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Eight Roads Special Seminar    -株式会社LIXIL 取締役 代表執行役社長 兼 CEO 瀬戸欣哉氏

Eight Roadsがスタートアップの経営者を招いて定期開催しているスピーカーセッション。1月に開催した今回は、株式会社LIXIL CEOの瀬戸欣哉氏をお招きして企業経営における悩みを率直にぶつけるスペシャルQ&Aセッションが繰り広げられた。

瀬戸氏は大学卒業後、大手商社で精力的にビジネスに邁進。しかしアジア通貨危機の際、担当事業がストップしたことを機に、インターネットビジネスに進出することを考えた。

それがインターネットで関節資材の調達を変革するMonotaRO(モノタロウ)だ。インターネットの急速な普及の波に乗り、ビジネスは順調に拡大。2006年に東証マザーズへ上場、2009年には東証一部上場を果たした。

その後2016年にLIXILグループの代表に就任し、株主総会でのプロキシーファイト(株主提案を拒否する経営陣との議決権争い)を経て2019年6月CEOに返り咲いた瀬戸氏。

瀬戸氏に、ビジネスの最前線で日々勝負する若手実業家がリアルな悩みを聞いた。

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■瀬戸欣哉氏 プロフィール

株式会社LIXIL 取締役 代表執行役社長 兼 CEO瀬戸欣哉氏

1960年生まれ。83年住友商事入社、2000年に工具のネット通販MonotaRO(モノタロウ、当時は住商グレンジャー)創業後、06年マザーズ、09年東証1部上場。 16年LIXILグループ社長兼CEO、18年10月末に一旦CEO職を離れるも、19年6月に株主の支持を得て現職に復帰。 東京大学経済学部卒業、米ダートマス大学MBA修了。

■会社とは多様性のあるメンバーと共に働く場である

Q大手商社とスタートアップによる起業は、何が違いましたか?
A
会社とは、多様性のある方々と共に働く場であるということ。

僕がモノタロウを創業した2000年頃、設立仕立てのベンチャー企業で働きたいという人はなかなかいませんでした。それで、人材採用には非常に苦戦したんです。

商社時代に一緒に働いたのは一流大学や大学院卒のメンバーでしたが、モノタロウに入ってくれるのは様々なバックグラウンドのメンバーでした。

だけど彼らと働く経験を通じて、謙虚になりました。会社で一番大変なことって、自分の考えを人に伝えて動いてもらうこと。商社のときは、同僚の理解力の高さや地頭の良さに甘えていたから、ことばを尽くさずいろんなことを平気で要求していた。でも、考え方が大きく変わりました。

自分の言いたいことを伝えるにはどうすればいいか、心を砕くようになりましたね。

Q.多様性のあるメンバーをマネジメントするコツは
A.仕事をとことん分解して、シンプルにすること。

どんな複雑な仕事も分解すれば単純なタスクに落とし込めます。仕事を分解できればその仕事はマニュアル化できるし、マニュアル化すればアルバイトの人もできる単純なタスクになる。

そのレベルまで単純化できたら、その仕事はシステムの力で自動化できるはずです。つまりほとんどの仕事は自動化できるはずなんです。

普通、経営者って自分の知らないことや苦手なことは全部アウトソースしちゃうと思うのですが、僕は逆でした。よく知らない仕事があったら、理解できるまでまず自分たちでやったんですね。物流もコールセンターも自分たちで作ったし、オープンソースで一からシステムをコーディングしたり、パソコンからサーバーから自分たちで全部組み立てたり(笑)。

基本的に、すべてのビジネスは自分の手の中に選択肢を持つことによって、相手に対する競争力を持つことができる。つまり、仕事の内容を全て理解しているから、アウトソースしてもいいし、しなくてもいい。こちらに選択権を持てるんですね。

だから誰でもできるレベルまで仕事をシンプルにしておくことが重要だと思います。

■ビジネスをスケールさせるシンプルな法則

Q.モノタロウのように上場後も10年、15年と継続的に成長するためには、何をすればいいですか?
A.すべての人に敬意を持って働くこと。実験して、失敗から学ぶこと。

モノタロウのとき社員に言っていたのは、たった2つの原則でした。

1つは、すべての人に敬意を持って働くこと。つまり、Work with Respect。これはかなり強制力の強いこととして伝えていました。一緒に働いているすべての人に対して敬意を払えないなら、やめてもらってもいい。それくらい強い意志を持って掲げていた行動指針でした。

敬意を払うためには、目の前の人のことを深く知らなければ難しいですよね。だから互いのことを知るための努力を強いられます。入社して最初の数カ月間、みんないろんな部署を経験します。全員がカスタマーサポートの仕事をするし、物流の仕事をするし、ITの仕事も経験して、誰がどんな仕事をしているのか理解してもらいます。

2つ目は、すべては実験からはじめようということ。議論する前に、まずは実験して試す。失敗はそこから学ぶものがある限り投資だ、という方針でした。

何かビジネスを考える時、1 週間で9割正解な企画を考えられる人と、1日で6割正解の案を出せる人がいたら、後者に仕事を任せるということです。

これって、3日続けて失敗する確率は6.4%なので、たった3日でその人が失敗する確率は1割以下まで下がって、正解にたどり着くんですよ。議論して考えることにばかりフォーカスして決断を遅らせるより、小さなことからでいいからどんどんやって、その結果から学んで次に生かしましょう、そういうことをずっとやってきました。

ただ、LIXILに入ってからはこれに”Do the right thing”を加えました。これはモノタロウのようなベンチャーでは当たり前のことですが、大企業では前例や他社の例があれば考えずにやってしまうところがあったので、大前提として自分の頭で責任を持って考えることを加えました。組織が大きくなると、こうしたことも重要になってきます。

Q.成長を続けるために掲げていたKPIは?
A新規顧客獲得とリピート率。この2つだけです。

EC事業は、獲得した新規顧客がリピートしてくれなかったらビジネスが成立しません。リピートしなければビジネスを維持することはできないですし、ビジネスを成長させるためには新規顧客が必要です。

どんな複雑な指標よりも、シンプルに新規顧客とリピート率だけでOK。そこにフォーカスして目標を立て、マネジメントしていました。

ちなみにLIXILに来てからは、成長の前準備としてまずバランスシートを改善して差別化できるようにする必要があったため、また違う指標を掲げています。ただ、これも成長の段階になればシンプルな指標にすることが可能です。

Q.不確実性の高いコロナ禍で、どのように予実管理をすればいいですか?
A.これに正解はありません(苦笑)。キャッシュがなくらなければ大丈夫です。

モノタロウの場合、徹底した売り上げのデータ管理・分析・予測に取り組んできたので、今では1日の売り上げも0.数%しか狂いません。でも、創業して5年くらいは、業績予測がまったくできず外しまくっていました。だから株価が10日連続ストップ安になることもざらでした(笑)。

この質問に対するクリティカルな答えは、僕にはありません。ただ、何を言われようとも堂々と振る舞って、会社のバリューをつくることにフォーカスした方がいいと思います。とにかく会社を存続させること。会社を死なせないようにこらえる。キャッシュさえあれば、なんとかなるので。

予実を正確にすることは当面の投資家にとって重要ですが、会社にとってより重要なのはバリューをつくることであり、そこに最大の時間を割くべきです。予実に捉われすぎると会社が”化ける“ことは難しくなります。”

Q.経営チームづくりのポイントは?
A.一緒に仕事をして楽しい人を入れること。

僕は基本的に、人を見る目がないんですよ、だからよく間違えます(笑)。

ただ、起業家として大事にしていたのは、一緒に仕事をしていて楽しいか、気持ちよく働けるかということ。これまで、優秀だけど気持ちよく働けない人にたくさん出会ってきました。ストレスの高い起業をする以上、信頼できる人と働くことは優先すべきことのように思えます。

■新規プレイヤーがレガシーな産業で勝負するには

Q.レガシーな産業に営業を仕掛ける上で大切なことは?
A.既存プレイヤーに相手にされていないところへいくこと。

モノタロウをはじめたとき、商品を調達したくても誰にも振り向いてもらえず、まったく商品を売ってもらえませんでした。仕入先に連絡したら「あんた、誰?」と言われて、仕方なく街の文具屋で調達したこともありました。

でも今振り返って、何故うまくいかなかったか考えると、最初から大きい顧客を開拓しようとしたからだと思います。その後、ある時点から発想を変えて、そもそも工具商や金物卸業の方々がなかなか営業に行かない鉄工所や中小企業に営業しようと、シフトチェンジすることにしました。

実はデジタルに対する理解のない業界の方が、チャンスは大きい。競合がデジタルを扱わない業界でデジタル化を進めれば、弓矢が中心の世界に鉄砲を持ち込むような効果がある。

一方でGoogleやAppleがプレイヤーであるミサイルの飛び交う世界では、普通のベンチャーが持ち込む鉄砲では勝ち目がありません。特にデジタルがないと効率的にビジネスがなされない顧客が存在し、その顧客が無視されているフィールドがあるならば、そこが狙い目と当時考えました。もちろんこれは20年前の話なので今には当てはまらないと思う方もいるかもしれません。しかし旧来のプレーヤーが高いシェアを長く保っている世界には、まだ大きな商機があると思っています。

Q.レガシーな業界で理解を得るにはどうすればいいですか?
A.説得は不可能です。違う業界、違う国に目を向けましょう。

モノタロウをはじめたとき、既存の工具業界はまったく商品を卸してくれませんでした。彼らにとって、僕たちのような新しいプレイヤーは、これまでの居心地のいい業界を壊す存在なので。

だから、他の業界や他の国で流通している商品をなんとかして持ち込もうと努力しました。

参入できそうなジャンルをとことん調べ尽くすことだと思います。

■成功し続ける経営者が実は大切にしている考え方

Q.何をする時間を一番大切にしていますか?
A.誰にも会わず、ネットも遮断してひとりで考えること。週1日そういう日を設けています。

ひとりで振り返って咀嚼する時間を使って、次はどうすればいいのか考えることって、とても大切なんですよ。

ビル・ゲイツも1年の中で2週間くらい何もせず大量の本を持って山奥に籠もるんだそうです。最初の1週間は書籍を片っ端から読んで、残りのもう1週間は何もせず考えまくる。

アイデアをつくるときって、最初勢いよくザーッと情報を集めてそのことについて考えて覚えて、それで一日寝かせることなんだそうです。僕もそれをよく実戦しています。

やってくるオーダーやタスクを千本ノックのように打ち返していると、社長としての役割を果たしているような気にはなれますが、クリエイティブなものは生まれません。週に1回、限られたリソースを何に割くかを考える時間を取るべきです。

Q.業績の良いとき、悪いとき、どうすればいいですか?
A.悪いことの裏には、いいことがある。考え抜きましょう。

いいときも悪いときもやることはいっぱいあるんですよね。意外と悪いときの方がアドレナリンが湧いてきて「この状況をどうビジネスに生かすか」って必死に考えると思うんですよ。

僕はコロナ禍の状況を“blessing in disguise(隠された祝福)”だと思っているんですね。これまで営業に「Zoomで商談すれば、1日10件以上商談ができるじゃない」って言っていたんです。だけどみんな「いや、やっぱり直接会わないと……」ってとりあってもらえなかった(笑)。

ところがいざ、コロナ禍でZoomを使うようになってみると「便利ですねぇ!」って変わっていった。それで全国58拠点を17に減らし、東京は22拠点を1拠点に減らした。オンラインショールームも整えた。

何か悪いことがあったら、必ず逆の部分がある。それは果たして何なのか。とにかく考え抜くことですね。


■Eight Roads Ventures Japan

Eight Roads Venturesは大手資産運用会社のフィデリティの資金を基に投資を行うベンチャーキャピタルファンドです。ヘルスケア領域を含む革新的技術や高い成長が見込まれる企業へ、米国、欧州、アジア、イスラエルとグローバルに投資活動を行っています。業界に対する知見とグローバルなネットワークを最大限に活用し、投資先に対してハンズオンで経営を支援し続けています。
URL: https://eightroads.com/en/
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