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Traveler's Voice #7|有賀敬直

Traveler's Voice について

Traveler's Voice は特別招待ゲストの方からエスパシオに泊まった感想をインタビューし、読者のもとへ届ける連載記事です。この企画の目的は”自分ではない誰か”の体験を通して、エスパシオを多角的に知っていただくことと、ゲストが日頃行っている活動を合わせて紹介するふたつの側面を持っています。ご存じの方も多いと思いますが、エスパシオは「いつか立派な観光ホテルになる」と心に誓った山口市にあるラブホテルです。この先どんなホテルに育っていくのか、まだ出発地点に立ったばかりですが、この企画を通してゲストの過ごし方や価値観を知り、計画にフィードバックしたいと考えています。インタビュアー、執筆、カメラマンを務めるのは「エスパシオ観光ホテル化計画・OVEL」を進めているプロデューサーの荒木です。それではインタビューをお楽しみください。


ゲスト紹介

Traveler's Voice 第7回目のゲストは都市デザイナーの有賀敬直さんです。有賀さんは大阪の都市デザイン事務所ハートビートプランに所属し、長門湯本温泉街の再開発を経て、長門で「365+1 BEER・サンロクロク ビール」というブリュワリーを経営しています。都市デザインをしながらクラフトビールを醸造する、大変ユニークな経歴の持ち主です。都市デザイナーからはエスパシオがいったいどのように見えているのでしょうか。


有賀さんが泊まったお部屋紹介

有賀さんに宿泊していただいたお部屋は407号室です。淡いピンクの壁紙にユニークな半立体アートが存在感を放つインテリアです。南側の大きな窓からは、やわらかな朝日が差し込み、心地よい目覚めを演出します。

夜は小さな窓のそとに、東からやって来たねずみの車が見れます
角部屋なのでバルコニーも広い

インタビュー

Araki:おはようございます。昨日はぐっすり眠れましたか。有賀さんは都市と地方を行ったり来たりの2拠点生活をしているので、少しでも心を落ち着かせる時間になっていれば嬉しいのですが、昨晩はどのように過ごされましたか。

Ariga:昨日は18時にチェックインしたので、約15時間ここで過ごしたことになりますが、そのうち8時間は睡眠にあて今インタビューを受けているので、自由に過ごした時間は昨晩の6時間ほどです。そのほとんどを快適なソファで過ごさせていただきました。といっても主にデスクワークでしたが 笑。集中が切れるとバルコニーに出て気分をリセットして、またソファに戻ってカチカチ、本当に寛ぎたいときはPCやスマホを持ち込まないほうがいいのかもしれませんね 笑。とはいえ、いつもと同じデクスワークをしていても、その充実感はいつもと比べ物にならない豊かな時間でした。その要因のひとつに、バルコニーの存在が大きく影響していると思います。バルコニーは室内とは違った時間が流れているので、気分を切り替える場所として最適です。エスパシオにはビジネスホテルやシティホテルにはない独特のくつろぎ感があって、とても貴重な時間を過ごさせていただきました。ありがとうございます。

デスクワークの再演

Araki:いえいえ、こちらこそ宿泊していただきありがとうございました。お一人で来ていただいたこともあって、仕事モードで過ごされたんですね、できればリラックスしてほしかったけど 笑。ソファは寛いだり食事をしたりデスクワークをしたり、多様な使われ方をするので座面を少し硬くしテーブルの高さを程よく合わせています。バルコニーいいですよね、占有空間にプライベートな外部空間があるホテルって大手シティホテルでもなかなか無い特徴だと思っています。有賀さんは7人目のゲストなんですけど、空間について聞くと、だいたい皆さん同じ感想を仰ることが多くて、それはそれで嬉しいのですが、空間の使用感を個性的に表現するには専門スキルが必要なのかもしれませんね。

Ariga:そうかもしれませんね、その一般的な意見によってOTAの評価基準が作られているような気がします。いろんな感想を聞き出すためにはどうすればいいんでしょうね。例えば、1泊だけではなく3泊くらい滞在してもらい、時間をかけてさまざまな体験を重ねることで、豊かな感想が引き出せるのかもしれませんね。ぼくは今朝バタバタしていたので、珈琲も飲めないままこのインタビューを受けています 笑。エスパシオのスペックを楽しみつくすためにはそれに合った時間が必要で、言い換えれば、それくらい魅力が詰まったホテルだと思います。それと、過ごしている中でひとつ気がついたことがあります。ここってとても静かですよね。建物の性質上防音がしっかり施されているんだと思いますが、お子様連れのゲストにとっては利用しやすい要素だと思いました。

裏山とインテリアと有賀さん

Araki:防音はかなりしっかりしています。でも残念なことに、エスパシオはラブホテルなので法律上18歳未満の方は利用できないんです 笑。長期滞在については観光業界でよく言われている課題ですよね、体験を重ねるためには時間が必要で、費やした時間と比例して愛着も深まるのかもしれません。エスパシオは今はまだラブホテルなので地域密着型リピーターメインのホテルです。もしかすると、一度に味わい尽くせないことがリピートにつながっているのかもしれません。それではもう少しホテルについて質問しますね。有賀さんは都市デザイナーとして活躍されていますが、街とホテルの関係について教えてください。

Ariga:ホテルというか宿泊施設全般に言えることですが、外から来られる人にとっては、そこを拠点に色々なところを巡るような、まちの玄関口ともリビングともなる場所だと思っています。ここに地元の人やものが交わっていくことで、その地域ならではの体験やコミュニケーション、価値を生み出すことのできる可能性があると思っています。

Araki:たしかに街の玄関やリビングをつくるという目的が先にあって、宿泊施設はそれに適しているけど、土地には固有の人やものがあるのだから、ホテルに囚われずその場所にあった”玄関やリビング”を考えることができるのかもしれませんね。ではでは、有賀さんと長門市の関係についても教えてください。

Ariga:2016年、都市デザイナーとして長門に来ました。当時は大阪に住んでいたので、月に1-2回のペースで街に足を運んでいたのですが、そうこうしているうちに長門湯本温泉街が開業をむかえ、それと同時に以前から温めていたブリュワリーを長門で開業することになりました。なぜこんな地方でとよく聞かれるのですが、今思えば、土地に対する縁とそこで出会った人たちに惹かれたからだと思っています。大都市で同じことをしようとすると、投資リスクも高く、常に競争に晒された状況になります。そう考えると、地方は新しいビジネスを始めたい人にとってはチャレンジしやすい土地なんだと、自分の体験を通じて知ることができました。

Araki:都市計画とブリュワリー格好いい組み合わせですね、憧れます。地方がチャレンジしやすいというのは納得できます。それを世界レベルまで広げると発展途上国がチャレンジしやすい土地になるんでしょうね。アマンの1号店がプーケット島であったことを思い出しました。ぼくは山口に来て半年くらいですが、地方の情報を集めるなかで気がついたことがあって、最近、地域活性化コンサルってすごい勢いで増えていますよね。

Ariga:そうですね、地方が抱える問題に向き合う人が求められている表れだと思います。地域活性化と一言でいっても内実は多様化しています。事業コンサル、福祉、環境・広告代理店、さまざまな専門家がそれぞれに地域活性化という言葉を使っていて、その中でも、ハートビートプランは都市計画の専門性をベースに、地域活性化というソフトと向き合うかたちをとっています。我々のアプローチは、街全体を大小様々な視点でリサーチし、それを踏まえて客観的・俯瞰的な視点で将来ビジョンを提案し、それらを合意形成しながら推進するというもので、いかに官民と共有するビジョンを築けるかが重要だと考えています。

Araki:なるほど、ビジョンの共有には時間がかかるけど、目先の利益に頼らない長期的なビジョンは必要だと思います。もっと都市計画について深掘りしたいところですが、質問に戻りますね。有賀さんは都市と地方を行ったり来たりしながら生活しているので、どちらにも依存しない客観的視点をもっていると思うのですが、都市と地方の関係について教えてください。

Ariga:地方からは都市が輝いて見えますが、実は都市より地方のほうがチャレンジしやすい条件が揃っている土地だと感じています。まずはその客観的な事実を知っていただき、その上でチャレンジの数を増やしていけば、地方から新しい価値を生み出すことができ、そのモデルを都市に送り出していく流れが作れるような気がしています。そういうロールモデルを作ることでチャレンジの連鎖が生まれ、都市と地方の新しい関係性ができると考えています。今後はその仕組みづくりに取り組んでいきたいと考えています。質問の答えと少しずれましたが、これがぼくの考える都市と地方の関係性です。

Araki:投資リスクの低い地方、集客力の高い都市、それぞれにチャレンジしやすさの特徴はありますが、地方だからできるチャレンジはあるし、それが都市と地方の新しい関係性をつくれるのなら、それこそ客観的視座を持った人ができるチャレンジですね。では少し踏み込んで、都市デザイナーへの質問ですが、山口県という土地にはどのような特徴がありますか。

Ariga:他府県に比べ、山口県はとてもめずらしい土地です。普通は人口が集中した県庁所在地があり、それを軸としてツリー構造のように他の街がぶら下がっています。それに対して山口県は、下関市と山口市などに分散していて、さらに山口市の中でも小郡、湯田、山口、と街が分散しています。このことによって投資も分散し目に見える結果が生まれにくい構造になっています。とは言え、そのことで古いものが残っているという良い側面もあります。今回のNYタイムズの記事では、そこをポジティブに捉えていましたが、その裏にあるのは構造的な弱点であるのも事実です。山口県はこの前提をしっかり踏まえて考えることが求められています。弱点を”魅力ある個性”に変えるようなアイデアを考えることで、唯一無二のユニークな街に変化できると信じています。

Araki:なるほど、分散化していることをポジティブに捉えるためのアイデアが必要なんですね。投資の分散化を止めるのは難しそうだから、徹底的にモビリティを進化させる方向に未来があるような気がします。それでは最後の質問です。長門市の取り組みのなか、山口市はどのような場所になれば良いと考えていますか。

Ariga:長門はおもてなしベースの街づくりをしています。それはつまり、来訪者を迎え入れ接客する場所に特化していることを意味していますが、最近は”おもてなし”を超えて、フラットに交流するための取り組みも増えてきています。山口市は長門に比べまちの規模が大きいので、その分、交流するための場所や仕組みをたくさん設計する必要があると感じています。山口は都市にはない特有のコミュニティ感覚があるので、それらをうまく活用して、地方だからできる交流空間をつくれば、優秀な人材を育てたり、そこから巣立っていく人を応援することができると考えています。エスパシオ観光ホテル化計画のアイデアを見るかぎり、OVELはそれに適した場所になれるような気がしているので、これからの進化に期待しています。

Araki:そうですね、外から来た人とまちの人が分け隔てなく交流し、共に育っていく場所を増やすことで「新しいインフォメーションシティ」になれるのかもしれませんね。OVELがそのひとつになれれば素敵ですね。有賀さんと話せたことで、都市計画について理解が深まりました。これからもいろいろ教えていただけると幸いです。それでは、本日は長門から足を運んでいただきありがとうございました。ビールの醸造も頑張ってくださいね。


day of stay:February 1, 2024

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