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いつか青空を見上げて聴くのであろう歌のこと_"BLUE"
パラダイス、と聞いて人は何を思い浮かべるだろうか。理想郷、天国、そんな言葉が思い浮かぶ人もいるかもしれない。
前作"CINEMA PARADISE"に続きパラダイスシリーズ二作目となったミニアルバム"BLUE PARADISE"のタイトル曲、"BLUE"。
今回はそのMVのストーリーを、個人の妄想と思想と拡大解釈たっぷりで解釈し、ムシャムシャ味わっていこうと思う。
※この文章は全部わたしの思想なので実際のMVの物語や意図を限定するものではありません。そう思う人もいるんだなぁ、くらいの気持ちで読んでください。
まずはMV冒頭、何やらボロボロのタイルばりの建物に、EXIT(出口)と書かれたサインが見え、そこに向かうジャンハオの背中が映し出される。サインの下にはBeyond this point lies BLUE REALITY(ここを超えると、そこには悲しい/青い現実がある)の文字があり、何やら不穏な雰囲気である。
EXIT表記であるということは、ジャンハオがいるのは何らかの建物、施設、地域などの『内部』なのだろう。
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次のシーンではデカい邸宅が映し出される。結論から言ってしまうとこれがBLUE PARADISEなのだが、この時点ではその事はわからない。グレートギャツビーみたいで気分が良くなる良い建物である。
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次のシーンで現れるのは水に沈むジャンハオの姿だ。顔がすごい。
が、ここで一つ注意したいのが、『ジャンハオが他メンバーと一緒に沈んでいる姿は確認出来ない』ということだ。つまり、この『ジャンハオの入水シーン』と『他メンバーの入水シーン』が同じ時間軸なのかは分からない。
今回のMVを見ていて全体的に時系列の引っかけというか、トリックが多いなと感じたのだがこれもその一部かもしれないので注意深く見ていこう。
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その後すぐにその他メンバーたちがプールに飛び込む様子が映し出されるが、テレはこのシーンにも、後に出てくる水中の回想シーンにもいないことに留意しておこう。
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そう、テレちゃんがいないのである。
次のシーンでは豪奢な邸宅の内部(ダイニングのようだ)に立つ豪奢なハオちまが映し出される。
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ここで注目したいのは彼の背中にある青い羽の存在だ。MV本編では出てこないシーンだが、ティザー#2のハンビンさんのシーンで背景に映し出されている羽根は根元が青いものだ。これは天使ジャンハオの羽根であると捉えて良いだろう。
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次のシーンでは、このミステリアスでSFチックな世界にある意味不釣り合いな、『警察』という存在が現れる。このシーンで、このBLUE PARADISEの存在する世界には何らかの権力組織があることが読み取れる。
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この警察の登場時、先ほどのプールのシーンでは登場しなかったテレが登場し、何と身を挺してパトカーが『邸宅』に入ることを止めようとする。
パトカーと強く衝突したテレはゲームの世界から『目覚め』、現実世界で待つ8人のメンバーたちに迎えられる。
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また上記のシーンのテレちゃんとハオちまの服で、初めて『服に縫い付けられた青いハート型の穴』という概念が登場することにも注意されたし。
次のシーンで、我々はついにこの”BLUE PARADISE”というゲームの世界を目にすることになる。『LOGIN』というサインからCaptainBinというユーザーネームのハンビンさんが出発し街中を歩いていることから、彼はゲームにログインしたばかりなのだということが推察できる。
だが直ぐにこのゲームはバグだらけであることに気づく。様々な物の軸がずれていてグリッチを起こしていたり、空中に物が浮いていたりする。このゲームは壊れているのだろうか?
さらにハンビンさんの後ろを、なんだか使用目的の分からないロボットが着いていっている。
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次のシーンはBlue is part of you(悲しみ/青はあなたの一部だ)というステートメントから始まり、『SpotlightSeeker』(目立ちたがり屋)という大変に不名誉なユーザーネームを付けられたユジンが登場する。
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この”BLUE PARADISE”の世界はバグでいっぱいだ。繰り返し発生したエラーの後、なんと爆発まで発生している。それにしても人々が指さしているのはなんなのだろう?ここでも疑問が生まれる。
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ここのシーンで、”BLUE PARADISE”の重要なヒントが提示される。
ギュビンの近くに立つNPCの帽子に刺繍された文字はそのまま抽出するならば『双眼鏡・4・家』となるが、これは『search/for(four)/mansion』つまりは『BLUE PARADISEを探せ』という最初の指示がここで出されていたことになり、冒頭で登場した邸宅が”BLUE PARADISE”であることがわかる。
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次のシーンではゲーム用ゴーグルをつけたリッキーが登場するが、このシーンで注目したいのは彼の類まれなる顔面の下半身のうつくしさではなく、同時に映し出される街並みと新聞に書かれた標語だ。
FACE THE BLUE(悲しみ/青と向き合え)
BLUE DAYS:NORMAL DAYS(悲しい日々=普通の日々)
どうやらこのゲームの世界では、悲しみは当たり前のものでありそれと向き合うことを推奨しているらしいことが伺える。
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次のシーンでは、"COME TO FIND PARADISE"(楽園を探しに来て)という看板を掲げた何やら怪しい旅行会社とその受付が登場し、マシューはそこに地図を受け取りに来ている。
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ここで初めて"BLUE PARADISE"の世界全体の地図が登場し、同時に青いモフモフから"Find BLUE"という指示が出される。
ここで気になるのはBLUEが全て大文字表記であり、つまりは何らかの固有名詞を指しているということだ。果たしてBLUEとはなんなのだろう。
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次のシーンではメンバー9人が1箇所に集い、どうやら"BLUE"を探しに行くための作戦会議をしているらしいところがわかる。
物語というのは常に登場人物の『動機』=wantが存在して初めて動くのだが、ここでこのMVにおける9人の動機は『"BLUE"を見つけること』であることが分かる。
ここで注意して欲しいのが、"BLUE"と"BLUE PARADISE"はイコールではないらしいというところだ。理由は後で説明するのでまずはジウンさんの綺麗な顔を見てください。
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サビでは映像だけでなく象徴的な歌詞にも注目したい。
わたしは韓国語が笑けるほど出来ないので以下は全て公式字幕に則ったものであるが、ここニュアンスちょっと違うで、みたいなのあれば是非教えていただきたい。
I wanna run 青い光の君の世界へ
Whoa, touch the clouds
輝く星空の色でこっちへ来て
Go 綺麗だ
僕たちだから
"Touch the clouds"=雲に触れる、は実際には不可能なことだが、ここでは青空や天空を象徴する『青』と共に使われているフレーズだろう。
気になるのは最後の2行、"Go 예뻐 우리잖아"の部分だ。ポジティブなメッセージを含んでいることは確かだが、一体何が綺麗で、『僕たち』とはなんなのか。
サビの途中、ハオが持っていたガラスの球体が割れるシーンも印象的だ。ガラスが割れるというのは不吉さのようなネガティブな意味を持つこともあれば、何らかの形での解放、自由を象徴することもある。
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また特に注目したいのは、地面にゴヌクが寝転がるこのシーンだ。アスファルトの上に書かれた虹からは青が”MISSING”=行方不明になっており、青い人形の影の上にゴヌクが寝転んでいる。
ここで少し気になるのが、抜けている青の部分の太さだ。
赤(red)オレンジ(orange)黄色(yellow)緑(green)青(blue)紫(violet)の6色の虹であると仮定すれば青の部分は上下の色たちと同じ太さになるはずなのだが、明らかに2本分の太さがある上に真ん中で分けられている。
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ここで連想したのが、オリジナルのレインボー・フラッグの配色、そしてプルチックの感情の輪だ。
元々レインボー・フラッグは8色で構成されており、色の全てに意味があった。その後ピンクの布の供給量が少なくなったことから7色になり、最終的に色数を偶数にした結果ターコイズとインディゴがブルー、青としてまとめられるようになった。ここで描かれている虹はその7色の虹と配色が一致する。
オリジナルのレインボー・フラッグではターコイズが『魔法・芸術』インディゴが『静けさ・落ち着き』を表していた。今回のアルバムの神秘的なイメージにぴったりであると言えるだろう。
またプルチックの感情の輪では青は『悲しみ』という一次感情を表すが、同時に『拒絶』『後悔』という二次感情を構成する要素でもある。
地面に描かれた虹の青の部分が太いのは、悲しみの中にある新たな感情、さらに豊かな心の動きを表しているとも言えるのではないだろうか?
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その後ゴヌク本人は手を取られて立ち上がり走っていくが、青い影はその場に止まり続ける。まるでその場から動くことの出来ない、どうしようもない悲しみを象徴するように。
ここで大胆な仮説を立ててみたい。ゲーム世界でのメンバーたち自身が人形の影に表されるように、"BLUE"=悲しみであったとしたらどうだろう?"BLUE PARADISE"という地名が『青い楽園』ではなく『青にとっての楽園』つまりはメンバーたちの象徴する悲しみが解放される場、としても捉えられることになる。
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またバースの最後ではある重要な事実が判明する。それは今までメンバーたちがいた街が『PERFECITY』=『完璧な街』という地名であったということだ。この地名はメテュが受け取っていた地図にも登場するため、9人があの地図の世界にいることが明確になる。
完璧な街という名でありながらバグとエラーの多発する街、それが『PERFECITY』だ。
ここで再度街の標語、"BLUE DAYS=NORMAL DAYS"が出てくるが、上記の仮定を通じてこの標語を解釈してみよう。
『PERFECITY』においてメンバーたちは唯一のアジア系人種であり、見るからに異質な存在である。『悲しい日々とは普通の日々のことだ』『悲しみと向き合おう』と推奨する街は『悲しみ』の象徴であるユジンを『目立ちたがり屋』と呼び、指差し非難しているようにも見える。
そう考えると、ここ『PERFECITY』は『悲しみが悲しみであること』が許されない、ある意味ポジティブさが強制されている街のようにも思えるのである。メンバーたちはそんな街を出て、『悲しみ』の象徴である自分たちの存在によってエラーが発生してしまうことのない、『楽園』を探しにいくのである。
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次のバースはメテュが一人で道を歩くシーンからスタートする。
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このシーンで我々は、どうやらこの"BLUE PARADISE"の世界に入る前、メテュとハンビンさんが喧嘩していたらしいことを学ぶ。
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その後何やら荷物を積んだ車が去っていく描写から、ハンビンさんはメテュを残してあの『秘密基地』を去ったのではないだろうかと考察できる。
ソンハンビンさんはそんなことしない。
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一人になったメテュは気を紛らわそうとするかのように"BLUE PARADISE"をプレイし始める。
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そこにハンビンさんが入ってきて、メテュに気遣うような視線を向けたのち、"CAPTAINBIN"としてログインし一緒にゲームをプレイし始める。
帰ってきてくれるって信じてたよ。
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メテュビンのゲームの中での再会は路上だ。地図を手にして一人で"BLUE PARADISE"探しの旅を続けるメテュの側をハンビンさんの乗った赤い車が通りかかるのだが、ここではそのナンバープレートに注目して欲しい。
『IS THERE REALLY UTOP14』=『ユートピアは本当にあるのか?』と書かれているのである。
ユートピアという言葉は1516年にトマス・モアが著書『ユートピア』で初めて使用した。この本では、新世界の架空の島が描かれ、理想的な社会制度が詳細に記述されている。語源的には、ギリシャ語の「ou」(ない)と「topos」(場所)から派生し、「どこにもない場所」を意味するが、「eutopia」(良い場所)とも関連し、現代英語では理想的な場所として解釈されることが多い。
パラダイスとユートピアは一見よく似た概念に思えるが、実はその語源的にも意味的にも全く違う。『パラダイス』の語源は、古代ペルシア語の「pairi-daēza」、「周囲を囲まれた庭園」を意味し("BLUE PARADISE"の邸宅にも壁に囲まれた庭園がある)、「pairi」(周囲)と「daēza」(壁)から成りたつ。宗教的・精神的な幸福や自然の美しさに焦点を当てることが多いのに対して、『ユートピア』は社会制度や人間の努力による理想的な秩序を重視し、現実的な設計や政治的要素を含む。
ここで社会秩序によって作られた楽園である『ユートピア』に対する疑いが生まれるのである。
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次のシーンでは再び"BLUE PARADISE"探しに戻る。ここは素早く幾つものカットが入るが一つ一つ丁寧に見ていきたい。
まず以下のギュビンとジウンさんのシーンでは、二人の綺麗な顔に注意が逸らされそうになるがゲームゴーグルを通じてゴヌクの見ている画面が共有される。
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左上には"MISSION DIRECTIVE"の文字と"BLUE PARADISE"の世界の地図があることから、この"BLUE PARADISE"探しのミッションを示していることが分かる。次にその下を見てみよう。
【FIND BLUE】
"BLUE"を探せ
YOUR TRUE SELF IS OUT THERE,
本当のあなたがそこにある、
HIDDEN WITHIN THE DEPTHS OF BLUE.
青の深さに隠れて。
THE PATH WON'T BE EASY-TRUSTING
道は簡単ではない、不確実を信じ
UNCERTAIN AND FILLED WITH CHALLENGES,
挑戦に満ちている、
BUT TRUST IN YOURSELF, PUSH FORWARD,
だが自分自身を信じ、前に進み続け、
AND UNCOVER THE ESSENCE OF WHO YOU ARE.
自分とは何かの真髄を見つけよう。
THE ONLY WAY TO WIN IS TO KEEP SEARCHING
勝つための唯一の道は探し続けることだ
TILL YOU FIND YOUR BLUE!
あなたがあなたの青を見つけるまで!
これは"BLUE"探しというミッションを説明したものであると言えるだろう。
メンバーたちが"BLUE PARADISE"を探しているのはそこに『自分自身』を見つけるためでもある。これにより"BLUE"=メンバー説がさらに濃厚になる。続いて画面右側を見てみよう。
ここは背景が白いこともありかなり見づらいのだが、解読できた範囲で考察していきたい。
DETECT LOCATION OF THE
THE CENTRAL
FOUNTAIN WITHIN THE CITY.
街の中にある中央噴水の場所を見つけろ
DETAILS:
詳細:
YOU HAVE TASKED WITH FINDING THE GRAND FOUNTAIN,
あなたには新たなランドマークであり、高等な技術と融和した
A NEW LANDMARK, INTEGRATED WITH ADVANCED TECHNOLOGY.
”グランドファウンテン”を探す任務が与えられました。
THIS STRUCTURE IS VITAL TO THE CITY'S
この建築物は街のエネルギー供給網と
ENERGY GRID AND AI SYSTEMS.
AIシステムに必要不可欠です。
ここでアルバムのカバーにもある『噴水』の存在が提示される。
ここに書かれている噴水とは、MVの最初に出てきた邸宅にある『噴水』であると考えるのが自然だろう。あの噴水は街=『PERFECITY』にエネルギーを共有し、AIシステム(NPCがAIなのだろうか?)を稼働させている存在らしい。
更にここで、本当に一瞬なのだが非常に見覚えのあるオブジェクトが登場する。ジウンさんが使っている電話ボックスである。
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看板の色や電話機の種類こそ違うものの、白い枠と横に渡された棒の数まで、[𝐂𝐈𝐍𝐄𝐌𝐀 𝐏𝐀𝐑𝐀𝐃𝐈𝐒𝐄] ‘__ BAD’ Filmに登場する電話ボックスとそっくりなのである。ここは何らかの関連性、"PARADISE"シリーズを構成するマルチユニバースを繋ぐ存在であると推察できるが、情報が少なすぎるので一旦スルー。"BLUE”に戻ろう。
メンバーたちの"BLUE PARADISE"探しは続く。
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このシーンでは再度地図が示され、既に探索済みの場所が示されている。×がついているところは探したけれど"BLUE PARADISE"は無かった場所ということだろう。
SEARCH AREAS
× BEYOND BLUE JOURNEYS
× PERFECITY
× SKYBOUND FIELDS
+ BLUEHEART COVE(現在地)
* TRAIL OF LIFE
* UTOPIA MANSION
彼らが現在いるのはBLUEHEART COVEだが、ここでも"BLUE PARADISE"は見つからない。メンバーたちは次の目的地であるTRAIL OF LIFEに向かう。
のだが、その前に一つ、お気づきだろうか。
あの邸宅の名前が出ているのである。
UTOPIA MANSIONはその名前からMVに登場する巨大な邸宅で間違いないだろう。だがこのシーンの前で、『IS THERE REALLY UTOP14』というナンバープレートによりユートピアへの懐疑が仄めかされている。これはつまり、あの場所の名前はUTOPIA MANSIONであるが『その本質』はユートピアではない、ということを示している、またはユートピアが与えてくれる幸福への疑いを示しているのではないだろうか?
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メンバーたちは車を走らせ、TRAIL OF LIFE(人生の道のり)を通る。
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ここではPERFECITYでは見られなかった電線や自然な樹木が見られ、PERFECITYと比べるとかなり不完全、素朴な印象だ。
さらに次のカットでは『現実世界』において"BLUE PARADISE"のゲーム機が設置されている、『秘密基地』の様子が示される。
廃墟の中心にはゲーム機が置かれ、それを囲むようにして9人は座っている。
本物の青空の代わりに青空の絵が描かれ、またその場に不似合いな望遠鏡が置かれているのが分かる。
この『秘密基地』の内部構造を覚えておいて欲しい。
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舞台はゲーム内部に戻り、ついにメンバーたちはUTOPIA MANSION、"BLUE PARADISE"のある場所に辿り着く。
だが建物の前にはこのような警告の看板が立っている。
Warning: Without Blue, Time Speeds Up
警告:青が無ければ、時間は速く過ぎる
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ここで不思議になるのが、この警告は誰によるものなのかという点である。
"BLUE PARADISE"であるUTOPIA MANSIONの前に立ててあるのだから建物に入ろうとするメンバーたちに向けられた警告であると読み取れるが、ここでMVの頭で登場した警察の存在を思い出してみよう。
"BLUE PARADISE"に立ち入ること、『悲しみを解放すること』はこの世界では禁止されているのではないだろうか?
だがそんな警告は気にせず、9人は邸宅の中に入る。
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邸宅の中をメンバーたちは好きに探索するが、ここで気になるのがこの邸宅の構造である。
一階部分の広い空間から『窓』へと繋がり、階段で二階に登ることができ、二階にはさらに小さい窓がある。この作りは、現実世界の『秘密基地』と妙に酷似しているのである。
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メンバーたちが邸宅に入ったのち、先ほどの警告通りに時は速く動き始め、時計が猛スピードで回るカットが入る。
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ここで再度サビに入るが、数秒ほどの間に色々起こるので一つづつ注意深く見ていこう。
まずは以下のシーン、邸宅の階段の横には2本の太い柱がある、この構造を覚えておいて欲しい。
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次に9人がグラスを持ち上げ、乾杯をするシーン。ここで、"BLUE"のMV全体において最も意図的であるだろうミスリードが入る。
以下の場面の直後、ガラスが割れる描写が入るのだが、ガラスが割れたのは邸宅内ではないため乾杯のグラスを割ったわけではないのである。
以下はサビ終盤、乾杯をするシーンだ。
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そしてその直後にガラスの割れるカットが入るが、背景をよく見てみて欲しい。この青い配線は邸宅内にあるものではなく、現実世界の『秘密基地』のゲーム機に接続されているものだ。
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これによって再度時系列への混乱が生まれる。ゲーム内の乾杯が現実世界に影響したのだとすれば、割れたのはなんなのだろう。
画面内で割れそうなものを探してみたが残念ながら具体的なオブジェクトは見つけられなかった。だがここまでの文脈から、これは9人が乾杯=団結、友情、祝福や感謝を象徴する行為をしたことによって何かが解放された、自由になったことを象徴していると解釈できる。
ブリッジに入り、9人は邸宅の中にテントを張って中に入る。その周囲には青い羽根が舞っている。これはまた間違いなくエンジェル・はおちまの羽根なのだが、ではなぜこの場面で彼の羽が宙を舞っているのだろうか?
このどこか子どもっぽさの感じられるテントとその中で身を寄せる9人の姿は、なんだか迷子の子ども同士がやっと安らげる場所を見つけて、そこに頼ろうとしているようにも思える。
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次のカット、突然テントは屋外に出ている。え?
ここでは2つの可能性が考えられる。
⑴突然建物が消えた
⑵元々建物は存在しておらず、9人の幻想だった
⑶前のシーンとこのシーンは時系列的に繋がっていない
⑴だとあまりに急すぎるし、⑵は後ほど説明する場面によって否定できるので、ここは⑶、邸宅の中でテントを張った夜と、テントが外にある夜は別の時間線の出来事であると考えるのが自然だろう。
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次のカットでは草むらの中にゲーム機と椅子が置かれ、メンバーたちはそこでゲームをプレイしている。ここでのテントは上で登場した『邸宅の外にあるテント』と同じ時間軸であると考えられるだろう。
ここにいる9人のメンバーとゲームの中でテントに入ったメンバーたちが同一個体なのか否かは、『テントの中にメンバーたちがいるのか』が確認できない、言うなればシュレディンガーのZB1になっているため確実なことは言えない。
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ここからMVの物語にとってとても大切なフェーズに入る。
Baby what if there is a way?=もしも『方法』があったとしたら?と問いかける歌詞からスタートする次のカットから、画面の比率が変わっているのである。この3:4の画面で映される光景は、全て今までのストーリーの過去、もしくは未来ととにかく異なる時間軸で発生したことだと言えるだろう。幾つか重要なシーンを見てみよう。
まず最も意味深なのが、廃墟の中で地面に落ちた燃える薔薇を見つめる片羽の天使・ジャンハオだ。
天使の羽が捥げる・傷つく描写は、伝統的なキリスト教美術の文脈では主に堕天や不完全さを意味する。
更にここで気になるのが、奥の廃墟の構造である。一階から二階へと登るエスカレーター(階段)二階の足場、二本の太い柱。ゲーム内で登場する邸宅に酷似しているとは思わないだろうか?
これによってあの邸宅がそもそも存在しないものである、という説は否定される。
MVの始め、完全な翼を持つジャンハオと豪奢な邸宅が『過去』のものであり、この廃墟が『その後』であるとすれば、ジャンハオは"BLUE PARADISE"世界における権力に盾付き、その力=羽を奪われた、と解釈できる。ジャンハオは一体何をしたのか、それはこの後考察していきたい。
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”BLUE”の時系列は複雑に絡み合っていて、どれが過去の出来事でどれが現在の出来事なのかを明確に読み取ることは難しい。
”BLUE”のラストシーンが『現在』であると仮定するならば、
ジャンハオが一人でUTOPIA MANSIONの邸宅にいた時(完全な天使の姿)
↓
廃墟と隻翼の天使の姿
↓
廃墟をZB1が見つける?ZB1との出会い
↓
"BLUE PARADISE"探しの旅
↓
"BLUE PARADISE"の発見
↓
『警察』の登場
↓
全員が天使になる、又は元々持っていた力を剥奪される(邸宅内に羽が舞うシーン)
↓
砂浜という新たな"BLUE PARADISE"の発見
と考えられるが、この時系列は完全だとは思えない。これは”BLUE”に無理やりにハッピーエンドとしての物語を与えた形であり、あの物語の結末が『9人で見つける"BLUE PARADISE"』ではないとすれば、8人を失ったことでジャンハオが不完全になり、隻翼となった可能性も考えられるのだ。
だが前者の方が『警察』そして"BLUE PARADISE"世界における機械、ロボット、権力の存在に沿う仮定なのでとりあえずそういうことで話を進める。
次に、壁の前で涙を流すリッキーのシーンだ。
泣くなーヨシヨシとなるがそれは一度おいておいて、背景には多くの"BLUE PARADISE"に関するフレーム、単語が書かれている。その中で気になるものが右上にある、”Longitude 90°0'1"E”だ。
Longitude=経度のことなのでこの数字は何らかの座標を表していると考えられる。経度に対応する緯度、Latitudeの表記を探したが残念ながらそれは見つけられなかった。が、仮に緯度の数字にZB1とって重要な、または意味のある日付を当てはめてみるとしよう。
23°7'10"(デビュー日)25°2'24"(アルバム発売日)など入れてみると、どれも場所は違うのだが全て東ヒマラヤ地域に当てはまる。
東ヒマラヤ地域には何があるか、シャングリラがあるのである。
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シャングリラとは1933年にイギリスの作家ジェームズ・ヒルトンが発表した小説『失われた地平線(Lost Horizon)』に登場する架空の場所が由来の、理想郷や楽園を意味する言葉だ。
物語全体が『楽園』というテーマを中心にして回っているこの”BLUE”において、この経度の表記が偶然であるとは考えづらい。
このブリッジパートにおいて、メンバーたちの『孤独』が強調されるようなカットが多いのは、一人一人が向き合って飲み込もうとする”BLUE”、悲しみの重さを表しているのではないだろうか。何度も繰り返される”Can you remember days when the sky so blue”という歌詞も、まるでいつか過去に見た素晴らしい、けれど悲しさを纏う記憶を何度も何度も繰り返し再生しようとしているように思える。
ラスサビ直前にはメンバーたちは"BLUE PARADISE"をプレイすることを止め、全員がどこかに向かおうとしている。
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意味深なシーンは続く。星形に並んだメンバーたちと、彼らを探すように空から浴びせられるレーザーライトの光。
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次のシーンでは砂浜に星を作るメンバーたちが現れ、この『星』が何かを表していることが推察できる。星といえばやはり思い出すのはBOYS PLANETだろう。星を探し、星を作り出す。『あの時出会えなかったら』という歌詞は、オーディション番組の中でそれぞれと、そしてファンと出会わなかったイフを歌っているようにも聞こえる。
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ラスサビと共に物語は急展開を迎える。今まで彼らがいた『現実世界』の『秘密基地』はハリボテであったことが分かり、9人はそれを壊して砂浜と青空の眩しい海岸へと飛び出すのだ。
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砂浜での9人は解放され、自由に踊りながら歌う。と同時に気になるのが、一見『パラダイス』を見つけたかに思われた彼らの胸には、それでも青いハート型の穴が空いたままなのである。
つまりこの歌は、『悲しみを悲しみのまま、美しいものとして愛すること』を歌った歌なのではないだろうか、というのがわたしの解釈だ。
無理に悲しみと向き合い、それが人生だと諦める必要はない。幸福だけが欲しいと『楽園』を探しても良いのだし、そこで速く過ぎ去る時間のために躊躇う必要もない。
そうして幸福な時間が終わってしまって、悲しみに胸にぽっかりと穴が空いたとしても、それでも良いのだ。
きっと本物の楽園などなくて、永遠に続く幸福は約束されることはないけれど、わたしたちは一緒にいたし、旅をして、青空を見上げたことを覚えている。
悲しいのはわたしたちがそれを、心の底から愛していたからなんじゃないだろうか。
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曲の最後、飛び起きたソンハンビンさんの身体はあの秘密基地にいる。9人はゲームを介す必要なく目を見て笑い、幸せそうな空間だ。
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3分18秒のMVは最後、"In Blue, We Bloom."=『悲しみ/青の中で僕たちは咲く』という言葉と、"BLUE PARADISE"の電源がオフになるシーンで締めくくられる。
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ジャンハオが物語の中で犯した『罪』を、わたしは冒頭の”EXIT”(Beyond this point lies BLUE REALITY)から出て行ったことなのではないかと思う。彼は何かの内側、つまりは壁に囲まれた『パラダイス』にいた。しかしジャンハオは悲しい現実の待つ現実に出ていくことを選び、その楽園を壊した。
その他8人の『罪』は、これは完全に推測なのだが、"PERFECITY"を壊したことにあるのではないかと思う。
こいつを覚えていらっしゃるだろうか。
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これは"BLUE PARADISE"を探せというミッションに出てきた、"PERFECITY"の継続に関わる重大なエネルギー源らしいのだが、左側の月のようなモニュメントをわたしたちはついぞ見ることがない。
邸宅にあった噴水にも月のモニュメントは見られず、あの噴水がミッションにて示されたこのエネルギー源であるかどうかはわからない。が、このマークが唯一はっきりと表示されるのが、"BLUE PARADISE"のゲーム画面だ。
もしも9人の乾杯のシーンで割れたガラスが、ZB1がこの『噴水』を壊し、悲しみを受け入れ日常のものとして扱うことを強制する"PERFECITY"を崩壊させたことを示唆していたとしたら?
そりゃ警察もバチクソに怒るだろう。
今回"BLUE"を聴いて、爽やかで神秘的ではあるが、同時にどこか別れや喪失を想起させる曲だと強く感じた。メンバーたちは悲しみを当たり前のことだ、受け入れて前に進もうと言うのではなく、その悲しみもまた美しい、僕らの歌なのだから、と歌う。なんだかそれは、ZB1というグループそのものに常に付いて回る出会いと別れの物語を、仕方のないことだと諦めて受け入れようとするのではなく、心から悲しんでも良いのだ、その悲しみを自由に解き放つ『楽園』の在り方もあるのだ、と言ってくれているようにわたしには感じられた。
だからもしかすればわたしは、今からもう少し経った頃、青空を見上げながらこの歌を聴いて、真っ青な季節を運んできた9人のことを、星空と共に走ってきて、青い光の世界で出会った彼らのことを思い出して少し泣くのかもしれない。大好きだから、悲しいのだ。
そうしてその悲しさが何の前進力にもならないこと、翼を折ってしまうこと、完璧な調和を崩すものであることも、全ては愛なのだと、そう思う。
"これまでに私が見つめていた舞台上の人々を思い浮かべる。その輝く才能と他の追随を許さない魅力を、過ぎ去っていくに違いない瞬間を共にしたと信じていた切ない気持ちを。私が目撃した華やかさを証言せずにはいられないもどかしさを。そういう気持ちを大切にし、長く見守ることについて考える"