ジョージ・シャーフ『セントポール寺院』
追記:この記事を書き始めたのが9月の中頃なので、今とは時期がちぐはぐになっている部分があります。
久しぶりに一つの絵を見ることにしました。ふだんはTwitterに流れてくる絵画を流し見して、「これ知ってる人だ」「このひとの名前覚えとこう」「この人こんな絵も描くんだ」みたいなことを思いながら、イイネをぽちぽちしている人間ですが、望月の季節にもなったということで(それと学会原稿の修正も落ち着いたので)個人的に絵画鑑賞キャンペーンを開催したいと思います。
そんなわけでエイヤと選んでみたのがジョージ・シャーフの『デットフォード、セントポール寺院』です。
シャーフ(1820-1895)はロンドン生まれで18歳から国立の美大で学び、20歳のときにアジア・イタリアを旅行しました。いわゆるグラン・ツアー&オリエンタリスムの流行があった時代ですね。彼が20代だった1840年代からは鉄道網も大いに発展し、ヨーロッパの方から印象派の波がやってくることになりますが、本人はリトグラフに取り組んだようです。
作品の主題である「セントポール大聖堂」は、彼の生まれ故郷ロンドンにある世界三大大聖堂であり、バロック建築の様式をとっています(ちなみにここにはターナーやミレイのお墓があるらしいです)。また、この周辺には「セント・ポール・ハイト」という建築基準があり、これよってセントポールより高い建築物を作ることはできません。
本作は、彼の人物史から考えて、旅行から帰国してきた時期に描いた作品だろうと想像します。
中央に長く吊り下がったシャンデリアと、豪華な主教座(カテドラ)、さらに奥にはステンドグラスに描かれた聖母がいます。また、手前の座席には家族と思われる市民がいて、いくつか聖書の忘れ物もあり、生活感が感じられます。
画風は見た通り写実的であり、柔らかで静謐な空気が伝わってきます。ひとたびコツコツと寺院に足音を響かせれば、それが柔らかな音になって返ってくるようです。あらゆる角度から差し込む陽光は訪問者に陰を作らず、それが作用して自然と温かい気持ちになったのだろうと(勝手に)想像します。「市民の祈りの場」として西暦600年代からあるこの寺院の歴史を考えると、「心もしのに いにしへ思ほふ」と歌った人麻呂の気持ちになってきます。
なんだか絵の感想よりその周辺の事実について話す文章の方が多かったように思いますが、絵の中の事物が何なのかまで含めて調べるのも個人的に好きなので、このへんで満足して終わりたいと思います。