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第3話Part6

 立ち止まったまま黙ってしまったりんねを見て、まりあは確信する。少し前から感じ取っていた『見えない壁』は、確実に二人の間に存在しているのだと言うことを。そして、その壁はまりあの方から壊さなくてはならないとも。
 まりあはゆっくりとりんねに近づいていく。決して傷つけるつもりは無いと示す為に、柔らかい口調で続けた。

「色んな方面で頑張って、誰にでも好かれているけれど、皆の中心にいる貴女は、何故かいつも怯えているように見えるわ。踏み込むのが怖くて、一歩退いたところから無理して笑っているように、わたくしには思えるのよ」

 言葉を選んでいる余裕は無かった。しかし、直接言葉を交わし合えば、りんねも本音を見せてくれるのではないかと、まりあはそんな淡い希望を抱いていた。
 目の前で、りんねが目を逸らしてしまうその時までは。

「……そ、そんなこと無いですよ。色んな人と話せると楽しいし、私は、そんな……」

 りんねがぎゅっと鞄の紐を握っているのを目にし、まりあはこれ以上踏み込んではならないと悟った。

「ああ、ごめんなさい、貴女を困らせるつもりは無いのよ」

 彼女にしては大仰な作り笑顔を見せ、まりあは敢えて明るく振舞う。すると、りんねの方もいくらか安心したのか、自然に頬を緩めた。

「いえ、ご心配ありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですから。私、先輩や皆といると、楽しいんです」

 その言葉は、確かに嘘では無いのだろう。だが、まりあには、りんねがまた壁の向こうに行ってしまったかのように感ぜられた。

「……じゃあ、私はここで曲がりますね。さようなら」
「ええ、ごきげんよう」

 いつもの分かれ道で、二人は道を違えた。それは二人の歩みを意味するものなのだろうか、それとも、二人の今後を示唆するものなのだろうか。りんねの姿が見えなくなってからも、まりあは暫くその場から動く事が出来なかった。

(……やっぱり、どこか取り繕っているように見えるわ。ねぇ、りんね。わたくしは貴女の事をとても大切に思っています。けれど……貴女はわたくしの事を、どう思っているの?)