ほのぼのエッセイ第12回 飼い猫の失踪事件について
京都にいたとき猫を飼っていた。小2の頃、兄貴と野球をしに近くの公園に行ったら、段ボールに漫画みたいに捨てられていた。3匹いた。黒猫が2匹とサバ猫が1匹。黒猫2匹は、河内くんという市営住宅に住む、動物をめっちゃ飼ってる鳩とかも団地の中で飼ってる中々奇特なやつが持って帰った。兄貴は、サバ猫を選んだ。僕は横でことの顛末をぼーっと見届けていた。
帰ってから、おかんに猫を拾ったことを電話で報告すると、案の定ブチギレた。団地はペット禁止だの、誰が世話すんねんだの言われた。でも、おかんが仕事から帰ってきて猫を認めた瞬間顔が綻んだのを覚えている。おかんは、当時のことをこう語る。「理想的な猫やった。グレーの毛並みで、目がくりっとしてて。あと尻尾あるやろ、あれが先でくりんと曲がっとるやんか、あの曲がりがたまらんかった」と目を細める。猫は、その天から授けられた見た目のかわいさによりなんとか保健所行きは免れた。猫は、昔おかんが飼っていた猫の名を引き継ぎミーと名付けられた。昭和の猫の名前なぞ、ミーかタマかトラぐらいしかないもので、その人間で言うところのよしおやさちえのような平均的な名前を猫は授かってしまった。
かわいい猫であった。僕は、もうほんとに猫が好きなのですがそれをさっぴいてもかわいかった。多分、すくなくとも近畿圏では1、2を争うかわいさだっただろう。雑種なのに、アメショーみたいな柄だったし、顔も目がデカく、鼻が小さくてもうかわいさしかなかった。しかも、早めに避妊手術をしたせいなのか猫はあまり体が成長せず、成猫になってもどこか子猫の感じを保ったままで、それも余計かわいさに拍車をかけていた…。
という猫バカトークはさておき、ミーに関するエピソードは山ほどあり、これからも書いていきますが、今回は失踪事件について。
1回目は多分、小4の時、ミーはかわいい猫ではあったがそこまで賢い猫ではなかったように思う。狭い団地の部屋が窮屈だったのか、よく学校帰りやおかんの仕事帰りを待ち伏せて、ドアが開くと待ってましたと言わんばかりに外に飛び出していた。競馬のゲートがあいた瞬間みたいに飛び出し、気づいたら廊下の端の方にいてこちらに振り返っていた。で、まあ外にいっても帰ってくれきてくれたらそれでいいのですが、家が3階にあるのを毎回階段を1階ぶん登り忘れて、2階の真下にすんでる奥田さんの家の前で「帰ってきたぞぉ入れてくれよぉ」とニャーニャー鳴くのが常であった。そういったドジっ子ぶりも家族は理解し、ミーをちょっとでも外に出すのはよそうという判断にいたった。(ちなみに隣の丸山さんはミャーという錆猫を飼っていて、外に出しても絶対に帰ってくる猫であった。よく一緒にエレベーターでのぼりおりしたものである。開ボタンを押し、ミャーが先に降りるとき、「ほなまた」という挨拶めいたものを背中に感じた)
しかし、ある日、ん?ミーがおらんぞとなった。家族全員で探し回り、押し入れや棚を全部ひっぺがして探したのだがいない。これは疾走したぞ、となった。すぐ見つかるっしょと僕はたかをくくっていたのだが、一週間帰ってこず、見つからず奥田さんの家にいっても知らないとのこと。僕と兄貴は自転車に乗って、団地中を探し回った。茂みなどをがさがさしたが中々見つからず、あーとなった。なんだか寂しい気持ちが込み上げたのを覚えている。
ミーが2~3週間いなくなった休日、居間でごろごろしてたら、おかんが抱きかかえて帰ってきた。ミーはぽてっという音で、おかんの腕から降り、その場に何事もなかったかのように鎮座した。どうも、隣の棟のおばちゃんがかわいいということで、外にいたミーをもってかえり、世話をしてくれていたらしい。おかんが、必死に団地の連絡網を駆使しそのおばちゃんに行き着いたらしい。僕はミーが帰ってきて、元の生活に戻ったことに安心したことを覚えている。
2回目は、引っ越してからだった。小5の時に引っ越した。団地の1階に引っ越したこともあり、ミーは外に出てもちゃんと帰ってきた。登り忘れも階段がないなら、やりようがない。ミーは引っ越してからとてつもなく躍動するようになった。外に出て、ナワバリのパトロールが日課となった。近隣の猫との喧嘩も増えた。その度、尻尾をたぬきみたいに太くしてビビり散らかしていた。夏に、僕が寝ている枕元に蝉をもってきて、耳元で突然じゃいじゃいクマゼミが鳴き出したのを覚えている。
そんな感じで、ミーが楽しそうでええなー、引っ越してよかったなーと思っていた。が、中2のころ、ふたたび、ミーは1週間くらい家をあけた。僕は、そのころ野球に熱中しており、大捜索に参加できなかった。喧嘩で大怪我とかしたんかな、それだったらやだなと心が痛かった。
すると、ある日、家に電話がかかってきた。若い女の人の声だった。ベランダに猫がいるのですが、おたくのではないでしょうか?というものだった。ミーの首輪には電話番号をつけた札をはっていてそれを見て電話してくれたのであろう。
おかんが帰ってきてからそういう電話があったことを報告し、電話をしてくれた人の家に向かった。最上階の5階の部屋だった。どうやってそこのベランダにたどり着いたのかよくわからなかった。
ベルを押すと、若い女の人が出てきた。「あそこにいるんです」と言って、おかんが部屋に入っていく。キャーッという大声が聞こえてびっくりした。中から、目をらんらんとさせたミーを抱きかかえたおかんが出てきた。女の人は二人いて、ずっとミーをみて叫んでいた。「かわいい!かわいい!」とずっと連呼していた。迷惑をかけたのになんだか、鼻が高かった。
ミーは、家に帰ってからずっと鳴いていた。普段はご飯の時ぐらいしか鳴かないのにずっとニャーニャー言っていた。この1週間の大冒険を、僕らに話しているかのようだった。少し痩せていた。お腹がすいたのか、カリカリを貪り喰っていた。食べている最中も、ニャーニャーいいながらずっと僕らに話かけていた。話しては食い、話しては食いを繰り返し、失敗して食ってる途中に話をしてしまい、えづいていた。
ミーはその後も、元気に外を走り回った。いろんなお話がまだあります!