ナノスポンジ構造を使った新時代の電池
最近何かと社会問題になっているエネルギー問題ですが、その中でも重要とされるのがバッテリー(充電池)の能力ですね。
あまり電池の研究というのは派手に知られる機会はないと思いますが、科学の世界ではかなり重要なビッグテーマの1つなんです。
今回は、新たな手法でより多くのエネルギーを貯めることができる電池の研究を紹介したいと思います。
現在の電極を塗り替える新たな構造
電池にはナノ構造が大事です、と言ってそうだよね!となる方はほぼないと思います。しかし、電池の研究では、目には見えない原子レベルの構造が大事なんですね。
なぜ、そんな小さな世界が重要なんでしょうか?
それは私たちが普段電気と呼んでいるものは、電池の中の電極というパーツにイオンが捕捉されることで貯まっていきます。このイオンが原子スケールの小さな世界の住人というわけです。
これは電池の原理の1つで、実際には電池の性能としてはもっと考えなければならないことはあるんですが、今回注目するのは、このイオンを捕獲するナノ構造なんです。
現在主流の電極として、層状複水酸化物と呼ばれるものがあります。その名の通り層状になっており、その層の間にイオンが捕獲されていくわけですね。
今回紹介する研究ではこの層状構造をさらに進化させた構造を作り、さらなる電極の高性能化を実現したというところになります。
それではもう少し詳しく見ていきましょう。
ナノの世界に穴だらけの構造を作る
ゼオライトイミダゾレートフレームワーク(ZIF)、何やら呪文のような名前の物質ですが、これが今回のカギになってくるようです。
ZIFとはMOFの一種だそうで、と言ってもMOFと聞いてわかる方はきっと専門家の方だけでしょう。まずはMOFの一例を見てもらった方が早いと思います。
簡単に言ってしまえば、MOFは骨組みはあるが中身がスカスカなジャングルジムみたいな物質です。中に原子や分子、イオンなんかを取り込むことができる年々注目度が高くなっている物質のことです。
そんな不思議な材料を使えば、何やら高性能なものができるかもしれないと思いますが、そう甘くはありません。
研究グループは効率を上げるため、CuS(硫化銅)のナノブロックを用意して、それを種にしました。つまり、ナノサイズの小さなブロックの周りに小さな骨組みが作られるといったイメージです。
これで完成かと思いきや、さらに硝酸ニッケルを用いたエッチングを行うことで、できた材料を一部溶かして穴だらけの材料を作り上げました。この一連のプロセスにて作られた電極は十分な接触面積を作りだし、電解質との間でイオン移動を促進し、電気伝導性と構造安定性を両方備えた優れものを作ることが期待されます。
かなりプロセスが複雑にも思えますが、どうやらこれでもかなり簡単なようですね。
そして、研究グループは最初に入れるCuSナノブロックの量に応じて、電極としての特性が変化することを突き止めました。
効率はいかに
それではようやく新しく作製した電極の効率に関して紹介していきましょう。
この研究では、CuSナノブロックを全く入れないものと、10mg, 20mg, 30mg入れたものでそれぞれ電極を作製しました。
結論から言ってしまうと、どうやらナノブロックを10mg入れた場合が最もよかったようです。特にどれだけ電気を蓄えられるかの指標となる比容量が高く、また最も電解質イオンの移動や電気化学反応に対して抵抗が小さかったようです。
つまり、ナノブロックが多すぎてもダメで、10mgがちょうど良いということになりますね。
ちなみに、電池にはもう一つ、重要な特性があります。それはサイクル特性です。充電池は繰り返し使いますよね。最初の1回だけ性能が良くても意味がありません。
この研究では5000回のサイクル後の評価を行いました。その結果、ナノブロックを入れていない電極は61%の効率になってしまったものの、ナノブロックを入れたものは80%以上の効率を示しました。なお、この場合はナノブロック30mg入れたものの方が若干サイクル後の効率が良かったようです。
最後に
今回は新しい電池の電極への応用が期待される材料について紹介しました。
少々難しい内容だったかもしれませんが、このような努力があって今の科学が成り立っていると思うと1人1人の研究者を尊敬しますね。
参考文献
Facile and Controllable Synthesis of CuS@Ni-Co Layered Double Hydroxide Nanocages for Hybrid Supercapacitors