倍返しでは済まない大逆転劇に笑い転げた~あきっすんの土曜パームトーン劇場 2020/2/8
「やられたらやり返す、倍返しだ!」
池井戸潤の小説を原作としたテレビドラマ「半沢直樹」の有名な決めのセリフである。確かめるとあの大ブームから7年が過ぎようとしているのかと驚いた。時が経つのは早い。
そんな「倍返し」の爆笑パフォーマンスをあきっすんが観せてくれた。もちろん音楽のステージの上での出来事だ。
何が倍返しだったのかは本文をご照覧あれ。
「ヤバい事が始まりそう」いつもそんな予感のするSEが終わり、昨年のアルバム発売以降定着したオープニング「ミックスナッツ大作戦のテーマ」が流れる。まだ暗い照明の中、せかせかとセッティングするまっすん。
スタートは「蒲生四丁目」のイントロのドラム。伊藤直輝の「Hello!」とほぼ同じフレーズからまっすんが「手をHの形にして!」と本人と同じセリフで勢いよく呼び掛ける。「何もせえへん!」というオチと共にあきが遅れて登場。衣装は「fmGIGアカデミー賞」で涙を見せた時の「縁起物」のド派手な赤の和装だ。ミスマッチがお洒落なテンガロンハットとヒールブーツ。振り袖でアクションが最大限に大きく感じた。まっすんもポップなイエローのシャツに、前回同様チェリーカラーのセミアコを高く構える。筆者は「パチンコ屋2軒あるで」で次のギターリフに素早く移るスリリングな展開が好きだ。
すかさず「アスノテンキ」へ。アップな曲がオープニングから続く。日本列島が寒気に包まれていたからかこの日は「雪~」の予報が多い。これもあきっすんの冬のライブならではの光景なのだ。あきの立て板に水のナレーションは絶好調、まっすんも「雪降るね」と瞬時のフォロー。
「まっすんさんの頭は年中春」「なのにギャグは年中寒い」とあきのMC。まだこのあたりは通常運転だ。「色々(小道具を)持って来ながら…スベるのは怖くないって言ってますから」、今日は何を観せてくれるのだろう?そしてまっすんの「チベットだけに、秘境(卑怯)やぞ!」
ここからはギター1本のナンバーだ。まず最初はECHOESの「ZOO」。あきっすんのカヴァーではお馴染みのナンバーで、特にヒューマンな側面をクローズアップするひとときである。
「さよならをするために」は、第1・第4火曜の晩に行われているあきの「火曜パームトーン劇場」でBBガールズ・カナとのコンビにより進化を見せつつある、元来はあきのソロナンバーだ。悲しいけれど幸せだった思いを伝える別れの、複雑で切ない感情をあきがしっかりと歌に乗せていた。
一途で真っすぐな思いを歌った「今君に」はシンプルな楽曲だが、このコーナーの最後に相応しい名曲だと言わせてもらいたい。「素敵な曲に小賢しいような捻りなんていらない」を体現したような、素朴な感動に包まれていた。
この日の楽曲という点では一番注目したのが「VOICE」。この曲も元々あきのソロナンバーで、今回は冴沢鍾己によるサウンドアレンジが施されたミックスとなっていた。リズム中心のバッキングが入り、爽やかなミディアムテンポのナンバーとなって生まれ変わっていた。優しいトーンのシンプルな分散和音でまっすんがメロを支えている。華やかなサビを歌い上げたあきの「あなたへの思いは…」「私の思いは…」で歌詞の世界の余韻を噛みしめた。
先ほどの「VOICE」が優れたブリッジになったかのように爽快なナンバー「Sunday」へと続いた。あきっすんの人気曲でまっすんのポジティブなメッセージが明るいコードに乗る。表情豊かに、元気に行進するようなあきのアクションと伸びやかなサビの歌声で空間がキラキラしてゆくようだった。
「あなたとよろしく」はBBガールズ・カナ編曲のコラボナンバーで、Aメロのコード進行がトリッキー。あきの「チャチャッ」の手拍子でキメどころを教えてくれていた。「みんなずっと My Friend」のピースフルなメッセージと、メロディ同様明るい表情で伸び伸びとアクションを魅せるあき。
和装のため、お色直しは不可能だったがインターバルタイムへ。ここでそろそろ冒頭の「倍返し」の正体は何なんだ、まだなのか、と疑問の読者の方もおられるはずだ。
後半戦の冒頭で登場したのは、紙袋を被った姿のまっすん。両手には鍋掴み、よく見ると顔になっている。「火曜パームトーン劇場 まっすん新喜劇」で披露していた「パペットマペット人形芸」のオマージュの再現だった。先ほどの「顔」は特徴的な髪型に施され、あきとまっすんを象っている。初披露だったまっすん新喜劇では、空調の音が聞こえるほどシーンとスベってしまっていたのだが…この日は笑いが起こっている。そしてネタ終わりに再登場したあきが死角からハリセンをまっすんに食らわせ、第二部のスタートとなった。
リスタートのナンバーとして定着している「あきっすん出禁」。先ほどの顔のパペットとタオルを持参して、サングラス姿で再登場したまっすん。曲の途中からあきの手には「あきの顔のパペット」が。しかもその顔が合いの手を入れるように「YO!YO!」と掛け合い始めた。まっすんも負けじと「まっすんの顔のパペット」を装着。「Uh…」で切なく弧を描く2つの顔。とてつもなくシュールな画だ。「まっすん新喜劇のパペットマペット芸でスベった過去」は、もう取り返したも同然だった。
「まっすんラップ」でも大暴れは続く。ここでタオルの正体が判明した。伊藤直輝のグッズ「はろーこみゅこみゅタオル」だ。広げたかと思うと「Ⅰwant to fly~」「to the sky~」と「FLY」の一節をねじ込むまっすん。後ろでは踊るあきが再びパペットを手にする。パクパクと口を開け、最後はさっきまで客席に乱入していたまっすんに噛み付いてみせた。
お馴染み漫才のコーナーが始まるも、何故かあきがまっすんの被ってた紙袋をそのまま被って、悪い視界のままヨタヨタとステージ中央へやって来た。「今(新型ウイルスの関係で)マスク売ってないから丁度いい」と強引にこじ付ける。ツッコミ不在の舞台上。その流れでまっすんが拝借したあきのテンガロンハットが、意外にも似合っている。にゃんこスターの直後に麻生太郎という、漫才の登場人物のパワーワードが凄い。
漫才直後の曲は「そんなアホな」これは…いや、ステージの様子を書き出そうにも途中からギターを渡されたのが、客席の筆者であった為「ギターの演奏に必死」で後から配信されていた動画を確認するしか無かったのだ。「お客さんに弾かせることがそんなアホなやで」はこちらのセリフでもあった。斬新すぎる「客席参加型ライブ」がまんまと成立してしまっていたのだ。
倍返しどころか、3倍返し以上の効き目がこの日神懸っていた「あきっすんパペット」をグッズとして商品化しようか、という話にまで飛躍し始めていた。「あきっすんは活動が4月で丸9年、もうすぐ10年目に突入する」と感慨深い話をあきが始めても、その背後でパペットを操って遊び倒すまっすん。翌日に控えたBBガールズの京都MUSE HALLでの大きなワンマンライブに向けて「お花を送りたい」と仲間に心で応えようと呼び掛けるあきの言葉と行動に、「ステージの神様はいつか必ずご褒美をくれる」と筆者は信じている。
イイ話の後に待っていたのは「ミックスナッツ」。感動のバラードなのに「ジャイアントコーン全部食ったやろ」でまんまと嵌ってしまうサビ。しんみりせずにスローな曲でライブの空気を落ち着かせられる、とても稀有なナンバーなのだ。
まっすんのギターのアルペジオでバラードの延長かと思いきや「逆ララバイ」であきの声量が爆発する。案の定うるさがるまっすん。最後の「起きてるかーい!」であきが再びパペットを操った。
ライブのラストスパート前、曲に行こうとした瞬間にまっすんが急に腹話術を始めた。「あきちゃん、この後アホみたいに酒飲みに行くの?」とパペットが喋るも「本体」まっすんをシバくあきがとても楽しそう。
「あなたへのありがとう」でロカビリーなビートが弾ける。セブンス多用のコード、ドゥーワップ的なコーラス、2人のヴォーカルの割り振り、ラストの転調まで非常に高いバランスの取れた構成で、ポジティブな感謝の言葉が込められたロックナンバーだ。
そんなポジティブな雰囲気をキープしたまま名曲「CASUAL」へ続いた。真っすぐなメッセージを歌声に乗せて、あきが身振り手振りで表情豊かに伝える。まっすんはこの曲でギターの高域を立てて、ヒステリックに鳴らす事に拘りがあるらしい。ラストのギターフェイクもキマった。掛け合う「わん!」「にゃ!」の、このアバウトさもユーモラスだ。
「本体もこれ位カワイかったらいいのに」と言われたまっすんがパペットで「いやまっすんカワイイよ」と腹話術で返そうとした瞬間ギターが派手にノイズを出すという神展開の後、ラストナンバー「まつげボーン」が堰を切った。パペットを手に取ったあきがアクションも声量も猛爆を見せる中、そのパペットの操作までこの「まつげボーン!」のパフォーマンスにシンクロさせてみせた。最後はまっすんをひと噛みした後、恒例のハリセンを真っ芯で喰らわせて退場してゆく2人。
アンコールの拍手の代わりに流れる「わたしだけのミックスナッツ」が哀愁を醸す中、2人が再登場する。あきっすん公式グッズのタオルを肩に掛けているあきが「想定の上を行きたいので、また来月もよろしくお願いします」とパペットをパフパフさせながら強気な宣言をする。
ここからお待ちかねのイントロおふざけタイム。前回同様この箇所だけツッコミ口調でお届けします。
おふざけ①山下圭志【アリバイのA】帽子も被ってないし「ポンポンポン」っていうノリ(ラジオの鼻歌イントロクイズでの独特の表現)ここでも持ち込んでるし!しかもイントロ鳴り止んでから帽子被ってるやん!
おふざけ②BBガールズ【まだまだGIRLでいいかしら】いや翌日のMUSEワンマンに向けての景気づけかも知れんけども!待ちきれへんからついサビを歌ってもうてるやん!「まとわりつくの~」のアクションそんなんとちゃうし!
おふざけ③籾井優里奈【青春のゴールドラッシュ】あきっすんのタオルで振り回してもうてるがな!Aメロ直前でブツっと切るのタイミング良すぎ!
おふざけ④伊藤直輝【キミトナイト】色々一周して一番ふざけやすそうやな!モノマネ織り交ぜまくってるし!またいい感じのとこでブツっと切られてもうてるで!
ようやく最後の「感動をください」が正しく始まった。あきっすんタオルを一時も休まず振り続け、拳を突き上げる高速ナンバーは体育会系の爽快感に満ちている。間奏で「オイ!オイ!」と声を揃える一体感と全力を振り絞るエネルギッシュなラスト。会場全員で汗をかいて今回の「倍返し」のあきっすんのパームトーン劇場は幕を下ろした。
とにかく今回はパペットマペット芸の「リベンジ」どころか、ユニークなパフォーマンスとしてライブに定着しそうな勢いで観客に笑いを届けていた。あのキンキンにスベっていた記憶は何処へやら、グッズ商品化の話を音楽のステージ上にも関わらず出来てしまう位の大逆転劇だったように思う。
何が飛び出すかわからないびっくり箱のあきっすんでも、「ここは変えない」事はあるかどうか質問してみた。
「呼吸」(まっすん)
「まっすんさんの滑舌が良くなるように、漫才は続ける」(あき)
呼吸はさておき(苦)、変わらない部分は守りつつも「どんどん小道具は出す!」との言葉が聞けたように、予想外の演出にまた大笑いさせられて年間のトータルで10倍返し、100倍返しが実現するかも知れない。あきっすんの「人を喜ばせるアイデアと、思い」はノーリミットなのだ。
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