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『タロウのバカ』を見た

11月9日、アップリンク渋谷で『タロウのバカ』を見た。
『まほろ駅前』シリーズや『セトウツミ』を手がけた大森立嗣監督の作品。菅田将暉、仲野太賀、YOSHIの3人が動物の被り物を被った意味のわからないビジュアルを見た時から、頭の片隅でずっと気になっていた映画だった。

【あらすじ】
主人公の少年タロウには名前がない。戸籍すらなく、一度も学校に通ったことがない。そんな“何者でもない”タロウには、エージ、スギオという高校生の仲間がいる。エージ、スギオはそれぞれやるせない悩みを抱えているが、なぜかタロウとつるんでいるときは心を解き放たれる。大きな川が流れ、頭上を高速道路が走り、空虚なほどだだっ広い町を、3人はあてどなく走り回り、その奔放な日々に自由を感じている。しかし、偶然にも一丁の拳銃を手に入れたことをきっかけに、彼らはそれまで目を背けていた過酷な現実に向き合うこととなる・・・。
https://filmarks.com/movies/79589

見ないといけない映画だと思いながらも、ずっと見に行けなかった。ネタバレしない程度にレビューを見ていると、あまりにも「死」のにおいが鼻につくようで。最近、家族の病気のことともかあって、ちょっとそっち側にいく気分じゃなかった。確実に体力が奪われるから、心身ともに万全な体制で行かないと。と。

土曜日、自宅での作業を終え「映画でも見るか」くらいの余裕と時間ができた。『タロウのバカ』で検索をかけると、ちょうど1時間後にアップリンク渋谷で上映とのこと。大好きなアップリンク。その時は来た。今日だ、間違い無く今日がこの映画を見る日だ。

すぐにチケットを予約し、渋谷へと急ぐ。上映5分前に会場に入り、デッキチェアに座る。リラックス、リラックス。今日ほどデッキチェアで良かったと思った日はないほど、これからこの映画を見ることに期待と不安を感じていた。

6分間の予告を終え、すぐに映画は始まった。奥野瑛太演じる半グレと國村隼演じるヤクザ。狭い部屋に隠された多くの障害者たち。大量の血を流す瀕死の人。ピストル。意味のないものは死ねばいい。ふるさと。そしてあっけらかんと殺される國村隼演じるヤクザ。

もうこの時点で帰りたくてたまらなかった。耐えられない。絶対に2時間耐えられない。

なぜかって。普段目を背けて生きているものがほんの10分程度で襲ってきたからだ。死とか、障害とか、病気とか。考えているふりをしているけど、実際はまだそこまで向き合わないといけない人生を送っていない。障害者に対して「意味のないものは死ねばいい」といってピストルを鳴らす半グレの方がよっぽど真剣に向き合っているのかもしれない。やり方は間違ってるけど。

だから、10分後、この物語の主人公である「タロウ」が画面に映った瞬間、少し救われた気がした。「生」を感じられる。半目にして、見て見ぬ振りをしていた目を再びしっかりと開けることができた。

YOSHI演じるタロウは学校に通ったことがない。あまりの精神年齢の低さに「この子幾つの設定なんだろう。。。」と普通に心配になっていた。菅田将暉演じる「エージ」は、どうやら柔道の道からドロップアウトしたよう。仲野太賀演じる「スギオ」は二人と絡みながらも、最も普通の高校生だった。

ザリガニを釣って遊んでいた3人が、拳銃を手に入れてしまったことで不幸な無敵となってしまう。なんだってできるぜ。吉野、殺しちゃおうか。
ただただ簡単な快楽に逃げることで、意味のない「生」を楽しんでいた。

一瞬消えたはずの「死」のにおいが、再びやってきた。「死」が見えると、「生」を意識する。生きてる人より死んでる人の方が多いのに、なんで今自分は生きているのか?人はその意味を求める。

「死」のにおいは、最後まで続いてしまった。

見終わった後、心がえぐられるってこういうこと。と思うほど体の中心に空虚なくぼみを感じた。物理的は嘘である。好きな人を考えると胸が痛いってやつ。それの胸糞悪いバージョンと考えていただければ。どうだろう、伝わるかな。

イかれた高校生、ネグレスト、ピストル、自殺、障害者、売春、窃盗、、とにかくもう二度とこの映画を見たくないと思った。けれど、その全てが日本のどこかで起こっている。

日本は安全な国。今は戦争もない。ラグビーW杯では、会場で無くしたケータイが戻ってきたと外国人が日本の治安に感動していたという。けれど、この映画で描かれたことが、日本のどこかで起こっている。

映画をはじめとしたコンテンツというものは、誰かの背中を押したり、自己投影したり、都合よく不幸を押し付けることで(たとえ微々たる力でも)前を向けるものであると思っている。だが、この映画ではだれも救われて欲しくない。この映画で救われる人はいて欲しくない。残念ながら救われる人はいるだろうし、さらに残念ながらそのような人たちにはこの映画は届かないんだと思う。

きっと私はこれからも目を背ける。同じような状況に、半目になってしまうだろう。せめて、そんな自分に対する絶望とどうしようもなさにだけは向き合いたいから、絶対にこの映画を見たことを忘れない。

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えりんこ
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