第4話Part2
「へー、お嬢様は大変だなぁ。レザンもそういうのしたことあるの?」
まりあの不在がりんねのせいではないと分かると、まつりも安心しきったように頬を緩ませた。そして、のんびりとした声でレザンに話を振る。急に話題を向けられたレザンは、少しばかり首を傾げていたが、やがて素直に頷いた。
「まぁ、程々にはね。でも、僕の場合はそれが仕事だったから。君たちと違って、僕らの国では、12歳から15歳までは学校に通わずに家業の見習い仕事をするんだよ」
思えば、王国の暮らしについて直接聞いたのはこれが初めてかもしれない。自分たちとはあまりにもかけ離れた暮らしぶりに、まつりは目を輝かせて食いついた。
「そうなの? いいなー!! 勉強より仕事の方が楽しそう!」
見習い仕事とは、アルバイトや職業体験みたいなものだろうか。それなら、机に向かって勉強しているよりずっと楽しそうだ。だが、レザンはまつりの期待の眼差しを受け、困ったように苦笑した。
「そうでも無いよ。皆大人と同じような職務をこなすから、毎日分からないことだらけで大変さ。まつりは、大人たちに混じって政治や貿易の勉強をしたいと思う?」
いたずらっぽく問いかける。まつりは、想像していたものと全く違う事実に打ちのめされたように項垂れた。
「うげ……ぜんっぜん思わない! 学校サイコー!!」
「全く、気が変わるの早いんだから」
先程までは学校なんて、と言っていたのに、都合の良い時だけ切り替えが早いものだ。まつりに向かってため息をつきつつも、ゆららは無邪気な妹を見つめるかのように微笑んだ。
「だって、偉い人って大変そうなんだもん。それはそうと、りんねちゃん、もしまりあ先輩の事が気になるなら、今日の放課後一緒にお家に行ってみようよ!」
あっけらかんと答え、まつりはまたもや話を転換させる。少し距離をおきつつ楽しげに話を聞いていたりんねは、目を丸くしてまつりを見つめた。
「え? でも、お客さんが来てるし、迷惑じゃ……」
「そんなの行ってみなきゃ分かんないじゃん! もし駄目だったら、また明日行けばいいし。仲直りは早いほうが絶対いいよ!」
まつりは勢いよくりんねの手を取って説得する。それに拍車をかけるように、レザンも口を開いた。
「それもそうだね。……取り返しのつかないことになってしまう前に、伝えたいたい気持ちは伝えるべきだ」
後から思えばその声は、いつもの彼にしては、少しだけ沈んでいたのかもしれなかった。