勇ましく、その剣を天に掲げるが如し~籾井優里奈の土曜パームトーン劇場 2020/2/8

ファンタジーRPG(ロールプレイングゲーム)でよくあるお話。

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「力・技・心を兼ね備えた勇者でないと、大岩に刺さっている伝説の剣を抜けないシチュエーション」に屡々遭遇する。

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その伝説の剣を引き抜いた時、それが真の勇者の証となり、魔界の王を討伐して世に平和を取り戻す権利を得るというのだ。

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大袈裟な例え話になってしまいがちになる。が、この日の「籾井優里奈のパームトーン劇場」では、

まるでその「伝説の剣」を引き抜いたかのような…ファンタジックな世界観の意味合いをも含めて、優里奈の「勇ましいまでの力・技・心を見せつけた瞬間」を目の当たりにする事が出来たのだ。そのモーメントは本文を照覧して欲しい。

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SE「白い恋人たち」の乙女チックな雰囲気に会場が包まれる。始まる前はまだまだ先ほど形容した「勇ましさ」の気配は想像の余地すらない。むしろ「お姫様」が登場するかのような前触れだ。

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優里奈が登場する。衣装は冬らしいニット使いながら清楚なミニのワンピースに、袖の長い白のアンダー。驚くべきは、優里奈の母親の私物の衣装をそのまま着用する事も多いというのだ。「甘やかな微熱」でスタート。2019年リリースのファーストアルバム「空色日記」には未収録の曲で、優里奈の楽曲の中では熱っぽさを帯びたラブナンバーだ。爽快なナンバーを後に取っておきたいセットではよく、オープニングで歌われる一曲である。

「君のいる放課後」は「ミディアムテンポの曲の中で優里奈の魅力が一番炸裂しているナンバー」ではないかと思っている。青春時代の甘酸っぱい世界の中に暫し帰ってゆくようなひとときだ。「ねぇ もっと君のことを教えてほしい」と問い掛け、「チャチャッ」という手拍子が弾ける。最後は振り向いて笑顔を見せてくれた。

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挨拶のMC。新型ウイルスなど暗いニュースの多いこの頃でも、明るくほのぼのと観客の心を掴んでゆく。「生意気ファニーボーイ」が始まった。先ほどの「君のいる放課後」に負けず劣らず、可愛らしい魅力が弾ける「ヤキモキするデート」がテーマのクラシカル・ポップナンバーだ。キュートな振り付けに最後はふくれて腕組み。優里奈のキラーポーズのうちの一つである。

「帰り道は星空」。少し情景が変わって家族愛を感じる温かなムードに。青く、星空を思わせる照明に「小さな夢 かさねたら 幸せは来る」、娘の心に今も残る父親の言葉が夜風のようにメロディに乗り、切ない余韻を残していた。

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続いて「カラフル」。優里奈自身の作詞によるピュアなナンバーだ。日常がパステルカラーに彩られるように、幸せな美しさに包まれるような情景の一曲。優里奈がピョンとステージ端に駆け寄って、歌を届けに行く。

「青い風と白い空」がこの位置で聴けるのは珍しい。ピュアなナンバーが続いた後に響く優里奈のロングトーン。その爽快感は果てしなく、心が澄み切ってゆくようだ。真冬のライブでも初夏のキラキラとした陽ざしのイメージが広がった。

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「スキーが怖すぎて全然出来なくて、泣いてた」という微笑ましい冬のエピソードを語ってくれた。背後ではギターの冴沢鍾己が準備を始めている。優里奈がマイクを向けると「ボーゲンのままめっちゃ飛ばす」、さしもの冴沢鍾己もスキーまではスマートにこなせないようだ。

アコースティックギター1本での生演奏カヴァーコーナーが始まった。1曲目は山口百恵「いい日旅立ち」。まずは直球の、往年の名曲を披露する2人。「雪解け間近の北の空」で季節にフィットさせた。サビは伸びやかに、マイナーコードの曲でも、沈み切らないトーンキャラクターを優里奈の歌声は持ち合わせているのだ。

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2曲目はこちらも懐かしい、竹内まりや「不思議なピーチパイ」は1980年のナンバー。明るい曲調と、当然のように照明はピンクに。自然な腕の振りに、長めの袖が天才的にキュートに映えた。うっすらバレンタインモードのふわふわとした歌詞も優里奈にとてもマッチしている。ともすれば平坦になりがちなメジャーポップでも鐘己のギターニュアンスが多彩だった。

生演奏が終わり、バラード「トパーズの未来」へ。離れていても心を通い合わせる男女のストーリーを、優しい目で遠くを見つめながら伝えてゆく優里奈。水平線の情景が浮かぶようなロングトーンに心酔するひとときだ。

優里奈が一旦退場する。いわゆる「お色直しタイム」のインターバルの時間だ。冒頭の「勇ましさ、勇敢さ」の正体が判明するのは後半である。神秘的なSEが流れ、誰もいないステージを照明がグルグルと照らしている。

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「窓辺のゼンマイ時計」の導入部、柱時計の音が不穏に響いた。照明はまだ暗いままだが、再登場した優里奈はキラキラとした衣装を纏っていた。「しゃがみ込む」いつもの体勢でファンタジックなストーリーを演じ始める。魂の無い人形のような、虚ろな表情で歌い始める優里奈。スポットで照明が当たった。まるでバレンタインのチョコレートの愛らしい装飾のようなリボンの付いた、淡いピンクのドレス姿。所々ビーズのラメが散りばめられていた。このファンタジーの中の少女人形の姿を投影しているようにも映る。優里奈が笑顔をひとときだけ見せた「きれいな月の 夜にはいつも」で光り輝く月のような照明が、束の間の幸せを描いているようだった。

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再びしゃがみ込んで闇の中に落ちていた優里奈が、立ち上がって顔を背けた。深紅の照明、孤独な情景を一瞬で甦らせるようなイントロダクション。「かりそめのジュヴナイル」だ。優里奈の眼光の鋭さが先ほどまでとは全く違う。独立した別の世界に瞬く間に自らを憑依させ、凛とした佇まいで歌い始めた。演じられる光景は、灯りの見えない霧雨の中で、少年の穴の開いた心が血を流し続けるような残酷な悲しみに満ちていた。「ただ君を探して…」の激甚たるロングトーンで、粉々に砕けた感情がフラッシュバックするように原色の照明が回る。「君」の幻さえも掴めずに、真正面から真下の闇に視線を落とし、立ったまま魂を失ってしまったかのように優里奈が動きを止めた。

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「夕陽色の涙」の切ない歌い出しが、先ほどまでの異なる世界から青春の風景への帰着を、ゆるやかに果たしてくれたように感じた。「哀」を埋めるのもまた「哀」なのか、皮肉にも受け取れてしまうこちら側の感情を置き去りに、優里奈が歌い紡ぐストーリーの中で「恋の意味も知らない幼気な女学生」は傷心してしまう。「青春の肌触り」のリマインドを感知しつつ「悲しみで、別の悲しみが上書きされてしまう儚さ」に後ろ髪を引かれるような思いでもあったのだ。

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このライブ中盤の鍵となるセットで「髪の毛が振り乱れる」「(最初から)恋に破れてボロボロです、みたいな」と曲順の展開をしっかり気にしている様子の優里奈。全く話が変わってラジオ番組「天然!OPP」でのクイズコーナーで見せた、仰天の天然エピソードで会場が一気に和んだ。真相に気づくまで優里奈の中での「赤福」は「大阪の名物」だったという…!

愛らしい、短いイントロが流れて「カナリア」が始まった。明確に浮かぶイメージが切なく展開されるストーリーの歌で「妙なポーズを 見せてたから」のポージングが変化を見せていた。「拭いたい噂(の歌詞)」と「優里奈の演出が見たい」、ちょっとしたジレンマを感じられるこのあたりがファンにとっての味わいどころだ。

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そして「カナリア」のアンサーソングでアルバム「空色日記」のラストを飾る、美しいバラードナンバー「青春譜」。先ほどの「噂」の部分も「気にしないでいて」と優しく(アンサーで)答えてくれると、一気に心が解けるのだ。「あなただけは 変わらずにいてね」と真っすぐに心を開いて伝えられるメッセージに「もちろんさ」「変わるもんか」と同じ心で返してゆくのもファンの努めなのかも知れない。

優里奈が急なタイミングで「…まだまだ行けるかな?」と問い掛けた。涙するような一曲の後に、客席を和ませようとしてくれたのだ。「ときめきドリームパレット」で瞬く間に明るいムード。手拍子の弾ける音と快いアクションのダイナミズム。まるで優里奈自身と会場のシンクロを表しているかのように「笑顔があふれる」のフレーズ。

続くも明るいポップナンバー「DOKI♪DOKI♪イロドリタウン」ですっかりキラキラとした空気に包まれる。「A Ha」で始まるサビのアクションもキュートで明快、優里奈の歌声に導かれるようにぐんぐんとポジティブなエネルギーで満たされてゆく。

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背後の照明だけが点いたステージに、全く耳覚えのないスリリングなイントロが流れ始めた。事前に予告のあった「2020年最初の新曲」が遂にヴェールを脱ぐようだ…!

タイトルは「君は流星形」という。実際は違うネーミングのタイトルだったがこの形になったそうだ。BBガールズ「天界の雫」にも共通したスペースファンタジーアニソン的な世界観で冴沢鍾己が書き下ろした一曲、筆者が一言で言うと「恐るべきハードナンバー」である。その正体は解放感が宇宙のように無限に広がるサビで、ハイトーンの連続で息継ぎのタイミングがほとんど無い。未熟な歌い手ならばあっと言う間に声のスタミナを削られて力尽き、一曲と持たなくなる。これを日常の修練のようにステージで歌い上げられる優里奈の力と技。強敵のようなメロディに勇敢に向き合える心意気。勇者が伝説の剣を抜き、燦然と天に掲げる姿にさえ映るかのように、圧倒的な勇姿を見せ付けてくれていたのだ。

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「戦い」のようなハードナンバーに「身体が熱いです」と語りながらも名目上のラストナンバー「青春のゴールドラッシュ」への導入。自身のグッズ、YURINAタオルを回しながら「いくよ?準備はいいかな?」と促す。ドラムのイントロが始まり「1!2!3!4!」、その後は当然の如くタオルを振り回して「優里奈祭り」状態で大盛り上がり、この盛況はもちろん今日も健在だった。イントロフレーズ、Aメロ、Bメロ、サビと休まる時間は片時も無い。全員で声を出して汗をかいて、最高潮に会場の熱が高まったところで、タオルを天に放り投げた。そのまま途切れないアンコールの拍手。

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アンコールに応えた優里奈が「夢を見るかも知れない」で再登場した。ポジティブなメッセージと「指を天に向け、ジャンプする」サビのアクション。ヒールが高かったのもあってか、間奏のアクションは控えめに1回転ながらその心遣いが嬉しい瞬間だ。

最後の一曲は「天気雨にウインクを」。優里奈の代表曲でもある爽快なナンバーを会場全員で大合唱する。一瞬1/2テンポになる部分も観客はごく自然に手拍子を合わせる。サビは切ないメロディながら、全く雰囲気を沈ませない優里奈の伸びやかな歌声とアクションに「いつもの」魅力が弾けていた。こうして2月度の籾井優里奈のパームトーン劇場は終演した。

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ノスタルジックな青春の風景、クラシカルな生演奏カヴァー、悲しみに満ちたドラマ、勇敢さを映し出した一幕、ありとあらゆる側面をしなやかに力強く演じ切った優里奈の歌のパフォーマンスに圧倒されたステージだった。新曲「君は流星形」はおそらくアクションも追加され、より絢爛な勇者のように高められた姿を来月以降、拝む事になるのだろう。

「(これからも変わらないところは)自然体?そう、飾らないで気取らないで(笑)」「(キラキラで気づいてなかったけど)言われてみれば衣装、バレンタインっぽい」(優里奈)

歌詞のフレーズが飛び出したり、今日のライブを楽しめた様子を終演後にリラックスムードで語ってくれた優里奈。勇者かお姫様か、はたまた女王なのか、様々なイマジネーションを我々に与えてくれる優里奈のファンタジーの物語は、輝かしい伝説として永く続いてゆくに違いない。



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