カトラリーの旅

長年、気取った朝食を食べるのが夢だった。
新しいモダンなホテルにある半屋外の朝食会場。そこからは敷地内にある整えられたお庭とその奥には自然の広大な湖や山が見える。今日の朝は少し冷たくて気持ちの良い風が吹き、空は高く青い。雲が少し出ている。色とりどりの野菜が美しいワンプレートにのって運ばれてくる。銀色の輝く、うっとりした形のカトラリーで、そのカラフルな野菜たちを美味しく食べる。
建家はさておき、こんな朝食を自分で再現して、幸せな朝時間を過ごすことが夢というか目標である。

色とりどりの野菜サラダは私の得意料理。そしてお皿はもう準備してある。残りはカトラリーだ。すてきなお皿はどこにでも売っているが、店頭で実際に販売しているカトラリーの種類は、お皿と比較すると圧倒的に少ない。私の手にあった、且つシルエットが美しいものを探している。

カトラリーが置いていそうな近所のショップへ赴き、全て手に取って重心位置、触り心地、ナイフにはノコバがあるか、美しいか。。。。
どれもぱっとしない。
何件もはしごしたが、これというものがなかった。 流行りのクチポールも、私には重くてしっくりこなかった。柳宗理やイッタラのカトラリーもぼってりしすぎていて好みではなかった。
少し遠いけれど、百貨店に足をのばすことにした。

ノリタケのテナントがあった。カトラリーが何種類か置いてある。ちょっときれいだなと思う形状のシリーズがあったので、手に取って使用感をシミュレーションしてみた。渋めのベテラン感が漂う店員さんは遠くから私のことを観察しているが、かなり真面目に選定していることを察してか、話しかけては来ない。
今まで見てきた中では、まぁこれでもいいかなというカトラリーを発見した。ただ、私は「これでいいかな」ではなく、「これがいい」を探している。でも今まで何件も何十個もカトラリーを見てきた中で、「これでもいい」とすら思うものは無かった。
妥協するのか?
フォークとナイフ合わせて3,000円もしなかったので、試しに買ってみることにしよう。
レジに行こうと振り返ると、先ほどの渋い店員さんが背後にいて、「そちらになさいますか」といってカトラリーを預かり、レジへ運んでいった。
「ホテルにも採用されている人気のシリーズなんですよ」
「そうなんですか。耐久性はばっちりですね」
「開発の裏話ですが、女性が使用した時に、細くて華奢な手元がより美しくなるようにつくられたものです。」
「そうなんですか、使うのが楽しみです」

私が探していたのは、ホテルで使われているような、朝食を美しく演出してくれるようなカトラリー。
その店員さんとの会話で、「これでいいかな」が「これがいい」思える買い物となった。
安直すぎだろ私、とも思うが、
渋い店員さんのおかげで、気持ちよく買い物できたし、
そのカトラリーを使うたびに会話を思い出して、
朝食の時間がよりいっそう素敵に演出されることができるようになった。
すごいな、あの店員さん。ありがとう。

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