「石破政権の看板政策『2020年代に最低賃金1500円』は実現できるのか？」

2024年10月26日 16:46

2020年代という目標期間内で、日本の最低賃金を全国平均で1,500円に引き上げるという政策が、石破茂政権の掲げる重要な公約の一つです。現行の平均最低賃金が1,000円前後である日本にとって、目標までの約500円の引き上げは、過去の引き上げ率をはるかに上回る大きな挑戦です。達成に向けた努力には、企業側への負担軽減や労働生産性の向上が不可欠であり、特に地方経済や中小企業に与える影響が注目されています。

しかし、目標を掲げることと実現することの間には大きな壁が存在します。ここでは、この政策が具体的にどのような影響をもたらす可能性があるのか、そして本当に達成可能なのかを、現状と今後の課題を踏まえながら考察していきます。

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1. 石破政権下における最低賃金引き上げ目標の前倒し

石破茂新政権は、全国加重平均で最低賃金1,500円を目指す政府目標の達成時期を従来の「2030年代半ば」から「2020年代」に前倒しすることを発表しました。石破首相は所信表明演説にて「適切な価格転嫁と生産性向上支援によって、全国平均1,500円という目標達成に向けて努力する」と述べ、企業の負担軽減と労働者の生活安定を両立させる姿勢を強調しました。

この方針が具体化されるには、2024年度の全国加重平均最低賃金（1,055円）から少なくとも445円の引き上げが必要となります。達成時期が2029年度の場合、2025〜2029年度における年平均引き上げ幅は89円、年平均引き上げ率は7.3％と、過去の最高水準（6.9％）を上回る大幅な引き上げが必要です。この急速なペースに対して、企業や経済界からは「実現可能性が低い」と懸念する声も出ています。

2. 国際水準と日本の最低賃金水準

• 国際的な水準比較

日本の最低賃金は絶対額で見ると主要先進国に比べて低いですが、平均賃金に対する比率ではやや高い水準です。例えば、2023年のデータに基づくと、日本の最低賃金は平均賃金の39％に相当し、これはドイツや米国を上回り、フランスやカナダと同水準です。主要先進国における最低賃金はおおむね平均賃金の40〜44％が主流となっており、日本が2029年度に1,500円に到達した場合、平均賃金対比49％となり、主要先進国の最高水準（44％）を上回ることになります。

• 各国の最低賃金設定における基準と日本の比較

欧州連合（EU）では最低賃金に関するガイドラインを策定しており、加盟国が賃金中央値の60％または平均賃金の50％を最低基準とすることを推奨しています。また、英国は成人（21歳以上）向けの最低賃金を2024年までに賃金中央値の約3分の2とする目標を掲げており、国際的に見ても生活水準を維持するために各国が積極的な引き上げを実施しています。日本が掲げる「2020年代に1,500円」という目標についても、国際的な動向と照らし合わせた慎重な検討が必要です。

3. 地方への影響と企業への負担

• 地方経済への負担

都道府県別に最低賃金を試算すると、特に地方部では、2029年度に最低賃金が平均賃金の50％を超える地域が増える見込みです。沖縄県や青森県などでは60％以上に達する可能性もあり、地方の中小企業にとっては過剰な人件費負担が生じかねません。企業がコスト増を賃上げでカバーしきれない場合、事業縮小や雇用削減のリスクが高まり、結果的に労働者の雇用環境が悪化する恐れがあります。

• 企業支援策とEBPMの必要性

急速な最低賃金引き上げに伴う企業負担を軽減するため、政府は中小企業の生産性向上支援を強化することが求められます。具体的には、設備投資の支援やデジタル化推進、人材育成の助成などが必要です。また、最低賃金の影響を評価するEBPM（証拠に基づく政策立案）の強化も重要です。最低賃金引き上げが雇用市場や企業の収益に与える影響を詳細に分析し、柔軟な政策立案と施策修正が必要とされます。

4. 目標達成時期の柔軟な見直しと政策の持続可能性

石破政権は「2020年代」に最低賃金1,500円を達成することを掲げていますが、急速な引き上げが中小企業や地方経済に負担を強いるリスクを避けるため、目標達成時期の柔軟な見直しが求められます。また、賃金引き上げ政策が持続可能であるためには、企業が賃上げに応じる環境整備が必要です。特に地方では、企業の負担軽減策がなければ、雇用維持が困難になり、逆に失業率の上昇や地域経済の縮小を招く可能性があるため、賃上げと生産性向上を両立させる政策が求められます。

5. まとめ

石破政権の最低賃金引き上げ目標の前倒しは、企業の人件費負担増加や地方の経済・雇用環境への影響が懸念されます。達成時期や引き上げペースについては、国際比較や経済実態を踏まえた慎重な対応が求められます。