第6話Part20
時は少し遡り、プリキュア達がスキホーダイを倒してすぐの頃。レザンと情報を共有している端末から連絡を受けとったポムは、その内容に顔を輝かせた。
「今日もプリキュアは大活躍! ポム! 頑張った皆に、ケーキを買って帰るポム~!」
意気揚々と行きつけの洋菓子屋の扉を開いたポムは、そこで隣にいた青年に話しかけられた。
「失礼。お嬢さん」
「ポムのことポム?」
ふと顔をあげたポムは、そこで初めて青年の顔を見た。背が高い故に多少の威圧感はあるものの、清潔感のある人の良さそうな笑みは、すぐにポムを懐柔した。
「ええ。家族へのお土産に、どのケーキを買おうか迷ってしまいましてね。丁度あなたと同じくらいの女の子がいるんですよ。参考に、あなたの好きなケーキを教えてくださいますか?」
青年からの柔らかい問い掛けに、ポムは大きく頷いた。
「もちろんポム! ポムが一番好きなのは、このアップルパイポム! ほっぺが落ちちゃうくらい美味しいポム~!」
「そうですか。それでは、アップルパイを買って帰りましょう。ありがとう、お嬢さん」
「おやすい御用ポム! またねポム~! 」
ポムは、嬉しそうに去っていく青年を、その姿が見えなくなるまで手を振って見送った。彼が何者であるのか、知る由もなく。
────────────
夜の帳が落ちた道を、青年は静かに歩いてゆく。先程までの笑顔はどこへやら、今彼の顔面に存在しているのは、闇夜に怪しく光る真っ赤な瞳と、固く結ばれた唇だけだった。彼は深いため息を吐いて、そっとこう呟いた。
「あれがもう一人の『王族』ですか。接触しても大した力は感じられませんでしたが……」
以前、風の噂で聞いたことがあった。エクラ王国にはかつて、現国王よりも強い魔力を持った王子がいたという事を。国王の異母弟であった彼は、若くして命を落とし、その力は完全に途絶えたかのように思われた。しかし──
「あの瞳の色。間違いない。もしかしたら、王子よりも強い力を秘めているのかもしれませんね。プリンセス・ポム」
青年──デザストルは、そういうが早いか、たちまち夜の中へと溶け込んでしまった。