの仮定が成立できないことはよくあります。この場合は状況だけの関数ではなくなる……と言ってしまうとあまりにも一般的すぎて何も言っていないようなものですね。
ところで、登場人物のキャラクター性が変化するほどの時間が無い場合はどうでしょうか? 高々一場面、現実準拠ならおそらく1日やそれ以下の時間幅の場合、流石に内面をどうこうできるほどのそれではないはずです。このとき、サザエさん時空でない場合であってもその場面に限ってサザエさん時空の場合と同じ処理ができるようになっています。
そのように定式化すると、「場面」というものは登場人物のキャラクター性の変化を気にするとき、時間の最小単位とすることができるでしょう。前の場面での結果を受けてこの場面ではキャラクター性が僅かに変化し、その結果このような行動を……という風に記述されることができるはずですし、たぶん文字書きならすでに自然にやっていることと思います。
して、少し具体例を示しましょう。高々一場面において外界の状況から反応を返す、というのがどういうものであるかというと、最たる例としてはギャグにおけるツッコミを考えることができます。ツッコミは一場面の中で複数回出ることがありますが、同じ場面であればツッコミをする側のキャラクター性はそう変化しません (上では全く変化しないとまで言っていますが、流石にありとあらゆる作品でそうなっているかはちょっと心配になってきたので留保しておきました) 。従って、このような一時的な外界への反応であれば、「このキャラクターにはこういう反応だ」とエミュレートすることが容易になるものとわかりました。
最後についでに述べておくと、この「このキャラクターにはこの反応だ」という風なエミュレートは二次創作において顕著なもの (だと勝手に思っています) で、これは何らかの物語中の登場人物を用いた二次創作というものは、原作のどこかの場面の隙間にねじ込まれるものが多いからでしょう。「原作のこことここの間の話」とか、どこか特定の地点 (典型的には今連載されている最新の部分) の瞬間における性格を参照したりとか、そういう風にして時間軸の極狭い部分に二次的に押し込められなければならない理由があるためにサザエさん時空っぽくなっていくのだと思っています。
3. 天ク美性の一時的喪失
以上の準備からやっと本題に入れます。天ク美性の一時的喪失というのは、つまるところ、以下のようにまとめることができます。
一場面程度の長さであればキャラクター性は不変のものとみなすことができ、このとき登場人物の言動は外界の状況のみの関数と見なし得る
外界の状況によって、内面的なキャラクター性の変化を全く伴わないままに外見的な属性の一時的変化 (喪失 / 獲得) が起こり得る
「○○に比べたら霞んで見える」みたいなものがより一般的な例としてはわかりやすいでしょうか。普段はボケに回る登場人物が、しかし場に天然ボケが飽和してしまったならばツッコミに回らざるを得なくなる、みたいな状況です。ここではすなわち、普段はボケをやっているキャラのボケ性において天然ボケのボケ性を比較すると後者に軍配が上がってしまうために別の役回りをそのキャラは強制される、というようなところになります。
では、以下で天ク美についてそれらを詳しく検討してみましょう。
3.1. 天才性の一時的喪失
話を始める前に、天才性とは何だったかを振り返ってみます。「属性」において、私はこれを外面的天才性とその人格に二分しました。ここで今回の条件を考えると、十分短い時間単位における検討であるため、変化しうるものは外面的天才性のみであることがわかります。従ってそれが一時的に失われる状況を考えれば足りるはずです。外面的天才性については、せっかく「属性」で分類したのでそれも利用しながら考えてみます。
まずはサヴァン型について。サヴァン型というのは、特定の少分野のみ傑出しているものの他の分野は概ねボロボロといった感じのキャラクターを想定したものでした。であれば、まず第一に、その特定の少分野においてより優越する登場人物がいれば、これは天才性を喪失することになります。
一般に、天才が天才たるためには優秀さにおいて唯一無二である (とみなされる) ことが必要です。同等に優秀であるという表現があるのであれば複数人が同等に天才であるということもできるでしょうが、そんなに大人数はできません。「2人の天才」あたりがよくある例で、同じジャンルにおける天才ということを考えると3人以上併置することは困難に思えてきます。従って、同レベルどころかさらに上を行かれる場合、辛うじて天才性を保持できたとしても、その絶対性は少なくともその場面においては失われてしまうことでしょう。
具体例を示しましょう。ドラえもんにおいて、野比のび太は天才とは描写されていないので天才キャラではありませんが、射撃やあやとりといった分野におけるサヴァン型の天才とみなすことが外面的にはできるといえばできます。このとき、さらに射撃・あやとりの上手い登場人物をのび太の前に出すことによってのび太はこれらの分野における優越性を失います。これが外面的天才性の喪失です。
のび太をさらにいじめても作劇上面白くないのでそのようなことはあんまり行われませんが、これをしっかり天才と描写しているキャラクターに対して行えばどうでしょうか? 貴重なアイデンティティ軸を不安定にされるキャラクターの出来上がりです。美味しいですね。
ところで、サヴァン型の場合もう一つのパターンを考えることができるはずです。サヴァン型というのはどこかが尖っている代わりに全体的に低い、みたいな能力値配分がなされているはずで、これは天才性による恩恵よりもあまり上手くできない部分による損失を周囲にばら撒くことを意味します。当人が図太くない限りは、これを気に病まないことはないでしょう。そういうわけで、能力の平均化による天才性の解消も考えることができます。
無論、能力の高い部分を低い部分に移し替えるような都合の良いことが実際にできるわけではありません。しかし、他者の介入によって能力の低い部分を一時的に底上げすることは可能なはずです。そのようにしたとき、能力の高い部分以外に注目することができればその場面において天才性を無視することができるようになるでしょう。これは上述の目的に適います。
続いて秀才型について。これは特定の少分野のみにおいて圧倒という点はサヴァン型と同じですが、他の多くの分野においても人並みもしくは秀才相応にそこそこ良くできるタイプでした。従って、その少分野においてより優越する登場人物によって霞むという形式はサヴァン型と同様にすることができます。
秀才型の場合、これ以外の方法での天才性潰しは難しく思えます。別に他の分野に注目しても顕著な失敗をするわけでもなし、その「特定の少分野」にやはりキャラクターの精神は依拠することができます。この理由により比較的健全な精神が構成されがちですが、「優越する」ということを本質的要件として持つため、ここからなんか面白いことはできそうです。短い期間の場合、逆に「優越することしかできない」というところに融通の効かなさを提示してやればいくらかは天才性を削げそうですが、それほど一般的な方法でもありません。長い期間の場合であればいくらでもやりようはあるのですが、この記事の範囲を越えますし、概ね「成形」で述べたのでここまでにしておきます。
最後に完全無欠型について。これは (ほとんど) 全ての分野において圧倒するタイプでした。これは、定義上さらなる上位者を提示することが非常に困難です。特定の少分野において上を行く登場人物を出して逆転させてやることはできますが、それは数多くある分野のうちの1つや2つにおける絶対的優位がちょっと揺らぐということでしかなく、全体としての圧倒を奪えません。従って、サヴァン型および秀才型で提示したような方法では天才性を一時的に喪失させることはできません。
ではどうすればいいのかというと、私も「……こうすれば一応行けんじゃね?」程度なのでちょっと怪しいのですが、価値基準の否定があれば天才性の一時的否認ができそうです。「お前が今までやってたことは道徳的に実は最悪だ!」みたいなことを言う登場人物に物語進行上の主導権を持たせれば、そのシーンにおいて天才の優位性は損なわれます。無論天才なので時間変化と共にさっくり適応できるはずなので、キャラクターのアイデンティティを掘り崩したりしない限りにおいて、この優位性損失は一時的なものに留まらざるを得ません。……が、結構苦しいです。完全無欠型の天才は物語の中心ではなくアウトサイダーとして描写するほうが嬉しさが大きいので、あんまりメリットが無いということもありますが。
3.2. クール性の一時的喪失
3.1節と同様に、外面的クール性の一時的喪失を考えていきましょう。まず陰キャ型について。陰キャ型は他者との関わりを積極的に避けているために他者に考えが知られないタイプである、と定義しました。つまり、このようなキャラクターは単純にディスコミュニケーションが起こっているだけであってそこを解消すれば一時的喪失が成立します。
これは他の登場人物が強く介入することとか、あまり使われないコミュニケーション手段が用いられる (日記を覗き見るなど) とかで達成することができます。クール性の一時的解消はそれを奇貨として物語を進行するのに使われがちですが、これを一時的なものに留めておく選択肢も当然あり、そうしようと思えばそうすることができるはずです。
次に無表現型について。無表現型は別にコミュニケーションを積極的に避けているわけでもないものの、表現に興味がないために表現が行われないタイプです。表現が行われないので、他の登場人物が強く介入しても暖簾に腕押し傾向が強く出ます。こういうときには虎の尾を踏むのが有効です。というのは、基本的に表現に興味がないとはいえ、その登場人物のアイデンティティの根幹部分に (やや雑に) 触るような態度を取らせてやれば表現を行わざるを得ないだろう、という話です。
無論これはちょっと扱いが難しいのですが、物語の外ではなく内にいて物語進行にいくらか寄与する以上、そこに人格を見いだせないことはありません。それであれば、その登場人物の人格の一部を大きく否定することに繋がるこのやり方がクール性の一時的喪失にはかなり合いそうに思えます。ただ劇物なのは確かなので、使い所は困りそうです。
さらに言えば、これは登場人物が自然生物である場合にしか成立しません。端的に言えば、最初から目的を持って創造されたロボットなどの場合では踏むべき尾が無いということもできますからこのやり方ではうまく行きません。個別的な例に対する「こうしたらいい」はありますが、クール性は天才性と違ってコミュニケーションに関するものなのであらゆるコーナーケースを埋め尽くせる回答が無い、ということもあります。
最後にミステリアス型について。ミステリアス型は、コミュニケーションは行うものの意図的にその真意らしきものを隠すか、あるいは表現が下手であるために真意が伝わらないタイプを指しました。このタイプはコミュニケーション自体は行ってくれるため、その真意を圧倒的理解力によりぶち抜いてくれる登場人物がいれば一発で解消できます。影響を一時的なものに留めるのであれば、状況証拠から言っていることがその時だけかなり明らかになっている、という状況が好ましいでしょう。
3.3. 一時的に天ク美でなくなること
以上で天才性およびクール性のそれぞれの一時的喪失についてタイプ別に検討を行いました。最後に、これらを簡単に組み合わせてみましょう。やはり例によって全パターンを網羅するのは困難なので、適当に実現性の高そうな組み合わせで試してみます。
天ク美性を喪失するだけなら天才性とクール性のどちらかだけを喪失すれば十分ではあるものの、せっかくなら振れ幅が大きい方が面白いです。というわけで、適当な状況を考えることによって天才性とクール性をまとめて一時的喪失させられるようなものを考えましょう。
完全無欠型天才かつ陰キャ型クールを想定します。有り体に言ってしまえば仙人です。あらゆる分野における圧倒と、他者とのコミュニケーションの断絶が伴う人間のことを考えると、何やら分からないことによる神聖性が漂ってくる感があります。ここから天才性とクール性をできれば一手で剥奪できる環境を用意できると嬉しいですが、そんなことはできるのでしょうか。
もうちょっと詰めて考えてみます。単に「天才性を剥奪する」と言っても、天才キャラで通っている登場人物を無理やり凡百に追い落とすにはかなりのインフレが必要です。とりわけ、今回考えたいような「圧倒的な」登場人物については極めて困難でしょう。少なくとも、天ク美性をいくらか (一時的に) 毀損しながらも他の属性にはノータッチで行きたいわけなので、この「圧倒」も保存しておきたい感があります。
そのようなことを考えると、登場人物が自発的にキャラクターを放棄するような一時的状況を用意すれば筋が良さそうです。たとえば、ある登場人物が天才として振る舞うことができればその登場人物は天才キャラになることができますが、天才として振る舞う能力を持ちながらもそうしない場合、これは天才キャラではなくなります。逆は成立しません (天才として振る舞える能力がない場合天才キャラとして振る舞うことはできません) 。天ク美もそのような性質を持つ属性ですから、内発的動機により天ク美として振る舞うことを一時的にやめさせることができれば、ここまでの条件は満たされるように思われます。
では、完全無欠型天才 / 陰キャ型クールのキャラクターがその態度を崩す、すなわち、天才性において否が応でも圧倒的優越が示される状況にはなくなり、かつ外界からのコミュニケーションに (少なくとも多少は) 応ずる形になるような外界の一時的状況のことを、ここまでの論を踏まえて一つ構成してみましょう。
いわゆる「セカイ系」の条件を与えてみると、いい感じの例が構成できそうです。「セカイ系」とは、大雑把に、世界を取るか愛する一人を取るかみたいなそういうやつです (たぶん) 。ここで、登場人物にとっての「世界」とは主観世界のことを指すので、死は世界を失うことになります。従って、愛する人を失ってでも生き延びるか、愛する人と共に死ぬか、みたいな二択でもあります。
仙人みたいなキャラに愛する人をあてがうのはあんまりしっくり来ないので、「自分は平穏無事でいられる代わりに世は荒れるに任せる」か「世は治まるが身は俗世に囚われる」みたいな対立を作ります。さらに、世のことをクソどうでもいいと思っているなら前者一択なので、世のことをそれなりに気にかけているものとしましょう。そうなってくると、「自分には世を治める能力があるが、そのためには死ぬほど重い腰を上げてしかも聞き入れられるよう俗人どもに諂諛せねばならない」みたいな状況になってくれます。だいぶ内的抵抗があるでしょうが、そうして最終的に世を治める方に傾けば条件は達成されます。
あとはこれを一場面程度に抑えたいのであれば、天才性を活かして重大なことが起こる前に僅かな介入を行ってなんとかした、みたいな感じにしておけばオッケーです。天才性が発揮されるのは「俗人どもに諂諛せねばならない」パート以外なので、そのパートの前後で天才性を発揮し、パート中のみ一時的に天ク美的振る舞いを失う、みたいな感じの動かし方ができます。
ついでに「いや言うて自発的に一時的にでも天才性を放棄できる性格じゃなきゃ成立しないじゃん……」というセルフツッコミにも対処しておきましょう。これは、要するに内発的対応によって天才性を放棄させているという点がキモになっています。そして、何が達成されたいのかといえば、それは圧倒的なキャラクターの圧倒感を失わないまま物語に強く関わらせたいということでした。従って、内心を描写しながら、その弱みをあまり見せないような振る舞いであれば何でもオッケーになります。その上で俗世に身をやつすのが嫌だというキャラクターであってかつ遠隔的になんか解決が可能そうであれば、うまいことその内心を描写することでこの「解決」に導かれるまでの過程を示すことができ、それならばまあなんとでもできるでしょう。
4. 天ク美性の一時的獲得
喪失を考えたからには獲得の方も考えるべきでしょう。物語は基本的に対比でしか構成されていないので (過言) 、ある登場人物が一時的に天ク美性を喪失しているときに別の登場人物が一時的に天ク美性を獲得すれば結構いい感じの対比になってうれしいです。そういう状況でなくとも、まあ使いようはあります。
どのようにしたら一時的獲得が起こるのか、これもちょうど一時的喪失の真逆のように考えてやることができます。ただし、上で言ったように、天ク美として振る舞うためにはある程度の能力が必要です。その「ある程度」のラインがどのあたりになるか、そこが環境で決まる要因になっています。ですから、否応なしに天ク美化する、というよりは天ク美化することが (一時的に) できるようになる、という方向の方が自然なように思えます。この感じで行ってみましょう。
4.1. 天才性の一時的獲得
3節と同様に、天才性のうち外面的天才性についてのみ考えることとします。外面的に天才だとみなされるためには、少なくとも一分野において唯一無二の抜きん出たものを持っている必要があると述べました。従って、これには二種類の要因を考えることができます。第一には一時的に天才化する登場人物以外の能力がデフレした場合、第二にはそもそも評価基準ががらりと変えられた場合です。
第一の点から検討しましょう。登場人物以外の能力がデフレした場合というのは、こと天才性のようなハイレベルの争いにおいてはほとんど登場人物の退場によるものがほとんどだと思います (たぶんそれ以外の理由を作れたらそれだけで物語中の主要ギミックにできます) 。一位やそれに準ずる登場人物が消えたので二位やそれ以下に甘んじていた別の登場人物が繰り上がりで一位になる、という格好です。このとき、一位のキャラクターが確実に出現しないような場面であれば、ここで簡単に天才性を持った振る舞いをさせることができるようになります。
「できるようにな」ると言い切るだけではちょっと弱いので具体例を構成しましょう。ここで、利便のため一位にあたる登場人物を甲、二位にあたる登場人物を乙とします。バトル系の物語において、甲と乙は実力伯仲しているものの結局は甲が常に勝つ、というような形式であれば上述の条件は満たせます。接戦の末甲が乙に勝つ、といった出来事が様式美とできるぐらい (3回程度でしょうか) なされた後に甲が不在の場面で乙が凡百の兵を鎧袖一触に片付けてしまう、わりと類型をよく見そうなやつです。こういうのを考えれば、この場面においてのみ一時的に乙は天才性を帯びることができます。
次に、評価基準ががらりと変わる場合について。これは、上述しましたが、ドラえもんにおける野比のび太を念頭に置いています。野比のび太は普段は優しいだけが取り柄の愚鈍な少年として描かれています。昼寝をしてばかりで、まだ小学生にもかかわらずテストの点数はいまひとつ、運動神経もそれほど良くなく、ひみつ道具を悪用しようとしては痛い目に遭う、というのがドラえもんにおける話の展開の典型でしょう。
その一方で、特に大長編においては彼の顕著な特徴が物語を強力に推進したり、あるいはここぞという場面において問題解決に導いたりします。大長編の入り口のところで出来杉君に尋ねに行く姿などはツイッターで何度かバズり散らしていたことがありますね。それでなくとも、射撃、あやとり、その他、彼の普段はぜんぜん役に立たないけれども高い能力を持つ部分が一躍輝かせられています。そのような場面において、彼は唯一無二の能力を持つ人物、すなわち天才として振る舞うことができています。
評価基準が変更されるのが一時的であれば、このように天才として振る舞うことが許されるのも一時的で、アイデンティティは非天才のまま保持されます。たしか、もしもボックスを使って昼寝大会やらあやとりの家元やらをやる話もあったかと思いますが、結局は元の木阿弥、常に優越性を示すことはできずに終わるというのがいつもの流れでした。
以上に挙げた2つの一時的天才性獲得法を組み合わせることもできます。それを構成してみてこの節を締めましょう。
上述の甲と乙を再利用します。登場人物が二人居るとき、片方がもう片方の完全な下位となるような設定は、むしろそうする方が不自然というものでしょう。つまり、どこか特定の分野においては乙が甲を上回っている、ということがありえます。このとき、甲と乙が互いに互いの得意分野を押し付けるように立ち回る、異種格闘技じみた状況を作ってやることで乙も天才性を獲得できる可能性があります。
これは、乙について甲と同じ土俵ではなく別の得意分野が持ち出されていることから、この点において評価軸が変更されていることは明白でしょう。これに加え、甲はその軸での評価を受けていないということに注目すると、乙の評価軸からは甲が退場しているように見えます。乙の評価軸においては乙が唯一無二になっていて甲は不在である、という状況になっているわけです。このように「組み合わせ」てやると、思ったよりも多くの場所で使われていることが思い出されてくる感がありますね。ありますよね? 私は思います。
4.2. クール性の一時的獲得
さて、クール性の外面的な一時的獲得についてなのですが、これは要はコミュニケーションの一時的断絶なので、書き手の表現次第でどうとでもなります。要はコミュニケーションが断絶してほしい所を書かなければそれで済む話なので、キャラクターがどうこうという感じではあんまりなさそうです。
とはいえ、これだけでこの節を終わりにしてしまうのは忍びないのでもうよっと考えてみます。具体的には、「属性」で挙げた外面的クール性の3タイプそれぞれでどんなコミュニケーションの断絶が起こるかを検討してみましょう。なお、どの型だろうと一切書かなければとりあえずは成立するので、限度はどのあたりだろうと探る方になります。
まず陰キャ型について。これは他者との関わりを積極的に避けるようなタイプでした。つまり、他者が積極的にコミュニケーションを試みても退いていく、暖簾に腕押し的なコミュニケーション不全が求められます。また、一時的に陰キャ型クール性を得るとき、その登場人物は一時的な理由によりコミュニケーションを避けているはずです。であれば、例えば心的外傷や何らかの勘違いが原因として考えられます。
次に無表現型について。これは他者とのコミュニケーションのモチベが無くなっているタイプでした。つまり、単に一時的に無表現型クール性を帯びた登場人物がコミュニケーション以外に全リソースを突っ込んでいる状態になっているだけで、他者がコミュニケーションを試みれば普通に可能であるような状況です (とはいえ興味が無いことを延々やろうと思えば悪反応が返ってくるということにも留意が必要そうですが) 。また、一時的に無表現型クール性を得るとき、その登場人物は一時的な理由により外界への興味を失っているはずです。であれば、例えば何らかの夢中になるものがあって心ここにあらずになっているとか茫然自失になっているとか、そういった状況が原因として与えられます。
最後にミステリアス型について。これは他者とのコミュニケーションは行うものの、意図するかしないかに関わらずその出力が絞られているものでした。つまり他者からコミュニケーションを試みようと試みるまいとあんまり違いはできません。また、これが一番一時的に帯びるという状況からは難しい感がありますが、ハードボイルド的なものもこの型で説明したので、そのあたりからの連関はできそうです。「こう振る舞ったらかっこいい」的なやつですね。ただ一時的に収めるのが困難っぽそうな上あんまり嬉しさも無いような気がするので、それはそれといった趣です。
4.3. 一時的に天ク美になること
3.3節で一時的に天ク美ではなくなることを説明し、また4節のはじめには対比についても言及しました。であればこそ、ここで一時的に天ク美になることを検討しなければ嘘というものでしょう。
とはいえ、例を一つ構成するだけであればこちらは非常に簡単です。上述した通り、天才性についてちょっと描写を足してクール性についてコミュニケーションを寸断すればそれで成立してしまいます。
というわけで、コーナーケースをつついていきましょう。すでに場に天ク美がいる状態で、さらに別の登場人物が一時的に天ク美性を獲得する、という状況を考えます。さらに、対比のことに言及しましたから、こちらでは非天才・非クールキャラクターの登場人物が完全無欠型天才・陰キャ型クールになる場合を考えます。
場に天ク美がいますから、場の能力のデフレでは天才性は帯び得ません。であれば、評価軸が変わることによってのみこれは達成可能です。すなわち、別の評価軸を用いることの蓋然性が十分高いような状況であればその評価軸において描写することができるようになります。ところで、いま一時的に出現させたい天才性は秀才型やサヴァン型ではなく完全無欠型です。従って、他の完全無欠型天ク美と互角に渡り合える必要があります (互角でない場合、劣位にある方は完全無欠型ではなくなります) 。
もちろん一時的なものですから、これは一時的なギミックにより達成可能であるはずです。何らかの理由により分野横断的なアドバンテージを得られる、といった形が一般形でしょうか。たとえば、一方的に時間遡行ができるとか。そのようにして、互いにどの分野であっても圧倒できる、という形式が作られれば直接対決があっても両方を完全無欠型天才として描写できるように見えます。
さらに言えば、互いに直接にはぶつからないようにしてやってもこれは成立しそうです。何か仲介するものを挟んでの能力発揮のやり取りがあれば、物語の上では互いに退場しないまま両者の個別的視点においては実質一人で圧倒みたいな感じにできるのではないでしょうか。
次にクール性について。これはコミュニケーションの断絶なので簡単だ、と上では述べました。少なくとも (1) 一時的な内発的理由 (コミュニケーションしていられる余裕がなく内部に沈まなければならない、など) によりコミュニケーションを避ける、(2) 描写上の恣意によってコミュニケーションを断絶させる、という2方向が簡単に思い浮かびます。せっかくなので、さらに外的要因によってそれっぽくならないかを検討してみます。
コミュニケーションには、当たり前ですがふたり以上の登場人物が動員されます。であれば、天ク美側ではなくもう片方のコミュニケーション主体の方にコミュニケーションを躊躇させてもこれは達成できるはずです。たとえば、「なんかすごい剣幕だから近づかないでおこう」、とか。これだけだと正味どのクール性を帯びているのかの区別が付けられませんが、まあそこは描写次第でどうとでもなります。
描写次第でどうとでもなる、と言いすぎていてこれが万能句になってしまっているので、ここだけは具体例で補完しておきましょう。ここで、どのクール性を帯びているのかを描写するためには、外見的にどのような反応が返ってくるのか (あるいは返ってくるとみなされているのか) ということを描写すれば十分足ります。従って、陰キャ型であれば「こちらがコミュニケーションを試みても天ク美は退いていく……」みたいな感じ、無表現型であれば「コミュニケーションを試みても雲を掴むよう」みたいな感じ、ミステリアス型であれば「意図的に教えてはくれない部分があるな」みたいな感じにやってやれば十分かと思います。
上記を組み合わせれば、わりと任意の場所で天ク美性の一時的獲得が構成できるのではないでしょうかね。
5. 他者の外界としての天ク美
さて、ここまで書いてきた内容を一旦総括してみると、「天才性およびクール性は適当な一時的外部状況を与えることによって一時的に喪失 / 獲得させることができる」みたいなことをやっていたはずです。具体的にそれを天ク美性を喪失 / 獲得する側から検討し、状況はアドホックに設定していました。アドホックだとその場その場の発想に依拠するのでそんなにうれしくありません。
というわけで、今度は外界を一般に考えてどういった天ク美であればその属性を一時的に喪失 / 獲得するかについて考えてみましょう。ただ、外界と一口に言っても、それこそ環境そのものですからジャンルを限定したって無限に状況があって絞りきれません。そういうわけなので、ここでは外界としての天ク美のことを想定します。つまり天ク美 vs 天ク美です。
逆に、一時的に属性を変化させる登場人物の方はアドホックに用意することとなりますが、まあ3節および4節と見比べていい感じに一般性を導けるのでまあいいでしょう (適当) 。
5.1. 天才性を一時的に喪失 / 獲得させる天ク美
他者の天才性を一時的に喪失 / 獲得させる天ク美とはどういったものでしょうか? ちょっと広すぎて掴みかねるので、これについても外界側の天ク美の外見的天才性ごとに調べてみましょう。
まず、完全無欠型天才の天ク美が場に現れることによって他の登場人物が天才性を喪失 / 獲得する場合について検討します。喪失する方はほぼ自明ですね。あんまりにも圧倒的なので天才性を維持できない、というキャラクター性をもたせるほうがむしろ自然というものでしょう。
では、獲得する方は? 完全無欠型天才キャラが場に登場している間のみ天才性を獲得し、なおかつ場から離れた場合には元の木阿弥になってほしいわけですから、完全無欠型天才の外界天ク美が潜在的に天才の登場人物を引き立てる立場になるはずです。真に完全無欠型であれば、さらにそこを超えるという描写は困難ですから、おそらくこのパターン以外は無いんじゃないかと思います。
具体例を構成してみましょう。外界天ク美が魔法の天才として知られる登場人物であるとして、潜在的な天才の登場人物の方はやはり潜在的に魔法の才を持つものの、なんらかのキーとなる部分を再現できていない、というようなところであればちょうどよいでしょう。外界天ク美が潜在的天才の天才性を見抜き (完全無欠型なので見抜けない方が嘘になります) 、不足している部分をしれっと補うようにしてやった結果天才性が外界天ク美のサポートの下であれば開花する、という流れが構成できます。
同様に、外界天ク美が秀才型である場合について。おそらくこの型が一番楽です。というのも、秀才型はその得意分野でこそ常に一位を取り続ける必要がありますが、他の分野においてはまずまず高水準にまとまっていれば十分で、圧倒と言うほどでもないからです。得意分野だって大差を付けられる必要はあまりなく、とにかく僅かにでも優越があればそれで足ります。従って、得意分野以外で論ずるとか、得意分野における優越の小ささに着目するとかすれば表現はやりやすいでしょう。
具体例を構成します。まず喪失する方は「秀才型天ク美の一番の得意分野で負けたのであればいざ知らず、そうでもないところでとは……」みたいな感じで力の差を歴然とさせるとか、あるいは「すごいって言っても結局井の中の蛙で、天ク美みたいな輝かしいのが沢山いると思えば霞むどころじゃないよね」みたいな感じで絶対的な能力値上限の差を見るとか、わりとなんとでもなりそうです。獲得する方も「あの天ク美に得意分野ではないとはいえ勝つなんて」とか「……実はこの能力ってすごくすごいんだ」とかみたいな感じ。ダブル主人公にするなら一時的獲得が極めて使いやすそうに見えますね。
最後にサヴァン型天才について。この型では特定の少分野のみにおいて圧倒的な力を持つ一方、大多数の分野ではボロボロ (高くとも凡人程度) 、みたいな感じのものが想定されていました。獲得する方において、これは圧倒性の差を詰めれば良いはずです。従って立ち回り次第という感があります。喪失する方は、逆にサヴァン型の苦手分野で多少詰めたところで得意分野の圧倒が文字通りに圧倒なのでどうしようもない、という方向になれば嬉しそうです。
これもやっぱり具体例を構成しましょう。魔法の例を再度使用します。獲得する方において、「あのサヴァン型は火炎魔法が超得意でだれも防御できないが、私だけはサヴァン型が苦手な分野 A と B と C と D を組み合わせることで対処ができる」みたいなやつが構成できます。土俵に上がれる、という点において他者との差が出てくるわけです。同様に、喪失の方は「今まで天才で通ってたけどあいつの魔法は (有象無象と同様に) 防げない」で十分です。
総じて、外界としての天ク美が現れたことによって既存の天ク美の圧倒的地位が維持できるか / 同様の地位であることが発見されて圧倒的地位を獲得するか、といったところが焦点でした。そのようにしてコントロールすることを通して、天才性の描写はうまいことできそうです。
5.2. クール性を一時的に喪失 / 獲得させる天ク美
天才性を調べたからにはクール性を調べなければなりません。ここで影響が生じうるクール性、すなわち外面的クール性とはコミュニケーション態度のことですから、やはりこれもざっくり調べるのは難しいです。というかこちらは天才性の方と異なり外界天ク美のクール性を検討すれば十分か、というとそうでもなさそうです。
というわけで、クール性をいろいろ変えて調べたいものの、天才性も考慮に入れる必要があります。ここでは、とりあえず秀才型天才に固定してやってもそう悪くはないでしょう。完全無欠型およびサヴァン型のほうがキャラ立ちはさせやすいので、一番難しいやつで検討しておけばたぶんなんとかなるだろ、という気持ちです。
まずは陰キャ型クール (- 秀才型天才) の外界天ク美の場合から。陰キャ型クールとはどんなものだったかを再度おさらいすると、積極的にコミュニケーションを避けるような型のことを指していました。ところで、コミュニケーションとはなんでしょうか? 小説媒体であることに注目すると、これはもっぱら言語的コミュニケーションのことを指しています。一方で、非言語的コミュニケーションは当然存在しますし、天才であることの優越性を示すためには、言語的コミュニケーションの一切を避けたとしても非言語的コミュニケーションがいくらか残らなければなりません。それが「対決」とかになるはずです。
さらに秀才型天才であることを思い出すと、この外界天ク美は外から見て「概ねどの分野であっても人並み以上にこなせ、しかもその得意分野においては他者の追随を許さないほどであるが、ひどく内向的で孤立的に振る舞う」みたいな感じになっています。このようにして優秀さが示され、かつ他の情報が絞られているとき、「かっこいい」とか「畏ろしい」とかそのあたりの感情が惹起されます (私見) 。
以上の要件を踏まえて、この外界天ク美からクール性を獲得 / 喪失する場合を構成してみましょう。獲得する方について、これは行動のミラーリングが考えられます。この場合内発的理由によるコミュニケーションの回避ではないため獲得されるタイプは陰キャ型ではなくミステリアス型 (意図的もしくは表現力の未成熟によってコミュニケーション流量が制限される型) になります。ほか、単に外界天ク美がコミュニケーションを回避するために一時的にコミュニケーションがぜんぜん起こらなくなり、結果的に無表現型クール性を獲得する、ということも考えられるでしょう。
喪失する方は、逆に無表現型かミステリアス型をやっていたもののあまりに外界天ク美が後ろのめりなのでコミュニケーションを強化せざるを得なくなる、みたいな感じでだいたいなんとでもなりそうです。そうでない場合であれば、外界天ク美のコミュニケーション量の少なさに痺れとかを切らしてしまう場合もあるかもしれません。要するに外界天ク美の様子を受けて多少でもコミュニケーション量が増えればいいだけなので、そんなに細かく検討しても美味しさが無いような感はあります。あと、この理由により陰キャ型 vs 陰キャ型の場合は一時的喪失は無理そうな感もありますね。
続いて無表現型クールの場合について。無表現型というのは、要するにコミュニケーションに全く興味を持っていないのであまりコミュニケーションが発生しないしたまに発生しても暖簾に腕押し的傾向の強いものを指していました。それでいて秀才型天才ですからどの分野も人並み以上にできて弱点が (概ね) ない、まあ良く言えば独立独歩的な天ク美です。
陰キャ型との違いが何かということを思い出すと、これは外部からのコミュニケーションに対して積極的に避ける方が陰キャ型で別に普通に受ける方が無表現型、という違いがありました。喪失の方は外界天ク美が陰キャ型出あった方と同様にコミュニケーションを増大することによって達成すれば良いとして、獲得する方はどうでしょうか。
クール性を一時的に獲得する、ということはとりもなおさず一時的にコミュニケーション情報量を減少させる必要が発生する / 減少するほうが自然になる、ということを意味しています。であれば、ミラーリング以外には無表現型クールの外界天ク美との対立においてコミュニケーションに回せるほどのキャパが無くなるがためにクール性を獲得する、という形のものであればあり得そうです。この場合は無表現型か陰キャ型が相当します。
最後に、外界天ク美がミステリアス型クールである場合について。これは意図しているかしていないかによらず、コミュニケーション自体は行うものの情報の流量が制限されているようなタイプでした。この型は、意図して流量を制限しているか、あるいは意図せずして流量が勝手に制限されている状態であり、ここにさらにコミュニケーションコストを突っ込んでもあまり情報は引き出されない印象があります。すでにキャップに到達している、という感じです。
従って、一時的喪失について考えるとき、ミステリアス型が相手ではコミュニケーションを増大させる理由がありません (遭遇初回であれば錯誤によってコミュニケーションを増大させようと試みることもあるかもしれませんが、二回目以降はありません) 。となると、逆にコミュニケーションを減少させる理由がなくなる方を探索したほうが筋が良さそうです。それであれば、(1) ミステリアス型クールの外界天ク美に対して陰キャ型クールの登場人物が対置され、どうやってもコミュニケーション流量が変わらないので心理的安全性が確保され (?) るとかなんとかして饒舌になる、(2) 同様にミステリアス型クールの登場人物が対置され、かつ意図的に流量が制限されていたとき、そのようなコストをかける意味が無くなるので態度が変わる、のようなところが出てくるのではないでしょうか。
一時的獲得の方は、これこそミラーリングが主役になりそうに思えます。かっこいい態度にはかっこいい態度を合わせたいものです。他には「意味がわかんないから怖すぎてコミュニケーションを避けまくる」みたいなのの結果としての陰キャ型クール性の獲得、「相手の流量制限技術に比べると無意識的になにかぼんやりとしているだけみたいになってしまう」みたいなのの結果としての無表現型クール性の獲得あたりになると思います。
6. おわりに
ここまでざっくり2万字、お疲れ様でした。最後にもう一度総括してから、この記事をおしまいにしましょう。
登場人物に付与されたキャラクター性 (属性) というものは、時間的変化を伴うものです。この時間的変化が常に0であるとき、特にこれをサザエさん時空と呼んでいました。ところで、この時間をごく短いもの、具体的には一場面程度に押し込めれば、その範囲においてサザエさん時空的なキャラクター性の無変化が達成されます。より正確には、外界の状況が変化することによってキャラクター性が一時的に変化するように見えても、その状況がもとに戻りさえすればキャラクター性も元に戻るはずです (裏を返せば、サザエさん時空でないならば外界からの圧力を取り除いても変化した部分が残るはずです) 。従って、キャラクター性が内面的に無変化となるとみなせるような一場面程度の時間幅において、キャラクター性が一時的に獲得されたり喪失したりする、ということが想定できます。
以上の考えのもと、3節および4節において外部の状況を与えることで天ク美が / 天ク美予備軍がどのような応答をして天ク美性を一時的に喪失 / 一時的に獲得するかを検討し、5節において天ク美を外部の状況として (ついでにわかりやすさと状況を絞るため内部も天ク美としましたが、本質的にはここはどうでもいいはずです) 応答がどのように起こるかを検討しました。あとは結合すれば良いだけですが、パターンがえらいこっちゃになるためサボりました。
なお、この記事全体のモチベは「天ク美は圧倒的だから良さがあるのにそれをみすみす毀損するような弱点付与とかマジで分かってねえな衆愚……」というあたりだったので、これを回避する筋道を見つけることが念頭に置かれてありました。ですから、この記事だけでは結構歯抜けではありますが、まああとは各々の創発性に期待することとします (何様?) 。
これでこの記事で言いたいことはすべて終わりました。あとはもう、冒頭にも書きましたが、ここまで読んでくださった方であれば、以下の2記事も読んでいただけるのではないかと思いここにリンクを示しておきます。
天才クール美少女とヒロインの属性について - この記事でも引用した通り、天ク美を天才性・クール性・(ついでに) 美少女性に分割して定義し、また分類を行い、ざっくりとした概要を示しました。
天才クール美少女とヒロインの成形について - この記事で書いた「サザエさん時空」およびそれに対置される非サザエさん時空はこちらの記事で比較的詳しく検討しています。この記事では完全に無視した時間的変化をもう少しぐらいは詳しく検討しています。
もし、この記事および上2記事について「これどういうこと?」とか「論理破綻してない?」とかそういう事があった場合、ぜひお気軽に以下のご連絡先までどうぞ。
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それでは、良い表現のあらんことを。