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ヤモリの手が未来の石油掘削のカギを握る
再生エネルギーが注目を集める中、そもそもエネルギーが足りないということで石油やガスの掘削技術もまた進歩を見せているようです。
そして今回紹介する論文ではまさかのヤモリの手を参考に掘削技術の効率化を目指しています。
そういうと、ヤモリの手で穴を掘るのかな?と思われるかと思いますが、正確にはそうではないようです。それではいったいヤモリの手をどんな風に参考にして掘削技術を効率化するのでしょうか。
ヤモリの手の吸着能力
自然を真似したモノづくりという観点ではヤモリの手の吸着力はとても有名ですね。
ご存じない方もいると思うので、簡単に紹介しておくとヤモリの手には非常に小さな毛のようなものが無数に生えており、それが分子間力(ファンデルワールス力)という物理的な力を持つことで、高い吸着力を示します。
そのため、ベタベタした粘着質ではないものの、分子間力によって壁や天井に張り付いて動き回ることができるんです。
今回、研究グループが真似をしたのもこの有名な分子間力を使った方法です。
そもそも吸着する必要あるっけ? と思った方、鋭いですね!
掘削、つまりは穴を掘る技術のどこに吸着力が必要なんでしょうか?
亀裂の閉塞を防ぐプロパントの役割
実は掘削において大きな課題として、掘って作った亀裂は勝手に閉じてしまうということがあるそうです。一生懸命穴を掘っても地盤の力によって広げた亀裂や穴が元通りに閉じてしまっては元も子もありません。
そこで重要になってくるのがプロパントと呼ばれる添加剤です。一般的には穴を掘りながら砂などをジェルに混ぜて送り込むそうです。
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この砂などの添加剤をプロパントといい、小さな粒上のプロパントが亀裂にくっつくことで穴が閉じるのを防ぐ役割があるそうです。
正直どんな原理なのか不思議ですが、ここではそんなもんなんだということしておきましょう。要は、プロパントと呼ばれる砂粒のようなものは亀裂の先端にしっかりとたどり着きくっつくことが必要とされるのです。
しかしながら、亀裂はとても複雑なネットワークを作っており、そう簡単には亀裂に先端部にたどり着かないしくっつくのも容易ではないようです。
そこで研究者が目を付けたのは、ヤモリの手の吸着能力だったわけです。
つまり、プロパントの表面に地盤の亀裂と相性の良い分子間力を発現するように改良を加えて、亀裂の先端まで届ければより効率的に掘削ができるようになるだろうという算段です。
ヤモリの手を模倣したプロパント
ここまでヤモリの手といってきましたが、実は単なる分子間力のお話なんです。論文では少々キャッチーな言葉を使っていたというだけですね。
とはいえ、この材料の研究はなかなか興味深いところがあります。
それでは、新たに開発されたプロパントをもう少し詳しく見てきましょう。
今回開発されたプロパント(ようは小さな粒)は酸化鉄ナノ粒子を原料にその周りをフェノール樹脂が覆った材料でした。このように書くとわけのわからない単語が羅列しているように感じられるかもしれませんが、理解はそれほど難しくありません。
まず、わかりやすいフェノール樹脂からですが、フェノール樹脂の役割はヤモリの手です。つまり、分子間力による吸着力を岩石中の酸素原子と作りやすいというのが特徴になります。
次に、酸化鉄ナノ粒子ですが、こちらは磁石に応答する性質があります。そのため、岩石中の磁性元素との間に引力が働き、やはりこれも別の理由で吸着力につながります。
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このように見るとかなり吸着力に特化したプロパントだなと感じるでしょう。しかし、アピールポイントはそれだけではありません。
このフェノール樹脂によるコーティングは疎水性(水をはじく)であるため、水との摩擦が小さくジェルや液体の中で素早く動くことができるようです。プロパントには良く流れていく性質も重要であるため、この液中で素早く動けるというのは大きなメリットになります。
さらに、コーティングしないプロパントはざらざらした表面を持つ一方で、コーティングしたプロパントはツルツルしており、水流が引き起こす渦の悪影響を抑制する効果もあるようです。
このような副次的な効果も含めて、今回開発した新しいプロパントは素晴らし能力を秘めていることがわかります。
私は掘削分野には疎いので、総合的に見てどのぐらい良い材料なのかはわかりませんが、一つの可能性となったら面白いですね。
最後に
今回は、ヤモリの手の吸着力を参考に掘削に使われるプロパント研究について紹介しました。
私自身初めて見る分野の論文でしたが、こんなところにもナノ材料が使われているというのは興味深いですね。
参考文献
Biomimicry Surface-Coated Proppant with Self-Suspending and Targeted Adsorption Ability