プラズモニック結晶:プラズマを操り光の限界を超える
プラズマというとオーロラとか雷とかを思い浮かべるかもしれませんが、実はもっと身近なところに潜んでいたりします。
それが以前、紹介したプラズモンというもので、金属表面に光を当てると、小さな電子の集団振動(プラズマ振動)が発生します。
この電子の集団振動であるプラズモンを自由自在に操ることができれば、まだこの世には存在しない光を操る材料を実現できます。
光学という点では、以前紹介したフォトニック結晶と同じですが、プラズマ振動(プラズモン)を制御することから、名前も異なります。
プラズモニクスとは
そもそもプラズモニクスとは何でしょうか?
電子を操るエレクトロニクス、光子を操るフォトニクスと同様に、プラズモンを操る分野をプラズモニクスといいます。
例えば、金属表面に光を照射すると、金属表面に電子の偏りができてプラズモンが生じます。このプラズモンは金属表面を伝搬するため、伝搬型表面プラズモンといいます。
+とーが交互に現れて電子が集団で集まって振動する波になります。
また金属ナノ粒子に光を照射すると、粒子内に電子の集団振動が閉じ込められてプラズモンが局在化されます。これを局在型表面プラズモンといいます。
このように光と金属の関係で生じるプラズモンを制御するのがプラズモニクスです。
プラズモニック結晶とは
プラズモンはあたかも粒子のようにふるまう現象ですが、もともとプラズマ振動(波)なので、互いに干渉を起こします。
電子や光がバンド構造を示すように、プラズモンにもバンドが形成されます。バンドというのは、物質内での電子や光、今回の場合はプラズモンの状態を表す特徴です。
つまり、ある特徴的な構造を作ってやれば、プラズモンの状態を制御することができるということです。
それでは、具体的にはどのようなものを作れば、プラズモニックバンドギャップが現れるのでしょうか?
例えば、金属表面にナノスケールの周期的な凹凸構造を作ると、その周期性に従ってプラズモニック・バンドギャップが生じます。特定のプラズモンはバンドギャップにおいて伝搬・侵入することができなくなります。
プラズモンを制御する工学プラズモニクスは、エレクトロニクスやフォトニクスと同様に周期構造を設計することでバンド構造を制御し、新たな特性を持つ材料にしているわけです。
何に使えるのか
プラズモンとかいうよくわらかないものを操って何に使えるの?と思われるでしょう
プラズモニック結晶は、光を操る現象であるため、フォトニック結晶と混同されていたりしますが、明確に異なる点があります。
可視光の光は波長が数百ナノメートルであるため、もっと小さな領域に閉じ込めたり、移動さえたりするのは至難の業です。ここで、光をプラズモンと結合させることで、数ナノメートル単位で操ることができるようになります。
通常、金属膜にナノスケールの小さな穴をあけても、光はその穴を通ることができません。しかし、この小さな穴を周期的に開けたプラズモニック結晶にしてやると、光は透過するどころか、その強度が強くなるようです。
他にもプラズモニック結晶を使うことで、特定の波長の光を取り出すレーザーを作ることができます。これまで様々な物質を用いてレーザーは作られてきましたが、今までのものとは異なる原理で光を放出するレーザーとなります。
最後に
見返してみると、この記事もかなりマニアックなものなってしまったなと感じます。まあ、たまにはニッチなネタがあってもいいですね。
フォトニクス、プラズモニクスはどちらも結果的に電磁波(光)を扱うことから関係性が強く、最近では光メタマテリアルと呼ばれるさらに発展した分野に進化しているような気がします。
これらの研究がもっと進めば、いずれは透明マントができるのも夢ではなく現実のものになるでしょう。
※ちなみに科学的な表現としては、この記事で書いた表面プラズモンとは主に電磁波と金属表面のプラズマが結合した表面プラズモンポラリトン(SPP)のことです。最近では同じように使われていることも多く、簡単のためにSPPもまとめて表面プラズモンとしました。