『Outer Wilds』をクリアした話、あるいは私の軟弱さと、それを乗り越えるサポートへの思索について
ゲーム内情報のネタバレを(ほぼ)含まない形で書く。
先日、遂に『Outer Wilds』をクリアして、エンディングを見た。多くの人が言葉を尽くしてきた通り、「好奇心駆動」と言われるストーリーテリングの鮮やかさは見事で、傑作と言われるのもよくわかる。
見慣れない風景、種族、品々。様々な特徴を持つ複数の惑星は、多くの驚きをもたらしてくれた。遥かな過去、古代種族Nomaiに何が起きたのか、今、この宇宙に何が起きているのか?
残された時間は常に有限で、しかし、やり直しを重ねることで星系の隅々を見ていくことができる。必要なすべてに辿り着ける程度には狭い宇宙と、詳しく見て回るにはとても広大な星々。
一方、「遂に」という表現は誇張でもなんでもなく、実際のところ、私はかつて本作のプレイを完全に諦めたことがある。以来、1年以上放置し、目を逸らし、ネタバレを含む記事も遠ざけ続けた。しかし最近になって頻繁にクリア報告を見かけるようになり、もう逃げられんぞとようやく重い腰をあげ、あらためて初期状態からプレイを開始し、家人の補助を大いに受けながらどうにかこうにかクリアに漕ぎつけた。
間違いなく面白い作品だったと今でも断言できるのに、私の軟弱さや甘えのようなものが足取りを重くする瞬間も確かにあったのだ。
本作の内容の素晴らしさについては多くの先人がいてくださることだし、本エントリでは「私のどんな弱さが本作を困難にしたか」という成分に着目したいと思う。
一個人のプライベートな反省の話であれば文字にする意味もあるだろうし、あるいはひょっとすると、本作に挑む人にとっての手がかりにも、なるかもしれない。
1. 粘る、粘らないの判断を誤りやすかった
『Outer Wilds』のプレイは、今まで得た情報を頼りに、自発的に行動することで新たな情報を得る、という流れで構築される。
例えば新たな地点の名前が判明する。判明したので、行ってみたくなる。船を飛ばし、星に降り立ち、手がかりから場所を割り出し、近寄って、はてさて、うまく辿り着けなかったとする。
辿り着けない理由は様々だが、本作には「重要なアイテムを取得する」という仕組みがそもそもないので、原理的には行けないはずはない。あくまで原理的には。
そして、辿り着けない原因は概ね3つに大別される。
辿り着くために必要な知識を得ていない。
単にタイミングが悪い。早すぎる、あるいは遅すぎる。
到達できる経路を発見していない。
進行状況によってもこれらの比率は変動するが、中盤を越えてきたあたりからだったか、私はこの区別を精確につけられなくなってしまい、見当はずれの徒労を積み重ねる流れに入ってしまった。
『Outer Wilds』における1周22分のループは、くまなく探索をするには少しばかり短く、漫然と待つにはずいぶんと長い。
自分なりに最速で(あるいは適切なタイミングで)たどり着いたつもりで間に合わなかったとき、まったく同じ挑戦をくり返す意味はあるだろうか? それが正しい挑戦であるかどうかも不明なのに。20分近くを無駄にする可能性はずいぶん重たく見えてしまう。
それでも、愚直に同じ行動をくり返せるうちはまだマシで、真に危ういのは「ああ、タイミングどうこうではなかったか、別の経路を探そう」と判断してしまう瞬間だ。なにせ、本当に諦めるべきなのか確証を得る手段はほぼないのだ。結果、本来なら順当なルートを勝手に捨て、存在しない道筋を探す試みに突入しそうになった場面はずいぶん多かった。
結局のところ、この点の解決に最も効果的だったのは、既にクリア済みの家人に「いま○○という考えのもとにこういう挑戦をしようとしてるんだけど、的を外してないか?」と"簡易答え合わせ"を頼むことだった。
幸い、家人は人のプレイを眺める際にあれこれ口を出さずにいることができる気質の持ち主だったので、こちらが求めた時にだけ注意深く、最小限の情報で、確かな方向性を示してくれた。
2. まったく同じ行動をやり直すことに退屈さを感じる
本作のプレイには時間制限がつきまとっているため、特定のスポットの探索を微妙にやり残した際の無駄が大きくなりやすい。
本作には文章を読んでいる際に時間の進みを停めるオプション項目があり、多くのプレイヤーが「NEW GAMEを始めたらすぐにでもONにしよう!」と推奨するほど重要度が高い。……が、これはあくまで文章にたどり着けた時にゆっくり読める、というだけで、たどり着くための時間を稼いでくれる項目ではないのだ。
例えば、へき地の奥深くにたどり着いた時、時間制限が間近に迫ったためにあと1~2個の情報を取りそびれてしまった……などのケースを救ってはくれない。取りそびれた情報の重要度は判別しようがないから、どうしたって同じスポットに再び訪れなくてはならない。このやり直しのまだるっこしさ!
進捗が進んでくると、そのスポットにたどり着くためにアクションや操作精度が求められるようになり、結果、失敗も起きやすい。そのくせ、時間切れを起こした経験がある以上、道中はもっと急ぎたいのだ。
まったく同じ道筋を、より精度を高めて走り抜ける……たった1~2か所の取りこぼしのために? 気分転換にほかのスポットを回ってもよいが、細かい操作テクや道筋をうっかり忘れてしまったら、それもロスの一因だ。いちばん良いのは、すぐにでもやり直すこと。
そうとわかってはいるのに、都合10分を超えるほどのやり直しはどうにも気が重かった。中盤以降の本作は案外とアクションゲームをやらせるので、「別にアクションを遊びたいわけではないんだけど……」とぶつくさ言いながら取り組んだ。
決定的な解決は……正直、ない。道中をもたもたしない程度だろうか。あるいは、鼻歌でも歌いながら宇宙を駆けることだ。『Outer Wilds』は音にも意味があるゲームだが、同じ道中を駆け抜けるだけならば、耳の浮気ぐらいはOKだろう。
3. 視野が狭かった~自分に合わせた探索方法が必要
この点は特に私個人の特性なので、まったく問題にならない人も多いはず、と前置きしつつ。
3D空間をカメラで見回す際に、かなり大きな見落としをしやすかった。気になるものを見つけると視点がそこに吸い寄せられ、それ以外を無意識に無視する……という認識のしかたは誰しもあると思うが、カメラを寄せたせいで、本来見るべき情報がフレーム外に出てしまい、そこに気づくのに時間がかかり、そして時間切れ→ループへ……ということさえあった。やり直しは……キライなのに……!
私の認知特性の残念さはさておくとしても、自分の得意・不得意を踏まえ、カメラ操作や探索の作法自体を洗練させておくことには間違いなく意味がある。方向音痴だとか、探索時に上方向を見落としやすいとかが摑めているのなら、その対応をプレイに組み込んでしまったほうがいい。
本作には何か所か、特定のルートを延々と進まなければたどり着けない個所があるため、カメラ操作も含めてしっかり決め込むなども有効に働くだろう。
総括:サポートなしなら挫けていた
ここまで挙げてきた要素は、概ね「操作」にまつわることだ。宇宙に満ちた謎をNomaiのメモを頼りに読み解く営みにはほぼ困難は感じず、私の足を萎えさせたのはいつも探索とアクションだった。
謎の解明を求めるとき、そこには”確信”と”検証”が対になる。ひらめきが、推理が”確信”をもたらし、実際に行動して”検証”する、という、そのペアにこそ喜びが宿っている。偶然は美しさをあまり感じないし、力技は面白く感じても、すべてそう突破したいとは思えない。
だからこそ、謎を解明するモードに突入している時は、誤っているルートは明確に否定されたいし、できれば正解のルートには”確信”を与えてほしい。”確信”さえあれば、困難な”検証”にもいくらでも取り組めるから。
結局のところ、私は他者を頼ることで”否定”と”確信”の成分を外部から補填したわけだ。突き詰めれば"黄色のペンキ"を外から足したと言えるかもしれないし、最小規模の攻略情報をオーダーメイドで得たとも言えるかもしれない。
完全自力攻略の達成感を求める気持ちはあれど、自力にこだわって進捗が止まり、謎の真相を知らずにいるよりは……!と思わせる作品だったことも大きい。
というわけで、『Outer Wilds』のプレイに挫けそうな人がいるなら、私はプレイ済みの人に最小のサポートを頼むといいよ、と勧めるだろう。攻略情報がWebに構築される時代だからこそ、カスタムな攻略ナビの価値もまた生まれていると思うので。