小さな舟。
今ならもっと、優しくできるのに。
あの頃、明るく笑うきみの笑顔を見て
すぐそばにいたぼくは
きみがその笑顔の通りに感じていると思った。
今のぼくなら
ほんのちょっとでも、
きみがなにを感じてそんなふうに笑ったのか
想いを巡らせるのに。
ぼくは今、重く暗い海に放り出されて
オールもない小さな舟に乗っている。
自分がどっちを向いているかも分からないまま
たったひとりでポツンと浮いている。
きみがとつぜんいなくなって、
ぼくには思い出せないことがいっぱい。
きみと過ごした時間のひとつひとつに
もやがかかって、どんな顔をしてたか
よく見えない。
ぼくはきみの味方でいたかったけど、
ずっと、ぼくが知りもしない大きな敵が
きみにはいたんだね。
もっとちゃんと、ちゃんと側にいればよかった。
ぼくじゃない誰かがいるんだろうと思わずに、
気恥ずかしがらずに、知ろうとすればよかった。
今さら小舟から手を伸ばして海をかいても
水がすり抜けて、どこにも進めない。
きみはもう何も語らない。
ぼくはただ舟の上でひとり、
一生懸命にきみの笑顔を思い出してる。
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