見出し画像

第1話プロローグpart4

「まぁそんなわけで、ひとつ、ソンブルくんにお仕事を依頼します」

 突如として耳元で聞こえてきた声に、ソンブルは目を見開いて飛び上がった。
「うわっ、ビックリしたっ!」
 思考する余裕もなく叫ぶように言葉を発し、振り替えって数秒。そこに立っていた長身の人物が、上司のデザストルであると分かった途端、ソンブルの顔から冷や汗が吹き出した。
「あ、す、すみません。気がつかなかったもので、その、一体いつから……?」
 驚きとプレッシャーとで覚束無い言葉を、何とか拾い集めて文章を作る。そんなたどたどしい彼の様子を、デザストルは、感情の読み取れない微笑みを浮かべながら見つめていた。
「ふふ、『さっきからずっとここに居』ましたけど、何か?」
「い、いえ、なんでも……」

 デザストルの台詞は、ついさっき、ソンブルがモーヴェに発した一言をもじったものだった。モーヴェはピクリと眉根を動かす。
「まぁデザストル様、もしかして、初めからいらっしゃったの?」
「ええ。君の叫ぶような声が聞こえたので、つい気になって。気配を消してついて来ました」
 相変わらず彼の表情は変わらない。しかし声音だけは面白そうに、デザストルは頷いて答えた。
「まぁ、お恥ずかしい。聞かれてしまったのね」
 対するモーヴェは顔を赤らめ、切なげな表情で頬に手を当てた。さっきまでの威勢は何処へやら、と、ソンブルは心の中でため息をつく。しかし上司の手前、顔だけは引き締めて、デザストルを見上げた。

「デザストル様。ところで、その、依頼とは?」
「はい。『伝説の戦士プリキュア』等と言うものに邪魔をされては厄介なので、君には、エクラ王国からの使者達と彼女達を、まとめて捕らえて欲しいのです」

 そう言うがいなや、デザストルは、返事も待たずに部屋の奥へと姿を消した。やがて、戻ってきた彼の手には、神秘的な輝きを放つ漆黒の宝石のペンデュラムがあった。
「魔獣スキホーダイを生み出す『アンフェール・グレーヌ』を君に与えます。使い方は、時が来れば自ずと分かるはずです」
 場所を移動したせいか、デザストルの顔は逆光で良く見えない。ソンブルは、その怪しさの中にある漆黒の宝石から、いつの間にか目が離せなくなっていた。

 この宝石を見ていると、押し込めていたどす黒い感情が溢れだしてくるような、恐ろしさにも似た高揚感がせり上がってくるような、そんな感覚に襲われる。
「さて、この大仕事、引き受けてくれますね?」

 耳元で聞こえたその声に、ソンブルは夢から覚めたように面を上げた。すぐ目の前に、デザストルの顔がある。
 だが、今度は恐ろしいとは思わなかった。ソンブルは手を胸元に当て、忠誠心を表すようにひざまづくと、口の端を引き上げて言った。

「はい、もちろんです。このソンブルに全てお任せください」