第2話Part10
「そうだよ! あすなちゃんが誰よりも頑張ってるの、私知ってるし。あの人たちはあすなちゃんの努力を全然知らないんだよ!」
あすなの背中を押すように、まつりも固くてを握りしめて声をあげる。すると、まつりのすぐ後ろで冷ややかな声が聞こえた。
「ねえ、あなた達、それどう言うこと?」
「え、あ、いつのまに…!」
気づけば、女子生徒達がすぐそばまでやってきていた。罰が悪いそうに一歩退くまつりに代わり、険しい顔をしたゆららが女子生徒達の前に出る。
「あの、あすなの事をよく知りもしないで、勝手なことを言うのは止めてもらえますか?」
まつりは、堂々とした親友の姿に思わず小さく息を呑んだ。彼女の真摯な訴えならば、女子生徒達にも伝わるはずだと強く思う。
しかし、女子生徒達は馬鹿にしたようにゆららを一瞥して、大袈裟にため息をついただけだった。
「はぁ? 部外者が急に何? て言うか、あなた達中等部2年生よね? 私たち、3年なんだけど」
「そっちこそ、私たちの事よく知らないくせに、先輩に向かってその口の聞き方は何?」
「そ、それは……」
こんな事、先輩も後輩も関係ないじゃない。至極真っ当な意見が心の中に湧き出てくるものの、果たして彼女達にそれを言った所で通じるのだろうか。これ以上何か言っても、あすなと彼女達の関係を余計捻れさせてしまうだけかもしれない。
そう思い俯いて黙ってしまったゆららを見て、二人は勝ち誇ったような笑みを浮かべてその場を去ろうとした。その時。
「ねぇ貴女方、何を揉めているのですか?」
「まりあ先輩……!」
まつり、ゆらら、あすなの三人の声が重なった。視線の先には、濃い赤毛をきっちりと後ろで結わえ、凛とした雰囲気を放つ少女、夕闇まりあの姿があった。まりあは、感情の読めない微笑みをたたえながら、まつり達と女子生徒達を見つめている。
女子生徒達は、まりあの登場に一瞬目を丸くしたが、すぐに「仲間を見つけた」とでも言いたげな意地の悪い顔を見せた。
彼女達のうち一人が、親しげにまりあの肩に手を置いて媚びるように話しかける。
「夕闇さん! ちょっと聞いてよ。この子達、先輩のうちらに歯向かってくるんだけど」
「生意気だよね。そう思わない?」
もう一人からも声をかけられたまりあは、微笑んでゆっくりと頷いた。それを見て、まつりはそっと顔を伏せる。先輩だけでなく、生徒会長にも目をつけられてしまったら、一体どうすればいいのだろう。
だが、次の瞬間まりあの口から発せられた言葉は、まつりの想像とは真逆のものだった。
「そうねぇ……わたくしは、そうは思わないのだけれど」
「なっ……どうしてよ!」
相変わらず優雅に微笑んだまま、まりあは、否定された怒りと驚きで顔を赤くしている女子生徒達に向かって口を開いた。