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紅茶花伝といつかの恋の話
「いっつもそれ飲んでますよね」
会社のデスクでホットの紅茶花伝を飲んでいるわたしに、後輩が言う。
「好きなんだよねぇ」
とわたしは答える。
たぶん、会社の自販機で一番たくさん紅茶花伝を買っているのはわたし。毎朝、出社とともに紅茶花伝を買うところから1日が始まる。冬季限定のルーティン。
***
中学生のころ、両想いの人がいた。
3つ年上の、バスケ部のOB。時々、高校の帰りに他の先輩たちと一緒に部活を見に来てくれていて、なんのきっかけだったかはすっかり忘れてしまったけれど、いつの間にかお互いを意識するようになった。両想いなんだなあと認識した時、わたしは中2で、向こうは高2で、季節はたしか、秋の始まりぐらいだった。
今だったら毎日LINEするんだろうけれど、当時は携帯もなかったし、メールもなかったから、連絡手段は家の固定電話のみ。緊張しながら電話をかけて、先輩が出た!と思って話し始めたら、実は声が先輩にそっくりなお父さんで、「どちら様ですか?」と聞かれて慌てふためいたこともある。しょっちゅう電話するわけにもいかず、次はいつ部活に来てくれるかなあと、毎日ドキドキしながら部活をしていた。不純である。
さらに、当時わたしが住んでいた家は中学校から徒歩30秒のところにあり(これは大袈裟ではなく事実で、家にいても校内放送が聞こえた)、部活帰りにデートをする距離はなく、結果、学校の前の文房具屋さんの前の自販機で飲み物を買って、閉店後のお店の前の階段に座って小一時間しゃべる、というのがわたしたちのお決まりだった。初々しすぎるな、わたしたち。
秋から冬にかけての季節を、わたしたちはそうやって過ごした。何を話していたのかはすっかり忘れてしまったけれど、いつもあっという間に晩ご飯の時間になって、バイバイをするのが名残惜しかった。
そうこうしているうちに、すっかり冬になった。吐く息は白く、かじかんだ手をこすりながら、わたしたちは相変わらず部活帰りに文房具屋さんの前で話していた(なんせ田舎だったから、カフェもファミレスも近くになかった)。
そんなある日、彼が買ってくれたのが、あったかい紅茶花伝だった。
他の日だって何かしら飲みながら話をしていたと思うのだけれど、あの時、彼が買ってくれた紅茶花伝は、甘くてあったかくてしあわせな味がして、身体中にそのしあわせが沁み渡っていくのがはっきりとわかって、
それ以来わたしは、冬に紅茶花伝を見かけるとついつい買ってしまう。
***
先輩とはその後ほどなくしてわたしの引っ越しによって遠距離になり、そのまま自然に友達のような関係になった。時代は変わって今はSNSでつながっているのだけれど、元気に暮らしているようでなにより。
彼にとってはどうだったかわからないけれど、あの日々にわたしはとても感謝しているし、そして今日もわたしはすっかり習慣となった紅茶花伝を飲んでいる。
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![みやざきなお / 宮嵜 菜生](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/36711971/profile_0e58c76fcbff2e64022123c95fac4971.png?width=600&crop=1:1,smart)