78.7億円ものARRを初開示。実は国内7位SaaS、LINE WORKSのグロース戦略とは?
以下の記事をご覧になりましたか?
ビジネスチャット「LINE WORKS」を提供するワークスモバイルジャパンが業績に関する情報を初開示しています。
本記事でも触れますが、SaaS企業として凄い業績と成長を遂げています。
このnoteをきっかけに、LINE WORKSに興味を持ち、これまでのグロース戦略について調べてみたので、今回はその内容をまとめます。
LINE WORKSの業績
まず、今回のnoteを書くに至ったLINE WORKSの業績と成長についてさっくりまとめます。
▼国内上場SaaSと比べてもトップクラスのARR
まずSaaS企業の業績を見る上での最重要指標、サブスクリプションによる年間の売り上げを示す「ARR(年間経常収益)」ですが、国内SaaS企業の7番目の高さ。めちゃくちゃ大型のSaaS企業だったんです。
▼海外のグローバルSaaSにも見劣りしない圧倒的成長
そして、米国SaaSユニコーン企業のARR1億円〜100億円までの成長グラフにLINE WORKSを当てはめた図がこちら。T2D3に近い成長を達成してます。
ここまでが公式noteの内容です。LINE WORKSがSaaS企業として凄い売上規模と成長率を誇るという広報には十分すぎる根拠ですね。
ただ、知りたいのはもう少し詳細なところ。
➀実際、LINE WORKSはサービスとして何が特徴なのか?
➁Slackやチャットワークなどの競合に対しプロダクトの何が優位性か?
③国内SaaSの販売戦略のポイントとは?(営業/価格/広報)
④自走するカスタマーサクセスの好事例
本記事では、そういった部分を解説していきます。
企業の概要と事業内容
▼韓国のNAVERグループとの関係性
「LINE WORKS」を運営しているのは、ワークスモバイルジャパンという、LINEとはまた別のNAVERのグループ会社です。少し資本関係がややこしいので以下の図にまとめました。
韓国では、クラウドサービスやAIプラットフォームなどのNAVERのBtoB事業がNAVER Cloud社に統合されています。韓国のWORKS MOBILE Coporationは、このBtoB事業とのシナジー強化のため、既に「LINE WORKS」を「NAVER WORKS」にブランド統一しています。しかし、日本市場ではNAVER Cloudの存在感が薄いため、その子会社のワークスモバイルジャパンは単体で「LINE WORKS」を運営している状況です。
▼サービス内容
事業内容はビジネスチャット「LINE WORKS」の提供のみとなっています。
「LINE WORKS」はビジネス向けのコミュニケーションツールで業務効率化やコミュニケーションの可視化を目的としたツールで、チャットの他に掲示板やカレンダーなどの機能があります。
ビジネスチャットとしては、SlackやMicrosoft Teams、チャットワークなどが有名ですが、LINE WORKSは、toC版のLINEとも繋がるビジネスチャットというところが優位性のようです。
LINE WORKSの事業戦略解説
戦略の方向性(どこを攻めるのか)
先ほど触れたSlackやMicrosoft Teams、チャットワークを競合とすると、
ビジネスチャット市場でのポジショニングは以下のようになっています。
LINE WORKSは中小規模企業向け市場をメインターゲットに設定してます。
これは主に大企業向け市場の競争環境が大きな理由だと思っていて、そのメインがMicrosoft Teamsです。MicrosoftはTeamsをMicrosoft 365のライセンス(旧Office365)にバンドリングしていて、ユーザーは追加コストなしでTeamsを導入できます。これによって、大企業向け市場はもはやチャットツール単体でなく複数サービスのシナジーやコストの競争になってきてるんですね。SlackがSalesforceに買収されたのもこういった環境が原因です。
これに対してLINE WORKSは、LINEと似たUIでITリテラシーが低くても利用できるという強みや、現状チャットツール単体しか提供していないラインナップとなっています。巨人たちと戦うよりは「中小規模企業向け市場を中心にビジネスチャットの市場自体を広げていく方向へ集中した」と見えます。
そもそもビジネスチャットはプロダクトの完成度に対して、普及率が15%と低い市場なので、未利用ユーザーの転換に集中して市場自体を作っていく戦略でも十分成長できるわけですね。
戦術の解説と関係性(どう攻めるのか)
では具体的にLINE WORKSが「ビジネスチャット未利用の中小規模企業」をどう攻めているのかを見ていきます。
プロダクトの独自性と狙う市場を軸に、綺麗にチャネルや広報が
ハマっているのが特徴なのでそこも意識して見てもらえれば!
▼プロダクトの優位性
LINE WORKSのプロダクトの優位性は2つあります。
➀LINEと同じようなUIで感覚的に使える点
➁スマホだけでフル機能が使える点
まずLINEという完全に普及しているサービスと同じようなUIであることで、
いわゆる敷居の高いITツールとして認識されにくく、あまりITリテラシーの高くないユーザー層でも気軽に利用できることがメリットになっています。
そして、スマホだけでフル機能が使える点。ここも中小規模企業マーケットを攻略する上で大きな優位性となっている機能です。スマホだけで利用できるので、PCが身近にない販売スタッフや建設現場スタッフなどの立ち仕事や現場の方にも利用されやすくなってるんですね。
この2つの独自性が、まずプロダクト段階でのLINE WORKSの優位性です。
この優位性をもとにLINE WORKSが注力したセグメントが
➀地方企業
➁介護業界・建設業界
の2つの領域です。他社のITツールの浸透が進んでいない、かつPCも普段
身近に利用せずスマホ中心のUIと相性が良いという点が基準でしょうか。
▼地方への販売戦略
それでは具体的な販売戦略です。LINE WORKSの販売を語る上で外せないのは、セールスパートナー(代理店)の存在です。
LINE WORKSは、パートナーセールスがメインの販売チャネルとなっています。それゆえに社内に大きな営業組織を持っていません。実際に、既にARRが60億を超えていた2021年2月29日時点で、まだ社員数が106名と会社規模が非常にコンパクトにおさまっています。
※参考に、同じく中小規模企業向けのビジネスチャットを提供するチャットワークは、ARR20億円ほどで社員数は247名、セールス・企画職の占める割合は40%です。これと比較するとワークスモバイルジャパンがいかにスリムかお分かりいただけるかと思います。
なぜ代理店を中心にしているのか?それはターゲットを中小規模企業に選択したからこその戦略です。
中小企業庁の公表した下の資料によれば、「デジタルツール・クラウドサービス提供者」が中小企業・小規模事業者にダイレクトセールスでサービスの提供を行う割合は24%であり、自社だけのセールス活動においてはリーチできない顧客が多数存在することが分かります。
逆に、地域のITベンダーや支援機関を仲介した場合は、アクセスできる割合が合計で47~69%にもなり、大きな差があることが分かります。
LINE WORKSもこの市場環境を理解しているからこそ、パートナー企業、特に特定地域に影響力のあるベンダーの開拓を意識しているんですね。
具体的な提携先では、熊本県人吉市のシステムフォレスト社や北海道札幌市のシージェイシステム社、山形県山形市のエス・エム・アイ社など多くの地方ベンダーと提携しており、顧客の開拓が進んでいます。
▼特定業界への販売戦略
続いて各業界への販売戦略です。こちらはよりわかりやすく、CM展開による認知拡大と、連携サービスの拡充による利便性の強化になります。
LINE WORKSが展開しているテレビCMは4種類ありますが、それぞれ
➀会えなくても仕事が進む編、➁現場が動き出す・店舗編
➂現場が動き出す・建設編、➃現場が動き出す・介護編
となっています。
店舗や建設から分かるように、スマホでフル機能が使えて現場で利用しやすいという特徴が最大限活きる業界に集中したCM展開となっています。
プロダクトの独自性が強いので、その特徴を、刺さるターゲットに向けて
シンプルに訴求するだけで強力な広報になるんですね。
さらに、現場施工管理アプリ「Kizuku」や介護福祉施設向けデリバリーサービス「スマート介護」など、注力業界に強いサービスとの連携も進めており、LINE WORKSがその業界の仕事に欠かせないツールとなるべくシナジー強化を進めています。
10~11月には介護業界を対象としたイベントも行っています。
CMで認知を広げた後にイベントで利用シーンを想像させ、実装後は実務に関連するサービスとのシナジーでLINE WORKSを業務のハブとしていく。
お手本のような連携が出来上がっていますね。
労働人口の多くを占める「現場」の業界に狙いを定め、利用を拡大しているというのが肝で、これが1企業当たりの利用ユーザー数を増大させるのに作用しています。
2021年12月現在、チャットワークもLINE WORKSも、サービスの導入社数は30万社程度で拮抗している一方で、ARRはLINE WORKSの78.8億円に対してチャットワークは29.7億円と2.6倍以上の大きな差が開いています。
利用単価はそう変わらないので、課金ユーザー数がLINE WORKSの方が多くなっていると予測でき、より人数の多い現場へ注力する戦略が実際の業績として表れているんだなと思います。
▼さらに市場を広げるための追加施策
そして、さらにビジネスチャットのすそ野を広げようとLINE WORKSが行ったのが無償版の導入です。無償版を展開することで、まず日本にビジネスチャットの利便性を広めることを意識しているようです。
この姿勢が表れてるのが無償版の機能。無償版でもユーザー数100人まで追加可能で、特に期限もなく、チャットや通話、掲示板、カレンダー、一定のストレージやセキュリティなど有償版と遜色ない機能が利用できます。
この戦略が功を奏し、ビジネス以外の領域、例えばPTAやマンションの自治会、地元の野球チームなどのコミュニティでの利用が増加しているそう。
凄い流れですね。こうした無償版の利用者はARRには入ってきません。
まだ市場へビジネスチャットを広める段階とのことですが、こうした潜在的な利用層も考慮すると、現在の78.8億というARRはますます成長の余地が見込めそうです。全体のユーザー数は一体どれくらいいるんでしょうか?笑
▼パートナー販売や無償版提供を行うからこそ必要なカスタマーサクセス
パートナー販売メインで直接顧客とやりとりをしなかったり、無償版の開始でより多様な層を取り込んだからこそ、必要になったのが、カスタマーサクセスです。
LINE WORKSでは、個別に対応するのではなく、多様な活用事例コンテンツと、コミュニティ内で質問やTIPSをできる仕組みを整備しています。
さらにLWUG(エルワグ)というユーザーコミュニティを作ってセミナーやワークショップ、交流会を行うことで顧客が自ら分からないことを聞ける環境づくりや関係性の醸成を行っています。
これらの取り組みから得たインサイトをプロダクトに反映しながら、
まだコンテンツ化されてないノウハウは整備して発信するという取り組みができているわけですね。
SaaSの王道戦略ですが、なかなか実行が大変なコンテンツ制作やコミュニティ運営をさらっと整えているあたり凄いです…!!!
今後の予測!
企業の戦略の解説は以上です。
最後に、今後の展開について、ソフトバンクグループ入りするんじゃないかと大胆予想しておきます。
理由は日本でtoBのITサービスで連携しそうな相手が他にいないからです。
(もちろんLINEがZHDと統合したのも意識してですが笑)
ビジネスチャットの事業展開としては、コミュニケーションによって得た
ネットワーク効果を軸に、他のtoBのITサービスとクロスセルを狙うのが
王道戦略だと考えています。
LINE WORKSの場合、親会社のWorks mobile corporationのようにNAVERのクラウドやAI事業と連携するのがまず思い付きますが、今さらそれだけを当てにしてNAVERが日本に進出するとは考えにくいです。となると、どこかを買収するか提携するかとなるのですが……
そうなったときに、日本のIT大手で関係性がありそうなのがソフトバンクしか思いつかないんですよね~。
ちょうど10月からソフトバンクと共同でキャンペーンしたりしてるし、このまま業務提携とかあるかな?という予想でした笑笑
本日の記事は以上です!
LINE WORKSは凄まじい可能性のあるサービスですね…。
ワークスモバイルジャパンのいつかの上場が楽しみです
(IR資料でもっと詳しく読みたい)
長い記事を読んでいただきありがとうございました!!!
以下に参考にしたページを掲示しておくのでご興味のある方は是非どうぞ!