童話「新解釈・桃太郎」
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
ある日、おじいさんは山へしばかりに、おばあさんは川へせんたくにいきました。
おばあさんが川でせんたくしていると、川上から、大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきました。おばあさんはおおよろこびでその桃を拾うと、家に持ってかえっておじいさんに見せました。
しかし、おじいさんはむずかしい顔をしていいました。
「こんな大きな桃、見たことないしうす気味悪いわい。どくでも入っていたらどうするんじゃ?こわいから、これは食べずにこやしにしてしまおう。」
そうして、おじいさんとおばあさんは畑にももをはこび、ももを畑のそばにおきました。
しばらくして、桃の実がくさりおちると、中から赤んぼうの泣き声がしました。おじいさんとおばあさんが黒いももの実をかき分けてみると、中から元気な男の子が出てきました。
おじいさんとおばあさんは、男の子に「ももたろう」と名づけて、たいせつにそだてました。
そのころ、海にうかぶ鬼ヶ島では、大鬼のおそろしい声がひびきわたっていました。
「おい!あの村から食べものはうばってきたのか?」
手下の小鬼がうなだれて言います。
「いいえ、少ししかうばえませんでした...」
大鬼はあおすじをたてておこります。
「ばかもの!おまえがちゃんとうばってこないと、おまえたちの食べるものまで無くなるんだぞ!米つぶひとつ残さず取ってこい!いいか、生きていくためには食べものがないといけていけないんだ。そしてもっともかんたんに食べものを手に入れるのは、人からうばうことだ。食べものを作る手間も、とる手間もないんだからな。うばってみんなで分ければ、みんな食べられるだろう?わかるか?」
鬼は大きなからだをうごかして、大声でどなりました。小鬼は、あいかわらずうなだれたまま小声で答えました。
「大変申し訳御座いません。厳しく改善指導致します。」
大鬼ひきいる鬼たちは、ももたろうのいる村へ毎日やってきて、食べものを根こそぎすべて持っていきました。村人はたいそう困りはててしまいました。
「またあいつらが、全部たべものを持っていっただ...」
「ちくしょう!なにが食糧備蓄点検だ!」
村人は口々に悔しそうな声をあげます。
「ようし、そしたらぼくが鬼を退治してやる!」
そういさましい声を上げたのは、あのももたろうです。
おじいさんとおばあさんにたいせつにそだてられたももたろうは、りっぱで心やさしい男の子に成長していました。
「でも、だいじようぶなのかい?」
おばあさんがしんぱいそうな声でももたろうに聞きます。
「だいじょうぶ!ぜったい鬼をたいじするってやくそくするよ!」
ももたろうは力強くうなづきました。
ももたろうは、はちまきをしめ、はたをもって鬼たいじに出かけようとしていました。
「このきび団子をもっていっておくれ。」
おばあさんは、ふくろに入れたきび団子をももたろうにわたしました。ももたろうはそれをこしにつけて出発しました。
ももたろうが歩いていると、目の前にイモムシがボトっと落ちてきて言いました。
「おい!そのこしのやつはきび団子かい?おいらにおくれよ!おなかがすいてるんだ!」
しかしももたろうは言いました。
「ぼくはこれからおにたいじに行くんだ。悪いけど、おにたいじに役に立たないきみに、きび団子はあげられない。ごめんよ。」
すると、イモムシは体を飛びはねさせていいました。
「ぜったい役に立つ!ぜったいだ!やくそくするよ!だからおいらをなかまに入れてきび団子をおくれよ!」
イモムシはびょんびょんと体をうごかしておねがいします。
ももたろうはなやみましたが、イモムシがあまりにもつれていってくれというので、しかたなくなかまに入れてあげることにしました。
イモムシは1つじゃ足りないといってきび団子を3つも平らげると、だんごの袋にくっついてももたろうについていきました。
新しい仲間がふえたところで、ももたろうたちのぼうけんは続きます。
しばらくあるいていると、しげみから大きなクマが出てきました。ももたろうたちは、びっくりしてあとずさります。
クマはひくい声でうなりながら、ももたろうにききました。
「おまえ、そのこしにつけているものはなんだ?」
ももたろうはすこしふるえた声でいいました。
「これはきび団子だ。ぼくたちは、これから鬼たいじにいくんだ。」
そのことばを聞くと、クマはうなるのをやめ、にっこりとした顔でいいました。
「おお、そうかい!じつはおれも、食べものを鬼のやつらにうばわれてはらぺこだったんだ。その団子を分けてくれたら、仲間になってやるぜ。」
ももたろうはイモムシにききました。
「ああ言ってるけど、なかまに入れてもいいかな?」
イモムシはねむそうな声であくびをしながらこたえました。
「どうでもいいよ。それよりおいらは眠たいんだ。なかまにしたかったらなかまにしな。」
ももたろうは、イモムシをなかまにしたことを少しこうかいしながら、クマにきび団子をあげました。
こうして、クマがなかまに入りました。
ももたろうたちは、それから鬼ヶ島の方角へ、森をずっとあるいていましたが、鬼ヶ島への地図をもっていなかったので、道にまよってしまいました。
ももたろうたちがよわってすわっていると、そこにイヌがあらわれました。
「失礼、そちらにおられるは、ももたろうさんではありませぬか?」
イヌはももたろうに話しかけてきました。
「そのとおりだ。ぼくたちはいまから、鬼ヶ島へ鬼たいじに行くんだ。」
するとイヌは、ももたろうにちかよっていいました。
「鬼ヶ島への道にまよっておられるようですね。私は鼻がききますので、どうかそのこしの団子とひきかえに、あんないさせてはいただけぬでしょうか。」
ももたろうとクマは二つ返事でイヌをうけいれました。イモムシはすっかりねてしまったようで、返事はありませんでした。
イヌははなをくんくんときかせながら、道を進んでいきます。ももたろうたちは、道に迷わずにすんだことにホッとしていました。
イヌについていくと、ひらけた場所につきました。そこは森がおわり、一面の海が広がっていました。イヌはそこで止まり、よわったように言いました。
「においはここでとだえております...これ以上は方向がわかりません...」
海はみわたすかぎりの大海原で、島かげの一つも見えず、どこに鬼ヶ島があるのかさっぱり分かりません。ももたろうは、またもやその場に座りこんでしまいしました。
「どうしたら良いんだろう...やっぱりちゃんと場所がわからないと、行かない方がいいのかな....」
ももたろうは消え入りそうな声でいいます。イヌは申し訳なさそうにちょこんと座り、クマも途方にくれたようにとおくを見てぼうっとしています。
すると、どこからか声が聞こえて来ました。
「またせたな、もものだんなよ。」
声のする方を見ると、いつの間にかさなぎになっていたイモムシが、大きいチョウになってももたろうの前にあらわれました。
「サナギになるにはたくさん食わにゃいかねえからな。きび団子をいっぱい食わせてくれてありがとよ。」
チョウはももたろうに言うと空に飛び立ちながら言いました。
「おれが鬼ヶ島のばしょを空から見つけてきてやる!ちょっとまってろ!」
あっけに取られているももたろうたちの上を空高くとんでいきました。
しばらくすると、チョウが戻ってきていいました。
「あっちの方角だ!ちょうど下に船もあったからかりていこう!」
ももたろうたちは、チョウがみつけた船にのり、鬼ヶ島へ向かいました。
船をしばらくこいでいると、うす暗い雲におおわれた鬼ヶ島が見えてきました。
ももたろうたちは島にじょうりくすると、そこには大きなお城があり、かたくて重そうな門がきっちりと閉ざされていました。
「下がっていろ。おれがあけてやる。」
クマは、その大きな身体でいきおいをつけて門にぶつかりました。すると、その門はクマがぶつかった勢いでこわれ、中に入れるようになりました。
ももたろうを先頭にみなが入っていくと、それに気づいた小鬼たちがさけびます。
「おい!くせものだあ!とらえろ!」
おおぜいの小鬼たちが、ももたろうたちにおそいかかって来ました。
「みんなやっつけろ!」
ももたろうの合図で、鬼たいじの仲間たちはいっせいにたたかいます。イヌは小鬼に飛びかかって、足にガブリとかみつき、クマはおたけびを上げて、小鬼たちを次から次に投げていきます。ももたろうも負けじと持ってきた刀で小鬼をどんどん倒していきました。
「もものだんな!あっちに大将がいるみたいだぜ!」
空から城をていさつしていたチョウが、ももたろうに知らせます。それを聞いたももたろうたちは、小鬼たちをやっつけて大鬼のいるほうへむかいました。
「ようやく来たかももたろう!おれがぜんいんまとめてたおしてやる!」
ももたろうたちと対面した大鬼は、いじわるな声をあげていいました。
「鬼め!かくごしろ!」
イヌがうなりながら走っていって、大鬼の足にかぶりつきました。でも、大鬼はびくともしません。
「ワハハハ!いたくもかゆくもないぞ!」
大鬼はイヌを引きはがして、投げとばしました。
「ちくしょう!おれがやってやる!」
クマは、またおたけびを上げながら大鬼にとっしんしました。しかし、大鬼はびくともしません。
「おら!そんなもんか!」
大鬼は、とっしんしてきたクマもいともかんたんに投げとばしてしまいました。
いちばんつよかったクマもやられてしまったことに、ももたろうはすこしあせっていました。
「あとはおまえ、ももたろうだけだ!かくごしろ!」
大鬼がかなぼうをにぎりしめ、ももたろうにむかってこようとしたそのときでした。
「おい!おれをおわすれか?」
チョウが、大鬼のかたにとまってこう言いました。
「鬼さんよ、おれがまだいるぜ。」
そう言うと、チョウは大鬼ににっこりとほほえみました。
「ぎゃああああ!虫だああああ」
むしぎらいの大鬼は、とつぜん大嫌いな虫があらわれたことにあわめふためきました。
「いまだ!やれ!」
ももたろう、イヌ、クマは、いっせいに大鬼に飛びかかりました。ふいをつかれた大鬼は、ももたろうたちのはんげきに、なすすべなくやられてしまいました。
「やった!ついに大鬼をたいじしたぞ!」
ももたろうは高らかにそういいました。
ももたろうたちは、村からうばわれた食べものをもってかえり、鬼たちにとられたものを取り返しました。
こうしてももたろうたちは、おじいさんとおばあさん、それにイヌやクマ、チョウたちといつまでもしあわせにくらしましたとさ。
おしまい。