コロナで定着したあのサービスが影響?リブセンスの売上総利益率低下の原因を追う
Twitterに書いたリブセンスの決算分析をこちらにもまとめておきます。
企業の概要と事業内容
リブセンスは、人材領域や不動産領域でインターネットメディアを運営する企業です。主に以下のようなサイトを運営しています。
成果報酬型の求人サイト「マッハバイト」「転職ナビ」
転職クチコミサイト「転職会議」
企業が年収付きの指名を行う競争入札型転職サービス「転職ドラフト」
リアルタイムでマンションの市場価値を査定する不動産サイト「IESHiL」
事業の選択と集中
リブセンスは近年事業の選択と集中と進めており、新卒就活クチコミサイト「就職会議」や成功報酬型の不動産賃貸情報サイト「DOOR賃貸」を売却しています。
そして今週の11/25にも、新たに成功報酬型の転職サイト「転職ナビ」から事業撤退することを発表しています。
決算
それでは決算です。11/12発表の2021年12月期 第3四半期決算を参照。
株式会社リブセンス 2021年12月期 第3四半期決算短信
株式会社リブセンス 2021年12月期 第3四半期決算補足説明資料
四半期ごとでは、売上高、営業利益ともに回復基調
前年同期比で売上高が-4.5%、営業損失も拡大しています。
ただ、この状況について四半期ごとの推移を見ると、売上高は回復基調にあり、営業損失の赤字幅も縮小していることがわかります。
コロナの影響で採用を抑制する企業が多い中でも積極的な採用ニーズを持つ顧客を開拓した結果との事です。
売上総利益率の低下
そんな中、自分が気になったのが売上原価です。売上高は横ばいなのに、売上原価だけが1.6倍と大きく増えているのが気になります。
そこで、実際に2020年12月期の1Qから今期までの7四半期分の売上高と売上総利益率をまとめてみました。それが以下の図です。
コロナが始まってから下がり始めた売上総利益率は、FY2021に入って売上高が回復するにつれて低下が加速しており、QonQでは実に10ポイントも利益率が低下しています。この背景には何があるのでしょうか?
売上原価の内訳がどうなっているかを見てみます。売上の増加に伴って売上原価が増加しているので変動費項目をチェックしたいですね。
現在は売上原価の内訳は公表されていないので、ここは公表されていた2016年当時の決算説明会資料より推測しました。
結果としては「祝い金」が原価項目で比較的大きな割合を占め、売上に応じて変動する項目と分かりました。
この「祝い金」とは、主にリブセンスの運営する求人サイトで実装されているサービスであり、内容としてはリブセンスの求人メディアで採用が決まった求職者に祝い金を提供するというものです。これが提供されているのが転職サイト「転職ナビ」とアルバイト求人サイト「マッハバイト」でした。
マッハバイトの変化がもたらした影響
ではこの祝い金、どれくらいの金額がもらえて、どれくらい利益に影響するのでしょうか?代理店サイトやサービスサイトを基に調べてみました。
「転職ナビ」と「マッハバイト」はともに成果報酬型の求人サイトであり、各サイト経由の採用が決定した時点で、その採用人数に応じた料金がリブセンスに支払われます。こちらも踏まえた料金と祝い金の一覧表が以下です。
「マッハバイト」は1採用あたりの単価の10%以上に達する5,000円以上の祝い金保証をしているので、「転職ナビ」と単純比較した利益率は悪くなっています。転職ナビの方が成長した時の利益幅は大きいんですね。
しかしながら、「転職ナビ」はコロナによる採用抑制の流れを大きく受けており、「転職ナビ」事業の2020年12月期の業績は、売上高6億5千万円に対して営業損失1億8千万円と大幅な赤字になっています。また、本サービスは転職未経験層を主なターゲットとしているため、マーケット全体の需要の回復には時間がかかると思われます。また競合に対する優位性も明確でないということもあり、冒頭で紹介した事業撤退という判断に至っています。
その一方で拡大しているのが「マッハバイト」。売上高に占める同サービスの割合は、2年間で50%から59%へと上昇しています。
なぜこのような採用抑制の流れの中でも成長しているのか?
それはフードデリバリーや製造派遣など今でも採用ニーズが旺盛な顧客の開拓に注力したためです。実際に、この2業種の案件への応募数はQonQで2.4倍になっています。
ただ、このフードデリバリーの応募というのが面白いんですね。
UberやWoltなどデリバリー系の求人は、時給制でスタッフを雇用する出前館以外はギグワーカーなので、期間が1日~短期になっていることが多いです。
単発の求人が多いということは、ニーズに応じて都度、継続的に採用が発生することになります。単発バイトのデリバリー要員の採用に毎回5万円もかけられるとは思えないので、これらの企業は成果報酬でなく、掲載課金での契約だと思われます。
すると、どうなるか。現在の仕様では、単発だろうが長期のバイトであろうが、採用が決まるたびに、最低5,000円の「祝い金」の支払いがリブセンスに発生するモデルになっているので、必然的にこういった採用回数が多い案件を増やすと「祝い金」の費用は拡大します。
一方で、その顧客が掲載課金プランを使用した場合、採用回数が増えたところで売上は増えないので、「祝い金」の分だけ費用が余計にかかることとなり、売上総利益率が低下してしまう。といった現象が起きているのではないかと予測します。
この仮説が当たっている場合、なかなか難しい状況ですね。
次の決算でこの売上総利益率が変化しているかウォッチしたいところです。
※再掲:リブセンスの売上総利益率の低下の図
今後の事業展開
新規事業開発の動向
ここまで既存事業の動向について見てきました。
選択と集中を進めるリブセンスですが、今後の事業展開はどうなっているのでしょうか?
決算資料では、これまで横展開してきたSEOテクノロジー×成功報酬型メディアの事業ではなく、新たなビジネスモデルへと進出する計画を公表。
実際に注力している既存事業「転職ドラフト」と新規事業「batonn」はこれまでのメディアとは異なるモデルのサービスです。
社内組織としてもかなりエンジニア比率が高く、またデータの分析や利活用に関する研究も進んでいる会社ではあるので、その特性を生かした事業開発に期待ですね。
懸念点
懸念点は1点、資金繰りがかなり厳しくなっていることです。
公開された最新のキャッシュフロー計算書を見ると、営業キャッシュフローがマイナス、投資キャッシュフローと財務キャッシュフローがプラスと、定石どおりに読めば「本業での損失を借入れによって賄っているが、新規の投資も十分にできていない」という、かなり厳しい形です。
また、この時点でのキャッシュの残高は約30億円となっています。4半期毎にリブセンスが投じている販管費が約12億円なので、7か月分の資金しか手元に無いという訳ですね。事業が赤字になっている事を考えるとかなり厳しい状況に思えます。
事業開発の方向性としてM&Aも検討している旨を公表していますが、このキャッシュでは厳しいかなという印象です。(ファイナンス次第ではありますが)
さいごに
今回の企業分析は以上となります!
読んでいただきありがとうございました!
以下、参考書籍です。
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